インタビュー

術前検査について-どんなときに検査が必要か、また必要でないか

術前検査について-どんなときに検査が必要か、また必要でないか
徳田 安春 先生

群星沖縄臨床研修センター センター長 、筑波大学 客員教授、琉球大学 客員教授、獨協大学 特任...

徳田 安春 先生

Choosing Wisely

この記事の最終更新は2016年05月13日です。

医師は手術前の患者に検査を受けるよう指示することがあります。これを「術前検査」と言います。胸部X線、血液と尿検査そして心臓と肺の検査などを行います。これらの検査は例えば大きな手術を受ける前、特に健康に問題を抱えている際に役立ちます。検査結果によっては、手術の際に特別な用意をしたり、手術の延期または変更などの必要性が生じたりすることもあります。

しかし、多くの場合この術前検査は必要ないことが多いのも事実です。手術を受けるからといって、手術の種類や患者の健康状態を顧みずに検査を行うのはよいことではありません。このような術前検査は役に立つことがない場合が多く、むしろ患者に害を及ぼすことさえあります。

手術や健康問題によって術前検査が必要となった場合は、担当医師に自身にとって適切な検査かどうか相談してください。もし担当医師や病院の医療チームから検査を受ける確かな理由を得られない場合、感じている不安をしっかりと伝えて話し合ってください。

医師はよく比較的軽い手術、例えば眼、ヘルニア、皮膚の手術などを行う前に健康的な患者に対して術前検査を行います。しかし、これらの手術のリスクは低く、術前検査によって手術の安全性が高まるものでもありません。

例えば手術のリスクが低い場合、術前検査によって深刻な問題が発見される利点以上に、誤った警鐘を与える可能性が高まります。この誤った警鐘により、さらなる検査や生検などの処置をすることとなってしまいます。これらは危険もあり、かつ金銭的な負担も増えます。その上、必要のない手術の延期をも示唆してしまいます。

Choosing Wisely のシリーズでは、必要ではない時によく行われている術前検査を医学学会がリストアップしました。このようなケースでは、術前検査は患者にとって有害となりやすくなります。

医学学会:米国心臓学会、米国エコー図学会、米国心核医学学会、血管学会、胸部外科学会

検査結果からは、手術中の心臓発作のリスク、他の心臓に関する問題のリスクが分かります。検査では心臓画像を様々な方法で撮影します。

  • 心臓超音波検査
  • 心臓負荷超音波検査は、心臓に運動負荷をかけて行います
  • 心臓核医学検査では微量の放射性同位体を使用し、心臓に負荷をかけて撮影をします。
  • 運動負荷心電図検査では実際に胸部に電極を付け、トレッドミル上で歩いたり、ジョギングをしたりしてもらいます。
  • 心臓CTではX線を使用します。

これらの検査を必要とするのは以下にあてはまる人です

・管理が困難な心不全や重度の弁膜の病気など、心臓の機能が高リスク状態にある

・最近心臓発作を起こしている

・胸の痛み、呼吸困難、通常よりも強い疲れや息切れなど心臓に関係しそうな症状がある

・これから胸部手術、人工関節、心臓バイパス手術を受ける

・閉塞した動脈を足に持っている

糖尿病、腎臓の病気または冠動脈の病気、心臓疾患、脳卒中などの病歴がある

・短い間の歩行、階段の上り下りで胸部の痛みや息切れを訴える

心臓が深刻な状態にはなく、症状がない。受ける手術のリスクが低い、あるいは心臓に関係しない手術を受ける場合、これらの検査は基本的に必要ありません。

医療団体:心臓血管CT学会

この検査ではCTスキャンを用いて心臓の動脈の石灰化を評価します。石灰化は早期の狭窄を示唆する兆候です。

冠動脈カルシウムスコア検査は手術前に必要な検査ではありません。

たとえどんなハイリスクの手術前にしてもこの検査は必要ありません。この検査では短期的な心臓発作のリスクを計るのに適していないうえに、さらなる検査や費用を必要としてしまいます。

医療団体:米国放射線学会, 米国外科学会

胸部内の画像から心臓や肺に病気や感染症が見られないかを検査するものです。

これらの検査を必要とするのは以下にあてはまる人です。

  • 喫煙
  • 胸部の痛み、咳、息切れ、足首のむくみ、発熱、最近心臓発作が起きている、長期に及ぶ風邪や肺炎などの症状がある
  • 70才以上で心臓や肺に持病があり、過去6ヶ月で胸部X線を受けていない
  • 大きな手術、特に胸部、心臓、肺または上半身における手術をうける

70才以下で胸部の手術を受けないこと、また上記に記載されている症状が見られない人はこの検査を受ける必要はあまりありません。

医療団体:胸部外科学会

肺に異常がないかを調べます。また心臓手術後の呼吸困難や肺炎など、合併症のリスクを検証するためにも使われています。

これらの検査を必要とするのは以下にあてはまる人です。

・喫煙者または喫煙者であった人

・肺の病気、ぜんそくや慢性閉塞性肺疾患COPD)にかかっている

・咳、息切れ、ぜいぜいする、胸が締め付けられるなどの症状がある

症状も見られず、喫煙者でもなく、肺の病気にかかっていない人は必要がありません。

医療団体:胸部外科学会

首に存在する頸動脈がつまっていないかを確かめる検査です。万が一、詰まっている場合、心臓手術後に脳卒中のリスクがあります。検査によって問題が発覚した場合は、医師が閉塞している動脈に処置を行い、心臓手術の安全性を高めることができます。検査が必要なのは過去に脳卒中や一過性脳虚血発作TIA)を起こしている患者です。

もし手術におけるリスクが低い場合、この術前検査は重要な問題を発見するのではなく、間違った警鐘を与えてしまいます。これらの検査はさらなる検査や準備が必要となります。

医療団体:米国眼科学会, 米国臨床病理学会、 総合診療学会

医師は、手術を受ける一環として一連の術前検査を行うことがしばしばあります。一連の検査の中には胸部X線、心電図から心臓の異常をみたり、血液検査が含まれます。

普通であれば、必要な検査を受けるものであり、ほとんどの人は全ての術前検査を受ける必要はありません。

  • 何か新しい症状や心配な症状がある場合(例えば胸痛があれば心電図を行います)。
  • 病歴や身体所見から手術中に合併症が起きるリスクが予見される場合。
  • 糖尿病は術後に感染症の合併症を増加させるため、糖尿病のコントロールがよいかの血液検査を行う。
  • 出血傾向にあったり、血液をサラサラにする薬を服用している場合、血液検査において出血のリスクを検査する。
  • 大きな手術、心臓、肺、脳の手術を受けようとしている場合。

リスクの低い手術を受ける予定で、心配な兆候や症状が見られないのに受ける必要はありません。

一般的に、手術を受ける1~2週間前に検査を受けます。担当医師や病院の手術チームが検査を行い、病歴を見直します。

  • 検査をする際は、なぜその検査が必要なのかを必ず聞きましょう。
  • 担当医師に過去6ヶ月の検査結果を確認してもらいましょう。何かしらの変化が見られないのであれば、最近受けた検査を再度する必要はありません。
  • 服用している薬、ビタミン剤やサプリメントのリストを持って行きましょう。担当医師には検査前にその件について伝えておく必要があります。
  • 服用している薬などに変更や追加などが出たら、新しいリストを手術の際に持参しましょう。
  • 何か新しい症状があったら、検査後に起こった症状でも報告しましょう。
  • 喫煙者は人工呼吸装置が必要になることが多いです。手術後の経過も遅くなりやすく、感染症も起こりやすいです。
  • 手術前に喫煙をやめることで合併症のリスクを減らすことができます。
  • 医師に禁煙に関してアドバイスをもらいましょう。

手術前に元気であればあるほど治りも早くなります。ベッドの上での生活から日常生活に戻るのが早くなります。また、そうすることで血栓や肺炎などの合併症を防ぐことができます。

少なくとも週3回、30分のウォーキングを心がけるようにしましょう。

イブプロフェンやナプロキセン、アスピリンなどいくつかの鎮痛薬は出血の原因になります。

医師にアスピリンや他の血液をサラサラにする薬を中止するべきか手術前に確認しましょう。

  • 病院までの行き帰りを車で送ってもらいましょう
  • 病院や自宅で誰か一晩付き添ってくれる人が必要になってくるでしょう
  • 医師に看護のことやリハビリ施設について聞いてみましょう
  • 病院に貴重品を持ち込まないようにしましょう。
  • 保険証は必ず持っていきましょう。
  • 入れ歯、コンタクトレンズ、めがねを保管する入れ物を用意しましょう
  • 何か気を紛らわすもの、ヘッドホン付きの音楽プレイヤーや写真、室内で着るローブなどを持って行くようにしましょう。

病院が必要な薬を提供してくれるので、薬は自宅に置いていきましょう。

 

※本記事は、徳田安春先生ご監修のもと、米ABIMによる “Choosing Wisely” 記事を翻訳し、一部を日本の読者向けに改稿したものです。

翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム

監修:小林裕貴、徳田安春先生

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  • 群星沖縄臨床研修センター センター長 、筑波大学 客員教授、琉球大学 客員教授、獨協大学 特任教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of General and Family Medicine 編集長

    徳田 安春 先生

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