インタビュー

川崎病の合併症とは-大きな冠動脈瘤が生じる危険

川崎病の合併症とは-大きな冠動脈瘤が生じる危険
(故)佐地 勉 先生

東邦大学医学部 心血管病研究先端統合講座 教授

(故)佐地 勉 先生

この記事の最終更新は2016年02月23日です。

発熱や発疹など、川崎病の主要な症状は通常1~2週間で治まっていきます。しかし、発見や治療が遅れて合併症を併発してしまうと、成人後も通院や薬による治療が必要な後遺症が残ることがあります。本記事では、川崎病の合併症である冠動脈瘤について、東邦大学医療センター・大森病院小児科教授の佐地勉先生にお話しいただきました。

提供:PIXTA

川崎病に罹患すると全身の血管に炎症が起こるため、全身のあらゆる臓器に合併症が生じる可能性があります。その中でも特に注意すべきは、冠動脈瘤(かんどうみゃくりゅう)や冠動脈拡張など、冠動脈の炎症により起こる疾患です。冠動脈とは心臓の筋肉である「心筋」へと酸素や栄養を届ける重要な血管です。この冠動脈が拡張したり、血管壁に炎症が起きて瘤(こぶ)ができると、その前後で血管が狭くなったり血栓により血管が詰まってしまうこともあります。どのような冠動脈瘤がなぜ生命に危険をもたらすのか、次項で具体的にご説明します。

川崎病の急性期の症状は、通常1~2週間程度で治まります。しかし、急性期の炎症によって冠動脈が著しく障害され、直径8mm以上の巨大瘤(きょだいりゅう)が形成されると後遺症として残ってしまうことが多く、長期にわたる治療を要することになります。また、直径4~8mm未満の中等度の冠動脈瘤ができた場合も後遺症として残るケースがあります。

※中等度の冠動脈瘤は自然退縮することもあります。なお、直径4mm未満の小さな冠動脈瘤の多くは1~2年ほどで自然退縮します。

巨大な冠動脈瘤の内部では血栓や狭窄性病変が形成されたり、血管壁が硬く石灰化することも多く、心臓への必要な血液の供給が妨げられることに繋がります。これが、時には生死を左右することもある、狭心症心筋梗塞(心筋の壊死)を引き起こす原因となるのです。

現在は川崎病の患者さんに上記のような後遺症が残る頻度は減りました。しかし、川崎病が発見される前(1967年以前)におそらく川崎病に罹患したと考えられる方で、冠動脈瘤を抱えている患者さんなども実際にいらっしゃいます。冠動脈はたとえるならば「スパゲッティ」ほどの太さの動脈ですが、この患者さんの冠動脈には「足の親指」ほどの大きさの巨大瘤ができており、瘤の内部には血栓や石灰化がみられました。

冠動脈は大きく3本あります。前項の患者さんの場合は、右の冠動脈に瘤ができており、左の冠動脈から血液が少量ながら供給されているといった状況でした。しかし、中には3本の冠動脈全てに瘤ができて血管が狭窄(狭くなること)してしまっているという例もあります。これは非常に危険なケースですので、血管を広げる治療を行わねばなりません。川崎病に合併して生じる冠動脈瘤の場合、血管がただ狭くなるのではなく血管壁が石灰化して石のように硬くなってしまうため、先端にダイヤモンドがついた高速回転ドリル「ロータブレーター」を使用して、硬化した血管壁を削るといった処置が必要になります。このように、単純な動脈硬化に対する血行再建術とは異なり、治療の難易度も上がってしまいます。

このほか、幼少期に合併症を患って以来、定期検診を受け続けている30代の患者さんもいらっしゃいます。後遺症が残ってしまった場合、罹患した後は1~2か月ごとに経過をみて、その後3年間は2~3か月に一回の通院と薬の内服が必要になります。薬の内服は、高校生や大学生、社会人になろうと、忘れずに続けねばなりません。このように、幼少期に罹患した川崎病の治療時に後遺症を残してしまうと、その方は一生病気と付き合っていかねばならなくなってしまうのです。ですから、川崎病の治療にあたるときには、症状が急激に現れる最初の1週間に、川崎病自体の症状も抑えるだけでなく後遺症も残さないようにと慎重に治療することが大切です。治療法については、次の記事「川崎病の治療法と入院期間」以降で詳しくお話しします。

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