高安動脈炎(たかやすどうみゃくえん)は、主に大動脈などの太い血管に炎症が生じ、血管の狭窄や閉塞が起こることで、手足が疲れやすくなったり、脳・心臓・腎臓といった生命活動に重要な臓器に障害を与えたりする原因不明の病気です。血管炎の一種で、どの血管に炎症が生じたかによって様々な症状が出現します。今回は血管炎のなかの高安動脈炎について、診断から治療の手順、治療の際の注意点までご説明します。引き続き、杏林大学第一内科腎臓・リウマチ膠原病内科教授の有村義宏先生にお話しいただきます。
高安動脈炎は若い女性に多発し、大動脈を中心とした大型血管に原因不明の血管炎を生じます。一方、大動脈炎症候群では同じように大型血管が障害されますが、高安動脈炎だけでなく、梅毒などの感染症による大型血管炎も含んでいます。
以前は厚生労働省でも、高安動脈炎を大動脈炎症候群として難病に指定していましたが、2013年の難病法の制定により病名改訂が行われ、大動脈炎症候群の名称は高安動脈炎と変更されました。現在、指定難病に認定されているのは高安動脈炎です。
高安動脈炎の原因は残念ながらいまだに不明ですが、東洋に多いこと、若い女性に多いことなどより何らかの遺伝的な要素や環境因子が関連していると考えられています。
たとえば、若い女性が上気道感染症にかかったあとで高安動脈炎を発症する場合もあります。しかし、どうして血管炎が発症するのかはわかっていません。
高安動脈炎は、記事1『血管に炎症が起こる「ANCA関連血管炎」とは? 膠原病(こうげんびょう)の一種とされる免疫の病気』で述べた血管炎の分類のうち、「大型血管炎」に該当します。大型血管炎では主に心臓から出てくる動脈(大動脈)と大動脈から枝わかれして体の主要な場所(頭、腕、足)に行く太い動脈(頸動脈、上腕動脈、大腿動脈)が侵され、若い女性に多いという特徴を持ちます。また、高安動脈炎は東洋に多く発生するという特徴もあります。
さらに、一部の患者さんでは特異的な遺伝的な要素(HLAなど)が関係しているのではないかとも推測されています。
一般的に、初期には発熱や全身倦怠感、食欲不振、体重減少など、風邪をひいたようなはっきりしない症状から始まることが多いです。
また、血管が障害され、大動脈壁の硬化、大動脈弁閉鎖不全症、腎動脈病変などが起こりやすくなるため、高血圧症を合併する方もいらっしゃいます。高血圧は高安動脈炎の予後に大きく関連しているといわれています。
血管炎が進行すると、炎症によって血管が狭窄や閉塞、拡張し、血液がうまく行き渡らなくなってきます。たとえば頭に血液を運ぶための血管(頸動脈)に炎症を起こると、めまいや立ちくらみ、難聴や耳鳴り、歯の痛み、頸部痛失神、ひどい場合には脳梗塞や失明をきたすこともあります。また、腕に分布する血管(上腕動脈)に炎症が起こると、腕が疲れやすかったり脈が触れなかったりします。脈が触れにくいことから、高安動脈炎は「脈なし病」とも呼ばれています。
高安動脈炎の患者さんのうち、約3分の1では心臓の大動脈弁付近にも炎症が及んで大動脈弁閉鎖不全症という弁膜症(べんまくしょう)という病気を合併することが知られています。弁膜症の程度によっては、心臓の働きに問題が生じることがあります。
さらに、腎臓に向かう血管(腎動脈)が障害された場合は、腎臓の働きが低下したり、高血圧になることがあります。また、下肢に栄養を運ぶための血管が障害された場合は歩行困難になることもあります。このように、高安動脈炎は重要な臓器の機能低下をきたす可能性が高い疾患なのです。
高安動脈炎は画像診断をはじめ、血液検査や臨床所見などから総合的に診断します。
一般の診察では、血管の狭窄の有無を調べるため、聴診器を首や胸にあてて雑音の有無を確認します。また、脈や血圧の左右差を調べます。
(心臓から出ている大動脈および頭に向かう首の動脈、腕に向かう動脈の血管に狭窄や拡張が認められる(矢印)。 画像提供:有村義宏先生)
高安動脈炎を確定診断するためには画像診断が重要となります。
具体的には、CT、MRI、MRAなどで、大動脈の狭窄や拡張の有無、壁の厚さの程度を確認し、血管の形の変化から診断します。
その他、FDG-PETを用いることで大動脈の炎症の程度や局在を知ることができますが、FDG-PETは保険外診療であるため、現在のところ全ての患者さんには使われていません。
血液検査で炎症反応(血沈、CRPなど)をみて、炎症が起こっているかを判断することできます。
HLAなどの遺伝的素因を調べる検査を行う場合がありますが、高安動脈炎は遺伝病ではないので確定診断には有用ではなく、先に述べた画像診断が重要です。
通常は厚生労働省の診断基準を使って診断を進めます。この診断基準も、医学の進歩にあわせ専門家による討議のうえ改良が重ねられています。
関連リンク:厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究
(1) 確定診断は画像診断(CT、MRA、FDG-PET、DSA、血管エコー)によって行います。
(2) 対象者が若い方で、尚且つ大動脈とその第一次分枝に壁肥厚、閉塞性、あるいは拡張性病変がみつかった場合は、炎症反応が陰性であっても第一に高安動脈炎を疑います。
(3) (2)に加えて炎症反応が陽性の場合、高安動脈炎と診断します。(ただし、活動性があっても CRP(炎症反応を測定する血液検査の項目)の上昇がない場合があります)
(参考:厚生労働省より)
血管が障害されることで血栓ができやすいので、降圧剤や抗血小板薬の投与を行ったり、あまりにも血管狭窄が強ければ手術したりすることもあります。この場合は心臓血管外科と連携して治療を進めていきます。勿論、手術をするにあたり、内科的に炎症を抑えるアプローチを行い、できるだけ血管の炎症が治まったうえで外科的な治療に進みます。炎症が起こったままの血管は縫合などがしづらいためです。
このように、高安動脈炎は内科と外科、両方のアプローチが必要な疾患だといえます。
高安動脈炎に限らず、血管炎は総じて再燃(さいねん:病状が再び悪化すること)が起こりやすい病気です。
ステロイドと免疫抑制薬で日常的に病状をコントロールしていても、薬を減量するタイミングや、その他何らかの原因によって再燃する可能性があります。もしも再燃してしまった場合、治療はやり直しとなり、再びステロイドや免疫抑制薬を増量する場合もあります。
糖尿病や高血圧、膠原病全般などと同じように、高安動脈炎も一生涯病気のコントロールが必要な病気です。高安動脈炎は医学の進歩により、以前に比べると治療によってしっかりとコントロールすることができるようになってきています。実際に私が診ている患者さんは、病気をコントロールして安定している方がほとんどです。
一部のメディアでは、「ステロイドは悪い薬だ」という情報が報じられています。これらの情報を鵜呑みにして、服薬を怖がってしまうと、かえって病状は悪化します。
薬をきちんと飲んでさえいれば普通に生活できるにもかかわらず、自ら生活を困難にしてしまうような判断はやめましょう。主治医とよく相談して納得し、きちんと薬を飲み続けることが大事です。
慢性疾患とは長く付き合うことになるので、「諦めない」「焦らない」気持ちを大切にしましょう。そしてときにはちょっとした「遊び心」を持つことで、随分気持ちも楽になり、コントロールがしやすくなるのではないかと考えます。つまり「諦めない」「焦らない」「遊び心」の3つのA(トリプルA)です。
3つめのAの「遊び心」は特に大切で、笑顔、ユーモアのことを指し、これが心のゆとりにつながります。
ときどき辛さや不安に負けそうになることもあるかもしれませんが、医学、治療法は日々進歩しています。毎日の生活の中で小さな喜び(小さな目標達成、感謝、おしゃれ、趣味、ペットとのふれあいなど)をできる限りたくさんみつけて、笑顔を忘れないことが、病気のコントロールに大切なのです。
杏林大学医学部第一内科学教室(腎臓・リウマチ膠原病内科) 教授
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