インタビュー

悪い姿勢から学ぶ理想的な姿勢とは?

悪い姿勢から学ぶ理想的な姿勢とは?
高平 尚伸 先生

北里大学 医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 教授、北里大学 大学院医療系研究科...

高平 尚伸 先生

この記事の最終更新は2016年11月17日です。

姿勢が健康に大きな影響を及ぼすことは、直感的に理解している方も多いと思います。しかし、普段から悪い姿勢で過ごしていると、それが悪い姿勢であることにさえ気がつきません。「姿勢をよくしなさい」と言われても、そもそもどのような姿勢がよい姿勢なのかわからないことも多いのです。

楽な姿勢が悪い姿勢ではない?姿勢のホント」では、「姿勢の重要性」と「静力学」などについて伺いましたが、引き続き、北里大学大学院医療系研究科整形外科学教授 高平尚伸先生に「よい姿勢」「よい座り姿勢」について詳しく教えていただきました。

理想的な姿勢

そもそも、よい姿勢とは一体どのような姿勢のことを指すのでしょうか。まず、よい姿勢は大きく2つに大別できます。解剖学的によい姿勢と、機能的によい姿勢です。

解剖学的によい姿勢とは、背骨が自然なS字カーブで骨盤が立ち、背筋がピンと伸びた状態です。人間の背骨は、1歳前後で理想的なよい姿勢の元になる「生理的S字カーブ」の形が完成します。これが完成してはじめて、重い頭をバランスよく支えることができ、二足歩行が可能になります。この姿勢は、重心が身体の中心にあるという点で正しい姿勢ということができます。しかし、解剖学的によい姿勢を維持するには体幹筋が必要で、慣れないうちは非常に疲れます。

一方、機能的によい姿勢とは、姿勢を維持するときに筋肉の過度な緊張がなく、深部筋と表層筋の筋力のバランスがよい状態です。

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よい座り姿勢とは

理想的な座り方は、骨盤が立っていることが基本です。骨盤が立っている状態の背骨は、自然とS字カーブを描く構造になっています。このS字カーブが重い頭をバネのようにクッションで受け止め、背骨に負荷をかけにくくしています。

骨盤を立てるには、背もたれのある椅子に座ったときに、前かがみのままお尻を椅子の背もたれに当たるまで引きます。そして、そのまま上体を起こすことで完成します。これだけで骨盤を立たせることが可能です。

・座っている面に対して背筋が垂直

・膝の角度は90度

・きちんと足が床につく

骨盤が前に倒れると、腰椎が反って腰椎の前弯がさらに大きくなります。この姿勢を長く続けると、背筋に負担がかかります。はじめは機能的に問題がなくても、緊張状態が続くことで、筋肉への血行が悪くなり筋肉が緊張し続け、痛みを感じる物質が生み出されます。そのため、腰痛を起こしやすくなります。

一方、骨盤が後ろに倒れると、腰椎が屈曲し、腰椎の前弯が小さくなります。長期間この状態を続けていると、椎間板ヘルニア変形性脊椎症になる可能性があり、腰痛や下肢痛の原因になります。それが元に戻らない状態になると、慢性疼痛へとつながります。

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しかし、いくら骨盤が立っていたとしても、長時間同じ姿勢で座っていれば身体には悪影響があります。時々姿勢を変え、できるだけ身体を動かすことが大切です。ストレッチをしたり、深呼吸をしたり、できれば少し歩くことも非常に効果的です。

悪い座り姿勢がクセになっている場合、まずはよい座り姿勢のクセをつけましょう。悪い座り姿勢と理想的な座り姿勢を適度に繰り返し、様々な筋肉を使い分けることで、負荷の分散を心がけることが必要です。少しずつ理想的なよい座り姿勢の時間を増やしていき、その姿勢をクセにしましょう。

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悪い座り方の例

それでは、どのような座り姿勢が悪い座り方なのか。ひとつひとつ紹介していきます。

重い頭が前に出てしまい、これを引っ張り上げるための憎帽筋が過剰に活動します。このため、長期間クセになっていると憎帽筋(そうぼうきん)が疲れてきます。最終的には肩こりや腰痛を引き起こします。

左右どちらかの足をもう片方の足の上に乗せる座り方です。股関節や骨盤の傾きが生じやすくなります。

椅子に浅く座り、背中が背もたれに寄りかかる座り方です。骨盤は後ろに倒れ、腰の後ろ側が凸の形になるので、負荷が大きくなります。腰に大きな負担がかかることに加え、頭の重さを首から背中の筋肉で支えることになり、首や肩にも負荷がかかります。

肘を机につく座り方です。背中はまっすぐですが、重心は前に移動して、上半身を肘で支えるため、肩に負荷がかかる座り方です。左右どちらかで肘をついた場合、身体が横に曲がるので、骨盤が横に傾いてしまいます。

肘を机について、手のひらで頬や顎をのせる座り姿勢です。頭の重さを腕で支えるため、肘つき座りよりリラックスするために背中が丸まってしまう傾向があります。

腰を後ろに反って、前かがみになる座り方です。背中はまっすぐになります。スフィンクスに似た姿勢です。

足が床につかずブラブラしていると、踏ん張ることができません。そのため、骨盤を立てた状態を維持することができません。骨盤が前に倒れたり、後ろに倒れたり、不安定な状態を続けることになります。

ここに紹介した悪い座り姿勢は生活習慣病とも言えます。こうした姿勢を長期間続けると、将来、何かしらの問題が起こる可能性が高くなります。

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クセになった悪い座り姿勢を改善させる効果が高く、理想的なよい座り姿勢を保ちやすくさせるのが「巻きタオル」を使った方法です。この巻きタオルは、普通のバスタオルを巻いて作ることができます。手軽で余計な費用がかからない上に、高い効果が見込めるアイテムです。この巻きタオルは、畳んだバスタオルを丸めて、両端を輪ゴムでとめれば完成です。この巻きタオルを椅子の奥に置いて座ると、姿勢がよくなります。

理由としては、2つあります。ひとつは、「ここに座りなさい」という目印になることです。悪い姿勢になるときの特徴として、椅子の前の方に座ってしまうことが挙げられますが、タオルを置くことで椅子の奥に座ることが可能になります。

もうひとつの理由は、巻きタオルの上にお尻を乗せることによって、骨盤が立つことです。骨盤を自然に立たせることが、この巻きタオルの大きな役割といえます。ポイントとしては、巻きタオルにお尻の後ろ半分だけがのるように座ることです。お尻を巻きタオルの上に乗せないと、骨盤が後ろに倒れて寝てしまいます。タオルの上にお尻の後ろ端を乗せることで、自然と骨盤が立つようになります。

骨盤が立った状態かを簡単にチェックする方法があります。骨盤の横にある骨を腸骨といいますが、腸骨に左右の手を当てて、親指と人差し指で腸骨を挟みます。そうすると、骨盤を押さえているような感じになります。ここで骨盤を前に倒したり、後ろに倒したりしながら、一番骨盤が立った状態を確認します。骨盤が立った状態を確認するには、おへその下の下腹部で両手を広げて合わせ、親指と人差し指で三角形かひし形を作ります。その手のひらをぴったりと下腹部に当て、手のひらが床と垂直になれば骨盤が立った状態です。

この巻きタオルを使って椅子に座ると、今まで使っていなかったよい座り姿勢をするための筋肉が鍛えられます。筋肉が鍛えられれば、タオルがなくても楽によい座り姿勢ができるようになります。そのうちに、背もたれがなくても、自然と理想的なよい座り姿勢ができるようになるでしょう。

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パソコンに向かう姿勢

パソコンに向かう際の正しい姿勢は、これまで述べてきたような理想的なよい座り姿勢と基本的には同じです。

パソコンに向かう際に特に気をつけなければいけないことは、「首を前に出す」座り姿勢です。特に、集中してしまうと最初はよい姿勢をしていても、徐々に前かがみになり、首を前に出す姿勢になってしまいます。頭部が前方に突き出してしまうと、背中が丸くなり猫背になりますし、骨盤が後ろに倒れ、腰椎の前弯が少なくなります。

この姿勢を長く続けるのはとても危険です。首を支えるための筋肉にかなりの負荷がかかり、その筋肉が疲労した場合、首の骨や椎間板に大きな負荷がかかるからです。

また、首が前に出る座り姿勢だと、頭が前に移動するので、頭の重さが首にかかります。頭の重さは体重の0.08倍なので、体重が50キロの人は4キロ、80キロの人は6.4キロにもなります。調査の結果、首を前に突き出した姿勢では、理想的な自然なS字カーブの前弯姿勢と比べて、首の骨全体におよそ5.5倍もの負荷がかかっていました。

首が前に出る座り姿勢を簡単に改善できる椅子とパソコンのセッティング方法があります。まず、キーボードを打つときの肘の角度が90度になるよう、椅子の高さを調整します。パソコンの画面が目線よりも下にある場合、首が下を向いてしまいます。これを防ぐために、パソコンの画面の最上部と目線が同じになるように調節しましょう。

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床への座り姿勢は、両足を膝から2つに折りたたむ正座や両足をまっすぐに伸ばした長座など、様々な種類があります。床への座り姿勢には、背骨と両足の股関節や漆関節への影響があります。

床に座る姿勢の中でどれが身体にとってよいのか、ということに関してはいろいろな状況があるため一概にはいえません。しいて挙げるなら、背筋をピンと伸ばすように工夫したあぐら姿勢です。背骨にも足にも負担が少ない姿勢です。

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ロコモの恐怖

最近、話題になっているロコモティブシンドロームは、運動器官の障害によって移動能力の低下をきたし、日常生活で人や道具の助けが必要な状態やその一歩手前の状態をいいます。このロコモに該当するのが、変形性脊椎症です。変形性脊椎症とは、背骨に負荷がかかる結果、椎間板がすり減り、骨の変形が生じた状態をいいます。悪い姿勢は、この変形性脊椎症を生じさせる恐ろしい生活習慣病です。

一生の時間のうち、4分の1は座っていると言われています。紹介してきた骨盤を立てて座るよい姿勢を実践することや、椅子に座ったままできるタオルを使ったストレッチが有効です。悪い姿勢のクセを改善することから始めてみましょう。

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  • 北里大学 大学院医療系研究科臨床医療学 整形外科学 教授、北里大学 医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 教授

    高平 尚伸 先生

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