インタビュー

高齢者に薬を処方する際に気をつけることとは

高齢者に薬を処方する際に気をつけることとは
岩本 俊彦 先生

国際医療福祉大学 医学部 総合診療医学 教授 、国際医療福祉大学塩谷病院 高齢者総合診療科 部長

岩本 俊彦 先生

この記事の最終更新は2016年03月10日です。

高齢者に対する薬物療法では、「多病多薬」と呼ばれる状態から生じるいくつかの問題が指摘されています。薬物の相互作用、処方のカスケード、長期連用の問題、そしていかに薬を減らしていくかといったことについて、国際医療福祉大学塩谷病院 高齢者総合診療科部長の岩本俊彦先生にお話をうかがいました。

ご高齢の方は多くの病気を抱えているために、服用する薬の種類も多くなります。その結果、薬物の本来の効果や副作用が相互に影響を及ぼし合って、患者さんの体に良くない状態をもたらすことがあります。臨床の現場でもっともよく経験するのは、抗血栓薬の重複です。抗血栓薬とは、血栓(血のかたまり)ができて血管を詰まらせることを予防するために継続的に服用する薬であり、アスピリンは循環器科で処方される代表的な抗血栓薬のひとつです。また、同じ患者さんが腰痛や関節痛で整形外科にかかっていると、NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)と呼ばれる消炎鎮痛剤を処方されます。

循環器科で処方されるアスピリンも元々は消炎鎮痛剤なのですが、整形外科ではアスピリンとは別の消炎鎮痛剤が処方されます。また、たまたまその患者さんが風邪をひいて別の病院で診察を受けた場合には風邪薬を処方されますが、実はその風邪薬のなかにも消炎鎮痛剤が入っています。これらの薬剤が重なることによって相乗効果で薬が効き過ぎ、消化管出血が起こるという例が年に数回あります。血を吐いたり下血が見られるという患者さんが服用している薬を調べてみると、消炎鎮痛剤が何剤も処方されていて、中にはそのために入院が必要になることもあります。

もうひとつ注意すべきケースとしては、食欲増進剤が挙げられます。ご高齢の方は食欲不振のため、消化器内科などで食欲増進剤を処方されることがありますが、その中にはパーキンソン病と同じような症状を引き起こすものがあります。メトクロプラミド(プリンペラン®)やスルピリド(ドグマチール®)などがそれにあたります。これらの薬は短期間に使用していれば問題はないのですが、長期間継続的に服用しているとパーキンソン病と同じような症状が出て、歩幅が小刻みになったり、転倒しやすくなったりすることがあります。

われわれが患者さんの服用している薬を調べてそのことに気づき、薬をやめていただくと症状は改善するのですが、気が付かないでいるとまたその上にパーキンソン病の治療薬が処方されるということが起こりかねません。このように、ある薬の副作用に対して別の薬が処方されるという連鎖を「処方のカスケード」といいます。

ご高齢の方がさまざまな症状を訴えることに対して、かつては向精神薬を用いることがありました。昔よく使われていたのはトランキライザーと呼ばれる精神安定剤でしたが、現在で言えば抗不安薬に分類される向精神薬がそれに相当します。このようにさまざまな訴えに対して処方されている向精神薬と、眠れないため処方されている睡眠薬を一緒に服用し続けているうちに、認知機能が低下したり、転倒しやすくなったりするということが報告されています。

これは、同じ薬が長期間にわたって服用されているうちに薬剤の成分が蓄積されることによって起こると考えられています。われわれも何とか薬を管理して減らしていきたいと考えていますが、10年、20年と続けている薬の場合は、なかなかやめることが難しい場合があります。薬剤の弊害についてご説明をしながら、少しずつ薬を減らしていくという治療が必要です。

夜、眠れないという方に対してはすぐに睡眠薬を処方するのではなく、必ず睡眠習慣について質問をします。床につく時間、眠りにつく時間、起きる時間、そしてその間に何回ぐらい目が覚めるか、この4点を確認しています。そうすると、夜8時頃に布団に入っていても、実際に眠りにつくのは11時頃で、朝は7〜8時に起きるというパターンの方が大勢いらっしゃいます。

健康な方の一般的な睡眠習慣は、眠くなったら布団に入り、朝は決まった時間に起きるというものです。多くのご高齢の方が、眠くなっていないにもかかわらず布団に入ることに問題があるのです。それを「寝付きが悪い」ととらえてしまうと睡眠薬を使うという発想になりますが、そういった方に睡眠薬を処方してしまうと、なかなかやめることができなくなってしまいます。この場合、「眠くなるまで布団に入らない」というのが究極の生活習慣指導になるのですが、最初からそう申し上げてもなかなかうまく行きませんので、布団に入る時間を少し遅くしてみるというところから試していただくことになります。

床につく時間が早い理由のひとつには「何もすることがないから」ということがあります。あるいは、子どもや家族が自由に過ごせるように気兼ねして早々に布団に入ってしまうということもあるようです。そういったところから改善していかなければ、十分な治療、適切な治療はできないと考えています。

少しずつ薬を減らしていく中で、大事な薬とそうでない薬というものが必ず出てきます。その点については各々の診療科の医師に確認していただき、優先順位をつけていただくようにお話しています。医師には薬のことを聞きづらいという方も多いのですが、患者さんの健康を管理するためには、医師の側も患者さんの質問に答え、きちんと説明する責任があると考えています。

 

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