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楽な姿勢が悪い姿勢ではない?姿勢のホント
姿勢をよくしなさい、と叱られた経験のある方はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。よい姿勢で日常生活を送るのは、なんとなく健康によい気がします。しかし、背筋をピンと伸ばしながらの生活は非常に...
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楽な姿勢が悪い姿勢ではない?姿勢のホント

公開日 2016 年 11 月 17 日 | 更新日 2018 年 04 月 10 日

楽な姿勢が悪い姿勢ではない?姿勢のホント
高平 尚伸 先生

北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 教授、北里大学大学院医療系研究科臨床医療学 整形外科学 教授

高平 尚伸 先生

目次

姿勢をよくしなさい、と叱られた経験のある方はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。よい姿勢で日常生活を送るのは、なんとなく健康によい気がします。しかし、背筋をピンと伸ばしながらの生活は非常に疲れますし、よい姿勢を保つことで具体的にどのような影響があるのかわかりません。そのため、ついつい楽な姿勢で過ごしがちになってしまいます。

北里大学大学院医療系研究科整形外科学教授の高平尚伸先生は、外科医として日々たくさんの患者さんにかかわりながら、姿勢についての研究やプロテニス・プロサッカーなど様々なスポーツドクターを担当されるなど、多方面で活躍されています。この記事では、高平先生に、姿勢の重要性について伺いました。

悪い姿勢は集中力やメンタル面に影響するのか?

集中力が途切れる

学校などで、「姿勢が悪いと計算能力や集中力が落ちるので、姿勢をよくしなさい」と言われることがあります。しかし、実際に姿勢の悪さと計算能力・集中力の因果関係を示す科学的な根拠はありません。一部でいくつかの実験が行われているようですが、研究データの母集団自体が少ないこと、研究デザインのレベルが高くないこと、また、実験がどのような母集団・プロセスで行われたのかが明らかでないため、その結果をそのまま科学的な根拠にすることはできません。

また、悪い姿勢はメンタルに影響するといわれることがあります。たとえば、姿勢が悪いと鬱になりやすい、姿勢が悪いとやる気が起きない、姿勢をよくすると気持ちが前向きになる、などです。しかし、これも計算能力・集中力の因果関係と同様、科学的な根拠はありません。これは精神科医師の間でも広く知られているところです。

猫背など悪い姿勢で生活していると病気につながる、といわれることもありますが、これに限っては一部正しいと思います。たとえば毎日、腰をかがめていちごを採っている農家の方が逆流性食道炎になりやすい、ということはあるかもしれません。しかし、非常に特殊なケースであり、一般の健康な方であれば姿勢の悪さが原因で病気になる、とはいえません。

一般論として、悪い姿勢が病気の原因になる可能性は確かに捨て切れません。しかし、病気になった患者さんを診察した際、それが悪い姿勢によって引き起こされたとは断定できないのです。

つまり、医学に従事する身としては常に批判的吟味の立場から考える必要がありますがその立場から話すと、悪い姿勢を続けることによって、

・計算能力・集中力が落ちる

・メンタル面に影響が出る

・病気につながる

とは言い切れないということです。

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姿勢は健康に影響する - よい姿勢とはどんな姿勢?

しかし、悪い姿勢が病気の原因として断定はできないものの、身体に悪影響を及ぼすことは間違いありません。そのため、よい姿勢を保つことは非常に重要です。それではよい姿勢とはどのような姿勢で、悪い姿勢とはどのような姿勢なのでしょうか。

まず、よい姿勢について説明します。通常、背骨は横から見るとS字カーブを描いていますが、このS字をできるだけ維持できる姿勢がよい姿勢です。胸をはり、背筋をまっすぐ伸ばすと、自然と背骨はS字カーブを描きます。つまり、これが正しい姿勢であり、理想的な姿勢です。

猫背やうつむきがちな姿勢では、背骨がC字状に曲がってしまいます。これは悪い姿勢と言えます。

S字とC字

また、椅子に座っていると姿勢が悪くなりやすいのですが、骨盤を立たせるだけで、背骨がS字カーブを描くようになります。

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身体への負担 – 動力学と静力学

身体への負担

自然に背筋が伸びた状態で生活できればそれに越したことはありませんが、背筋を伸ばすには、普段使わない筋肉を使う必要があります。そのため、慣れていない方にとっては、非常に疲れる姿勢であり、継続が難しいです。そこで、「よい姿勢」を続けることと同様、「悪い姿勢」を避けることが重要になってきます。

悪い姿勢を理解するには、「静力学」の理解が必要です。

静力学とは?

身体を動かすと身体に負担がかかります。これを動力学といいます。たとえば、足を動かせば足に負担がかかりますし、手を動かせば手に負担がかかります。これは身体を動かすと「疲れる」ことからも直感的に理解できると思います。

しかし、身体を動かしていなくても、実は身体には負担がかかっています。これを静力学といいます。たとえば猫背の場合、背骨の前側には圧迫される力が働き、後ろ側には引っ張られる力が働きます。静力学が働いている状態を長時間(長期間)続けるとそれが蓄積し、骨盤に傾きが生じてしまいます。骨盤が傾くと、腰痛や肩こりなど身体のいたるところに悪影響を及ぼすことになります。長距離ドライバーの方が肩こり・腰痛になりやすいのは、これが理由です。

また、先ほどお話した背筋を伸ばした姿勢とは、静力学が働きにくい姿勢です。つまり、姿勢のことを考える場合、「静力学が働きにくい体勢を維持する(背筋を伸ばす・骨盤を立てて座る)」だけでなく、静力学の働きを分散し、「特定の部位に過度な力が集中しないようにする」ことが重要になります。

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楽な姿勢がなぜ悪い姿勢なのか

ソファでくつろいでいる人

一般的に、悪い姿勢とは「楽な姿勢」です。デスクに向かう際、猫背になったり、ソファに深くもたれかかったりしてしまうのは、その姿勢が筋肉を必要としない、「楽な姿勢」だからです。

しかし、楽だからこそついつい同じ悪い姿勢を長時間キープしてしまいます。このせいで同じ部位に静力学が集中して働き、その結果、骨盤の後傾を引き起こしてしまうのです。

つまり、悪い姿勢がなぜ悪いかといえば、もちろん「形状」としてその姿勢が身体に悪影響を与えるということもありますが、同じ姿勢を長時間キープしてしまうからです。静力学がある部分に集中して負担がかかり続け、骨盤を傾けてしまうために悪い姿勢なのです。

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簡単な運動が姿勢には非常に効果的

体操している人

姿勢を考えるときには、時間の概念が非常に重要になってきます。短時間であれば、猫背など一般的に悪い姿勢と呼ばれている姿勢は健康に悪影響を及ぼしません。逆説的にいうと、たとえそれがよい姿勢であっても、それを長時間キープすると悪い姿勢になってしまう、ということです。

骨盤の傾き予防に最も有効な方法は「動くこと」です。座っている間もこまめに姿勢を変える、体操などで関節を動かす、少し近くを歩いて体を動かす、といったことが大切です。

ここまでをまとめると、「悪い姿勢(楽な姿勢)を長時間維持する」ことがもっとも身体に悪影響を与えることに、異論はないはずです。しかし、「よい姿勢を長時間維持する」くらいなら、「悪い姿勢であっても短時間にとどめ、こまめに身体を動かす」ほうが身体によいと言えるのです。

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悪い姿勢はロコモにつながる?よい姿勢への意識とこまめに身体を動かすことのメリット

高平先生

猫背などで腰に大きな負担をかけ続けると、最終的には椎間板ヘルニアになる場合があります。他にも悪い姿勢を続けることで、慢性的な肩こり・腰痛を引き起こすこともあります。そのため、日常的によい姿勢への意識を持つことや、こまめに身体を動かすことで一部分に過度な負担がかからないよう意識することは非常に重要です。

しかし、これらはロコモティブシンドロームの予防にもつながると言われています。ロコモディブシンドロームとは「運動器の障害」のことで、移動能力の低下をきたし、日常生活で人や道具の助けが必要な状態、あるいはその一歩手前の状態をいいます。ロコモティブシンドロームは「寝たきり」や「要介護」の主要な原因としても知られています。

私は外科医として、骨盤の傾きのある患者さんを多く診ていますが、手術するまでもない方が多くいらっしゃいます。わざわざ手術せずとも、運動で十分な改善が見込めるのです。

四六時中、背筋をピンとはりながら生活する必要はありません。楽な姿勢で過ごしている自分に気がつけば、体勢を変えたり、身体を動かしてみる。日頃から、ほんの少し「姿勢」を意識するだけで、人はより健康的な生活を送ることができるのではないでしょうか。

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北里大学病院整形外科にて、股関節手術、ロコモティブシンドローム、姿勢など、あらゆる分野の治療に従事。著書も多数あるほか、TV出演なども行なっている。近年では、ロボットを用いたヘルスケア指導など、新しいとりくみにも尽力されている。