インタビュー

産科DICとは。新しいタイプの産科DICが増加する理由

産科DICとは。新しいタイプの産科DICが増加する理由
光山 聡 先生

東京都立多摩総合医療センター 産婦人科非常勤医師(前産婦人科部長)

光山 聡 先生

この記事の最終更新は2016年04月21日です。

播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation)とは、何らかの原因によって血管内にて血液が凝固し、細小血管が詰まってしまう状態です。このうち妊婦さんにみられる基礎疾患(分娩時産道裂傷、弛緩出血前置胎盤常位胎盤早期剥離、羊水塞栓症など)を要因として起こるDICを、産科DICといいます。産科DICとはどのような病気なのでしょうか。東京都立多摩総合医療センター 産婦人科部長の光山聡先生にご説明していただきました。

DIC播種性血管内凝固症候群:disseminated intravascular coagulation)とは、本来血液が凝固しないはずの血管内で、何らかの原因により血液が固まってしまい、全身の細小血管に細かな血栓が次々と作られてしまう症候群です。血栓が臓器の血管中に発生すると腎不全などの臓器障害を引き起こします。

DICが起こる原因は、主に①血液に何らかの凝固促進物質が入って起こるDIC、②大量出血を起こして、凝固因子が不足して起こるものの2種類が考えられています。

産科DICとは、妊娠中および分娩時の疾患が原因となって起こるDICのことをいいます。

産科DICは通常のDICと異なり突発的に発生し、急激に症状が悪化します。そのため診断にも時間的余裕がありません。

産科DICを分類すると、大きく2つに分けられます。ひとつは出血からDICを発症するタイプで、もうひとつはDICから出血をきたすタイプです。

出血からDICを発症するタイプでは、血管が何らかの原因によって断裂してしまったことから大量出血を引き起こし、血液を凝固するための因子が足りなくなってDICを引き起こします。前置胎盤、分娩時産道裂傷、弛緩出血子宮破裂、帝王切開時の縫合不全などが原因になると考えられています。

一方、DICから出血をきたすタイプでは、常位胎盤早期剥離や羊水塞栓症などの疾患が原因となり、短時間に大量出血となることが多いです。

さらに最近提唱されている新たな疾患概念として子宮型羊水塞栓症があります。

子宮型羊水塞栓症では、分娩後にさらさらとした血が性器から出て、非常に重度の子宮弛緩(子宮筋が収縮しない状態)がみられます。それにより多量の弛緩出血(分娩が終わった後も子宮筋が十分に収縮しないために、胎盤が剥がれた面に開いている血管が締まりきらず、大量出血する)が起こってしまいます。

この原因は子宮の血管の中に羊水が流入すること(羊水塞栓症)で、羊水流入によってDICを引き起こしたり、子宮筋に変化を起こしてしまいます。

DICは急速に進行し、全身の血管に血栓が作られてしまいます。DICが起きた後には微小な血栓が肝臓、腎臓に詰まってくるため、二次的なものとして腎臓などの臓器が障害されてしまい、腎不全や肝不全を起こすと考えられます。

また、呼吸不全も起こります。その原因のひとつには上記の通り血栓が生じることも考えられますし、古典的な羊水塞栓(詳細は記事3『羊水塞栓症と産科DICの関係 DIC型後産期出血は羊水塞栓症から起こりうる?』)の場合には肺毛細血管に様々な胎児成分(赤ちゃんの老廃物や体毛など)が詰まることによっても起こります。肺毛細血管に詰まった胎児成分は除去が困難であるため、危険な状態です。

産科DICを起こしてしまうと、最悪の場合子宮の全摘も考えなければなりません。通常のDICと産科DICの大きな違いは、子宮全摘を最終手段として考えねばならないところにあります。

DICの診断には血液検査が不可欠で、そのうちDダイマー、FDP、血算の3つが重要な項目です。Dダイマー、FDPはDICマーカー(DICの可能性を調べるマーカー)とされています。大学病院や総合病院以外で迅速な検査をするのはそう簡単とはいえませんが、簡易測定器があれば診療所でも設置可能です。

子宮型羊水塞栓症の疑いがあるときは採血を行い、日本産婦人科医会血清事業認定施設(浜松医科大学)へサンプルを送ります。

ただし臨床症状が子宮型羊水塞栓症であっても、全ての方が検査で陽性となるとは限りません。子宮型羊水塞栓症ではアレルギー反応で子宮全体が柔らかくなってしまうとされています。そのため、子宮を摘出した場合に子宮筋を染色すると、子宮に変化を起こした物質が証明されます。

出血多量の状態でDICが疑われるときは、ガイドラインに沿って治療を行います。

胎児の娩出と並行して、抗ショック療法、抗DIC療法が行われます。

抗ショック療法では、何とかして血圧を保つことが求められます。基本的にはドーパミンや副腎皮質ステロイド、酸素、乳酸加リンゲル液、ウリナスタチンなど様々な薬剤や輸液を投与します。出血があまりにも多くショック状態に陥っているときは、救命センターで対応していただくこともあります。その後、補充療法として濃厚赤血球・新鮮凍結血漿・濃厚血小板・アンチトロンビンⅢ製剤を投与し、酵素阻害療法としてセリンプロテアーゼ阻害薬という薬剤を投与します。

また、子宮の収縮機能を取り戻すための措置(子宮収縮剤の投与)も行います。これは子宮の収縮を取り戻すことが目的です。子宮筋には血管が通っていて、子宮筋の収縮により血管が閉じます。子宮筋が緩んだままだと弛緩出血の可能性が高まり、DICを改善できません。

冷やすことも子宮の収縮を得るために有効な方法です。マッサージや、普通のお産ならばアイスノンを当てることも効果があります。帝王切開時に収縮が十分でなければ、清潔なバッグに氷を入れて、子宮を直接冷やす方法もとられます。

また子宮腔内にバルーンを挿入したり、ガーゼを充填したりして圧迫する方法もあります。それでも子宮の収縮が悪く出血が続いていれば、子宮の全摘出を考えます。

子宮を摘出すば救命できる可能性が高まりますが、子宮を温存できるかどうかは産科DICの重症度によります。もし、子宮がまったく収縮しなくなっていたら、子宮温存は難しいでしょう。

女性にとって子宮を取る・取らないは大きな問題です。

生まれた赤ちゃんが無事に育ってくれればよいのですが、亡くなったり重度の障害が残ってしまっても、次のお子さんを望むことはできなくなってしまいます。しかしながら一番に優先されるのは母体救命であり、子宮全摘術の決定を迅速に行らなければならないこともあります。

妊娠中に少しでもお腹の様子が変だと感じたり、当てはまる症状が現れたりしたら、速やかに病院を受診してください。また、血圧の自己管理もお勧めしています。異常があったときは自分で対応しなければならないときもあります。お産は現在でも命がけのものであり、自分と赤ちゃんの命をしっかりと守るために、病院を上手に使ってください。

 

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