妊娠高血圧症候群は一時的な症状であることがほとんどですが、一度妊娠高血圧症候群と診断された場合、産後どのように生活すればよいか不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。妊娠高血圧症候群に伴う産後の影響、服薬、二度目の妊娠など、無事に出産されたお母さんに向けて、獨協医科大学 産科婦人科学教室 主任教授(産科担当)の成瀬 勝彦先生にお話をしていただきました。
多くの場合、出産後速やかに妊娠高血圧症候群は軽快します。そのため、妊娠高血圧症候群が軽症(妊娠高血圧症候群の重症度についてはこちらのページを参照)だったお母さんであれば、そこまで心配する必要はないでしょう。
しかし、重症の妊娠高血圧症候群まで悪化してしまった場合、お子さんを出産した後もしばらく高血圧や尿タンパクといった症状がみられることがあります。そのため、産後しばらく降圧薬などを服薬しなければならないケースも見受けられます。
※お産後84日以上高血圧やタンパク尿の症状が続く場合は、精密検査を受けられることをおすすめしています。
1人目のお子さんを妊娠された際に妊娠高血圧症候群と診断されたお母さんが、2人目のお子さんを妊娠された際も妊娠高血圧症候群を発症する確率は通常の2倍程度といわれています。前回妊娠の早期に妊娠高血圧症候群と診断された方、妊娠高血圧腎症にまでなった方は特に注意が必要となります。
再び妊娠高血圧症候群を発症しないためには、医師や栄養士、助産師のアドバイスをしっかりと受け、血圧の測定、定期的に体を動かすこと、食事のバランスに注意することなどが大切です。低用量アスピリンの服用も考慮されることがあります。また、同じ経験をもつ妊婦さんとお話をする機会を持つことも精神的な負担を軽減するために良策といえるでしょう。日本妊娠高血圧学会では病気を経験したママたちへの市民公開講座を2022年から開始しており、これは世界妊娠高血圧学会を支えるボランティア団体Preeclampsia Foundationに倣ったものです。
妊娠高血圧症候群はその後の母体の生活習慣病と関係性があると指摘されており、高血圧や糖尿病、脂質異常症、脳血管障害、虚血性心疾患、腎疾患、メタボリックシンドロームなどを発症する可能性が高いことが分かっています。近年、日本において妊娠高血圧症候群を経験した女性が後に腎疾患を有意に発症しているという、母子手帳悉皆調査による信頼性の高い研究が初めて発表され、わが国においてもその事実が科学的に明らかになりました(Oishi M, et al. Clin Exp Hypertens, 2017)。そのため、産後も食事管理や生活管理を常に意識する必要があります。
産後に生活習慣病にかかりやすくなる理由はまだ研究段階ですが、以下3つの理由が考えられています。
(1)そもそも生活習慣病にかかりやすい体質のお母さんが妊娠というストレステストによって、妊娠期間中に妊娠高血圧症候群を発症した
(2)妊娠高血圧症候群によってストレスや炎症にさらされた生体の組織に“遺伝子の書き換え”(エピジェネティクス)が起こることにより“病気の発症しやすさ”がすり込まれてしまう
(3)腎機能が落ちる
また、赤ちゃんは出産時に発育不全状態(低出生体重)で生まれてくる可能性もあるため、そのような場合には長期的なケアが必要となります。低出生体重児ではDOHaD説(成長後に生活習慣病になるリスクが高まる)も指摘されています。
健常児で生まれてきた赤ちゃんが産後に何かの影響を受けるケースは短期的にはありませんが、長期的にはお腹の中で受けた母体の高血圧のストレスが遺伝子に影響を与えている可能性もあります。
基本的には症状が治まれば服薬し続ける必要はありませんが、後遺症として腎疾患(あるいは将来の生活習慣病)を発症してしまった場合は、その病気を治療する薬が必要になることもあります。なお、短期間降圧薬を必要とする場合などに、授乳との兼ね合いを心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、多くの降圧薬が授乳中に服用しても赤ちゃんに安全であることが証明されているため、心配しすぎないようにしましょう。
妊娠中の高血圧の割合は増加しているという事実があります。その最大の理由は、これまで持病として高血圧を持っていた方や不妊症、不育症の方にも、妊娠のチャンスが与えられるようになってきたからだと考えています。
前述のとおり、妊娠中・授乳中でも服薬できる降圧薬は多数存在します。妊娠中の服薬を恐れるあまり、自己判断で内服を中止してしまったり、中絶を選択してしまったりなどの悲しい事例がいまだに存在しますが、決して薬を飲むことを恐れる必要はありません。正しい妊娠の知識を持ち、適切な降圧薬を選択することで、高血圧を持っている女性でも十分に妊娠することができる時代です。高血圧だからといって妊娠を恐れることなく、我々産婦人科医に相談してください。
獨協医科大学 産科婦人科学教室主任教授(産科担当)、獨協医科大学病院 総合周産期母子医療センター 産科部門長、獨協医科大学病院 臨床遺伝診療室 室長
獨協医科大学 産科婦人科学教室主任教授(産科担当)、獨協医科大学病院 総合周産期母子医療センター 産科部門長、獨協医科大学病院 臨床遺伝診療室 室長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(母体・胎児)・指導医日本超音波医学会 超音波専門医・超音波指導医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
奈良県立医科大学医学部を卒業後、同大学大学院で博士号を取得。英国ニューカッスル大学への留学を経て、2013年から奈良県立医科大学附属病院産科医長として県下の周産期医療に力を注ぐ。(公財)聖バルナバ病院院長・助産師学院長への出向を経て、2022年より現職。産婦人科診療ガイドライン産科編の作成委員・評価委員、妊娠高血圧症候群診療指針の作成委員などを歴任。妊娠高血圧症候群を中心とした産科救急に対する知識を生かし、周産期疾患の基礎・臨床研究のほか、医師・助産師の後進育成にも尽力している。
成瀬 勝彦 先生の所属医療機関
関連の医療相談が11件あります
高血圧ではないのに妊娠中毒症になることはあるのでしょうか?
妊娠37週の妊婦です。 高血圧ではないのですが、手のむくみ、目の前がチカチカ星が飛ぶような感覚や、ボーッという耳鳴り、めまい、左後頭部あたりの軽い頭痛といった症状があります。 病院の検診では、血圧は何も言われていません。最高血圧102〜123、最低血圧43〜61です。 浮腫、尿蛋白、尿糖もマイナスです。 ただ、体重が2週間で1〜2キロ程増えてしまいました。 妊娠中毒症でしょうか。 回答よろしくお願いします。
むくみと妊娠高血圧症候群について
現在妊娠31週ですが、ここ2週間で一気にむくみがひどくなりました。産休まであと三週間は仕事の予定ですが、座り仕事で、夕方には下半身がすごくむくみます。着圧ソックスを履いていますが、ソックスの跡がくっきりついてしまいます。検索すると、「妊娠高血圧症候群」と似ている気がして、健診の時先生に相談しましたが、「血圧も尿検査でも問題ないから大丈夫」、と言われてしまいました。妊娠高血圧症候群は32週未満で発症すると重症化しやすいという説明を見かけたのですが、血圧が上がっていなくても妊娠高血圧症候群にかかることはないのでしょうか?
甲状腺低機能症の場合の妊娠について
妊娠の可能性 子供に対する遺伝的影響 小人症の子供が生まれる可能性 以上についてお教えください。 本人は、パセドウ病の治療の結果、現在甲状腺低機能症です。半年に一度、いしの診察を受けていて薬を飲んでいます。
検診で血圧が異常値だった
今日 検診で血圧が140/50でした。 普段は110/60〜70なので不安です。 考えられる原因と受診するべきかなやんでいます。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「妊娠高血圧症候群」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。