インタビュー

妊婦さんを救命するためのシステムづくり―スーパー総合周産期センターの役割

妊婦さんを救命するためのシステムづくり―スーパー総合周産期センターの役割
光山 聡 先生

東京都立多摩総合医療センター 産婦人科非常勤医師(前産婦人科部長)

光山 聡 先生

この記事の最終更新は2016年04月21日です。

東京都では、緊急処置を要する状態になってしまった妊婦さんを少しでも早く病院に搬送できるよう、母体救命搬送システムとそれを担うスーパー総合周産期センターを設立しました。この仕組みとはいったいどのようなものなのでしょうか。東京都立多摩総合医療センター 産婦人科部長の光山聡先生にご説明していただきました。

2008年、東京都内の総合病院7施設全てが妊婦の受け入れが困難で、妊婦が死亡するという衝撃的な事件がありました。

このような事故を二度と起こさないために東京都で作られたシステムが、スーパー総合周産期センターの設置と母体救命搬送システムの確立です。複数の病院で受け入れが困難で、行き場がなくなることが決して再び起こらないように、妊婦さんを必ずどこかで受け入れる体制を作る。そういった仕組みづくりが要請されてきたことから、2008年11月に開催された協議にてスーパー総合周産期センターと母体救命搬送システムの設置が決定されました。

東京都母体救命搬送システムでは、脳卒中や羊水塞栓症などの重症疾患によって緊急処置が必要とされる妊婦さんがいるにもかかわらず、ベッド数の不足などが理由で近隣の医療機関で患者さんを受け入れられない際に、上記のスーパー総合周産期センターが「最後の砦」として必ず患者さんを受け入れるようにすることで、確実かつ迅速な医療を提供します。

東京都内では現在区内に3施設、多摩地区に2施設の認定病院が当番制になって、「最終的には絶対にここで受け入れる」という体制を築きます。

【都が指定しているスーパー総合周産期センター】

昭和大学病院

日本赤十字社医療センター

日本大学医学部附属板橋病院

東京都立多摩・小児総合医療センター

杏林大学医学部付属病院

母体救命を要する患者さんが発症した場合、スーパー総合周産期センターに連絡が入ります。また救急車が現場に到着するまでに近隣の施設にも受け入れの可否を聞きます。周辺施設が受け入れ可能ならばその施設に患者さんは収容されますが、受け入れが困難な場合は、スーパー総合周産期センターに向けて救急車が出発します。スーパー総合周産期センターへの道程中にも、消防庁指令センターがその行路にある施設に受け入れの要請を行います。

途中で受け入れ可能な施設があればそこで収容されますし、残念ながら途中での受け入れ先がない場合には最終的にスーパー総合周産期センターに収容されます。

このように、他のすべての病院が収容困難であったとしても、最後の砦として必ず患者さんを受け入れるような仕組みを形成したのです。

母体救命搬送システムの対症症例となるのは、以下の4つに分類されるものです。

1、妊婦褥婦の救急疾患合併(脳血管障害、心不全、呼吸不全、重症感染症、重症外傷、多臓器機能障害など)

2、産科救急疾患(重症)(羊水塞栓症、子癇妊娠高血圧症候群、HELLP症候群、出血性ショック、産科DICなど)

3、診断が未確定だが重篤な症状をきたすもの(意識障害、けいれん発作、激しい頭痛・胸痛・腹痛、原因不明のバイタルサイン異常)

4、その他1~3に準ずるもので緊急に母体救命処置が必要なもの

母体救命搬送システムの仕組み(東京都福祉保健局より引用改変)

このシステムを築く利点は、妊婦さん・褥婦(じょくふ)さんの取りこぼしが無い点にあります。命が危ない患者さんを必ず受け入れるためにできた仕組みであり、近年胎児救急もスタートさせました。いまだ改善の余地はあるものの、「受け入れること」を第一にしたおかげで、東京都における周産期医療はかなり向上してきたということができます。

 

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