ホルモンの働きを見ていくと、ヒトの進化の過程で必要に応じて発展してきたことが浮かび上がってきます。そして、なぜ現代病とも呼ばれる疾患が増えているのかも明らかになってきます。神戸大学大学院医学研究科 糖尿病分泌内科学 准教授の高橋裕先生に下垂体腺腫治療の注意点やホルモンとヒトとのかかわりについてお話を伺いました。
下垂体の手術は顕微鏡や内視鏡を使った手術が一般に行われていますが、手術が専門的なため、熟練した医師の数は限られています。手術を行っている病院は全国にたくさんありますが、欧米の報告では年間50例以上手がけている病院とそれ以下の病院では、手術成績や合併症の数に差があるという結果が出ています。私が患者さんに手術を勧めるときには、必ず下垂体腫瘍手術の経験豊富な病院で手術を行ってくださいということを伝えています。
現在、下垂体腺腫における新しい治療薬の開発が次々に進んでいます。最近、クッシング病、先端巨大症の治療薬として新たなソマトスタチンアナログであるパシレオチドが使えるようになりました。また、先端巨大症の治療薬であるオクトレオチド、ランレオチド、パシレオチドは、毎月注射をしなければいけないという負担がありますが、現在注射に代わる飲み薬の開発も進んでおり、患者さんのQOL向上が見込まれます。このような薬物療法には高額なものもありますが、さいわい機能性下垂体腺腫や下垂体機能低下症は国の指定難病に認定されており医療費が収入によって助成されますので、専門医に必要な検査を受けた上で申請について相談して下さい。
一方で、先端巨大症の一部では治療が難しいことがありますし、クッシング病ではまだまだよりよい薬が必要な状況です。ですから、私たちは、このような難治性下垂体腺腫の治療方法につながるさらによい薬をつくることを研究の目標に掲げています。私たちは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)や腫瘍を培養する技術(オルガノド)を応用して、有効な薬剤を効率的にスクリーニング(ふるい分け)する方法について検討を進めています。
近年、ホルモンと疾患のかかわりがどんどん解明されています。そのなかでも私たちは、ホルモンとヒトの進化とのかかわりについての研究も進めています。ヒトがヒトたる由縁(ゆえん)は、他の動物と異なりコミュニケーションをとり、集団生活が送れる社会を築いてきたことです。そこでは下垂体後葉から分泌されるオキシトシンが重要な役割を果たしています。オキシトシンはもともと母性本能に重要ですが、ヒトとヒトとの信頼関係やコミュニケーションに重要であることがわかってきました。
また、ヒトの歴史のほとんどは飢餓との闘いでした。そのような過程を生き延びてきた結果、体にとって必要な塩分や糖分・脂肪分をおいしいと感じ体内に蓄えるように報酬系というシステムが進化するとともにホルモンが栄養分を調節するような仕組みになっています。例えば、血糖を下げるホルモンはインスリンしかありませんが、血糖をあげるホルモンはカテコラミン、グルカゴン、成長ホルモン、コルチゾールと少なくとも4種類あり、飢餓状態の血糖値を維持してきました。
ところが、今では空腹に耐えることなく簡単に美味しい食事やスイーツが手に入るようになり、つい食べ過ぎてしまう状況が、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を引き起こします。このように飢餓に耐えるために適応してきた身体が飽食の時代になって、肥満、糖尿病や高血圧などの現代病が生まれたと考えられています。逆に飢餓に耐えるために適応してきた身体にとっては腹八分目にすることや運動を行うことが健康のために重要であるということを意味しています。
このようにホルモンとヒトの進化の関係をさらに明らかにすることによって、疾患の理解や原因、治療法の解明にもつながると考えています。
奈良県立医科大学 糖尿病・内分泌内科学講座 教授
奈良県立医科大学 糖尿病・内分泌内科学講座 教授
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・内分泌代謝科指導医日本糖尿病学会 糖尿病専門医・糖尿病研修指導医
日本の間脳下垂体疾患診療、研究におけるフロントランナーの1人。厚労省班会議における間脳下垂体疾患診断ガイドライン作成に関わる一方、研究においては成長ホルモン分子異常症による低身長症、成人成長ホルモン分泌不全症における非アルコール性脂肪性肝炎、下垂体機能低下症の原因となる日本初の新たな疾患「抗PIT-1抗体症候群」など新しい疾患概念を次々と提唱してきた。内分泌代謝科の専門医師の育成にも尽力している。現在は分子生物学的アプローチ、疾患特異的iPS細胞を用いた下垂体腫瘍、機能低下症など下垂体疾患の原因解明と創薬を目指した研究を進めている。
高橋 裕 先生の所属医療機関
関連の医療相談が5件あります
食後の空腹感と疲労感、目のかすみぼやけ
3日ほど前から食後なのに1時間半から2時間後くらいに空腹感になります。また同時に疲労感、怠さが合わせて出ます。そのままにすると体が冷えていく感覚になり、ぼーっとする、無気力になります。 そして目のかすみとぼやけもあります。右のみです。 ネットで検索すると糖尿病と出てきました。私の父が糖尿病で今薬を飲んでいます。 私も糖尿病を発症したのでしょうか? ちなみに昨年出産をして、体重が14キロ程減りました。食べ物も甘いものが異常に欲しくなりチョコレートを食べると止まらなくなる、飲み物もお茶よりもジュースが飲みやすくなりよくジュースを飲んでしまいます。
多発性内分泌腫瘍症について
昨年の9月に尿管結石になり内視鏡で手術を受けました。その際に受けた血液検査で甲状腺に関する数値が異常なため詳しく調べるようにと内分泌科を紹介され受診していました。その後検査にて副甲状腺機能亢進症の診断を受けましたが。下垂体に関する数値?も調べることになりできもの(腫瘍)があるとのことで、多発性内分泌腫瘍症と診断を受けました。初めて聞いた病名です。 まずは副甲状腺を全て摘出する手術を受けるようにすすめられています。副甲状腺を切除しても、この病気は治らないのでしょうか?手術をしても良くならないのに手術を受けたほうがいいのでしょうか?身体に傷をつけるのが怖いというのが本音です。手術しなければどうなってしまうのかもわからず不安です。
骨盤のあたりが痛く、痛み止めが効いてきません
産後二ヶ月で、右の股関節が痛くなり整形外科を受診しました。レントゲンに異常はないためリハビリをして筋肉を柔らかくしていこうということになりました。リハビリの先生から骨盤が前後に傾いている、左の方が後ろに傾いているといわれ軽い運動を教えてもらいました。 2日間運動を子供をあやすついでにおこなっていましたら、3日目の朝に左の骨盤のあたりに激痛がありました。痛み止めを飲んでも効かず、子供の世話もありゆっくり休んでいられません。 何かよい体位やストレッチがあれば教えていただきたいです。
下垂体腺腫について
症状としては、 頻脈(100以上)、動悸、暑い(この時期でもストーブなしで半袖短パンで平気)、体重減少(4ヶ月で3kg)、抑うつ、微熱(37.5℃付近の継続)、頭痛、疲労感です。 11/18に内分泌内科にて( )内を基準値とし、 FT3 8.8(2.4~4.5) FT4 1.3(1.0~1.7) TSH 1.35(0.56~4.30) TSHレセプター抗体第三世代 1.4(0.0~1.9) 甲状腺のエコーでは、痛みがなく軽い甲状腺肥大を認めるものでした。 また、橋本病患者に見られる 抗サイログロブリン抗体 292(0~27) 抗ペルオキシダーゼ抗体 600(0~15) でした。 そして12/16に再度内分泌内科にて FT3 8.4(2.4~4.5) FT4 1.3(1.0~1.7) TSH 3.42(0.56~4.30) でした。その医師によると基準値を超えていたFT3が少し下がったので無痛性甲状腺炎とみていいでしょう みたいなことになって放置されていますが、治る気配はありません。 個人的に納得がいかず調べていると、下垂体腺腫のうちのTSH産生腫瘍に辿り着きました。 甲状腺機能亢進が軽度~中等度なのに、TSHは正常値~弱高度 びまん性甲状腺肥大 頭痛、視野障害や視力低下 がTSH産生腫瘍によくある事だと書いてあります。頭痛は2日に1度の高頻度でなっており、眼科には行ってませんが視力は確かに低下しており、視野もこめかみあたりの延長線上は遠近関係なく見えません。 人の視野は若干後ろまで見えると聞いたことあるのでもしかしたら少しずつ欠けて来てるのかな?とも思いました。 両耳側半盲だといきなり半分見えなくなるのでしょうか?それとも外側から徐々に欠けくるのですか? また、FT4は基準値内で基準値のなかではやや高値ではありますが、このFT4の数値とFT3高値の場合でもTSH産生腫瘍の可能性はあるのでしょうか? MRI以外の状態がほとんど全て当てはまるので気になりました。 2月にまた検査がありますがおそらく無痛性甲状腺炎で経過観察になる気がしてます。その場合はこちらから下垂体腺腫の可能性はないのかと聞いてもいいのですか? 下垂体腺腫の中でも症例が少なくて回答しにくいとは思いますがどうかよろしくお願いします。
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