妊娠高血圧症候群の症状は、高血圧が中心です。しかし、時に重篤な合併症を起こしてしまう危険性があり、最悪の場合は胎児や母体に障害が残ってしまう可能性があることをご存じでしょうか。今回は妊娠高血圧症候群の一般的な症状から重篤な合併症まで、対応方法を含めて獨協医科大学 産科婦人科学教室 主任教授(産科担当)の成瀬 勝彦先生に詳しくご解説いただきました。
高血圧が主症状となります。自宅での血圧測定はリスクの高い妊婦さんで特におすすめしたいところです。また、目の前がチカチカする感じ(眼華閃発)が先行する例も多くみられます。
一方で妊娠高血圧症候群は自覚症状があまりなく、重症になっていても自分では気付かないことも少なくありません。妊婦健診などで医師に指摘されて初めて、頭痛や倦怠感、胎動の減少などの症状があったことに気付くという妊婦さんもいるようです。
その他の症状としては、排尿量が急減してむくんだり、急激に体重が増加したり、子宮がきゅっと収縮する感覚を覚えたりする方もいます。
常位胎盤早期剥離は、胎盤が出産前にはがれてしまう病気です。この病気になると、30~50%の確率で赤ちゃんが死亡するか、助かったとしても脳性麻痺が残ってしまう可能性がある、非常に危険な状態であるため、早急な処置が必要とされます。常位胎盤早期剥離は結果からの診断であり、疑われれば確定を待たず即座に処置が施される場合がほとんどです。妊娠高血圧症候群では胎盤の着床不全という原因を同じくするため、一般の方より発症率が高いことが分かっています。
主な症状は性器からの出血、腹痛、子宮が異常に硬くなる、赤ちゃんの動きが鈍くなるなどです。常位胎盤早期剥離が疑われる場合は、すぐに病院に来ていただきます。超音波や胎児モニターで赤ちゃんの危機が明らかになったら、早急に赤ちゃんをお腹から娩出します。お母さんが出血性ショックや凝固障害を起こしている場合は、これらに対する治療を同時に行います。最悪の場合、子宮を摘出しなければいけないこともあります。
なお、常位胎盤早期剥離は現在、原因不明のものを除けば新生児のいわゆる脳性麻痺の最大の原因となっています。第2位は臍帯脱出(へその緒が胎児より先に飛び出してしまう病気)であり、こちらも危険な合併症です。
妊娠高血圧症候群を発症すると、母子ともに状態がさらに悪化する病気を合併してしまう危険があります。
子癇とは、妊娠20週以降に起こる妊婦・褥婦(出産後間もない女性)のけいれんと意識消失発作です。原因は不明ですが、脳血管がれん縮(発作的に脳の動脈が縮み、細まること)してけいれんを引き起こすと考えられています。子癇が治まらない場合、早急に赤ちゃんをお腹から出してあげなければいけません。ときには帝王切開が必要となります。
なお、これまで子癇発作と考えられてきた症状の中に脳出血が多く含まれていることが知られてきており、妊娠高血圧症候群と脳出血の関連がクローズアップされています。これに伴い、CT(コンピュータ断層撮影)による早期診断が母体の命を救える可能性も指摘されてきています。ただし、けいれんが起こっている状態ではCTを撮影することはできないため、ある程度けいれん発作が治まったタイミングで撮影を行います。脳出血は産後出血と並ぶ母体死亡原因の大きなものであるため、母児の安全を確保できるタイミングでなるべく早期に診断を行うことが、近年の高次施設の産婦人科医には求められています。
HELLP症候群は、妊娠後半期~産後に発症しやすい合併症です。血液中の赤血球破壊、肝逸脱酵素上昇、血小板減少の3点を主症状とし、妊娠高血圧症候群の妊産婦さんの4~12%に発症します。
その他の症状は、突然起こる上腹部痛・心窩部痛(みぞおちの痛み)、吐き気・嘔吐などです。HELLP症候群であるかどうかは、血液検査によって診断します。 HELLP症候群であると分かった場合は、できる限り早急に赤ちゃんをお母さんのお腹から出します。また、HELLP症候群を発症した20%の患者さんは血液凝固異常(DIC)や肺水腫、臓器障害~多臓器不全を併発するほか、前述の脳出血を併発した場合死亡率が高くなるため、それらに対する治療も必要となることがあります。
獨協医科大学 産科婦人科学教室主任教授(産科担当)、獨協医科大学病院 総合周産期母子医療センター 産科部門長、獨協医科大学病院 臨床遺伝診療室 室長
獨協医科大学 産科婦人科学教室主任教授(産科担当)、獨協医科大学病院 総合周産期母子医療センター 産科部門長、獨協医科大学病院 臨床遺伝診療室 室長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(母体・胎児)・指導医日本超音波医学会 超音波専門医・超音波指導医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
奈良県立医科大学医学部を卒業後、同大学大学院で博士号を取得。英国ニューカッスル大学への留学を経て、2013年から奈良県立医科大学附属病院産科医長として県下の周産期医療に力を注ぐ。(公財)聖バルナバ病院院長・助産師学院長への出向を経て、2022年より現職。産婦人科診療ガイドライン産科編の作成委員・評価委員、妊娠高血圧症候群診療指針の作成委員などを歴任。妊娠高血圧症候群を中心とした産科救急に対する知識を生かし、周産期疾患の基礎・臨床研究のほか、医師・助産師の後進育成にも尽力している。
成瀬 勝彦 先生の所属医療機関
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