ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、運動神経細胞が障害されることによって全身の筋力が弱まっていく病気です。記事1『ALS(筋萎縮性側索硬化症)とはどんな病気?原因と症状について』でお話しいただいたように、症状の現れかたや進行のスピードは患者さんによってさまざまです。
本記事では、ALSがどのように診断されるのか、検査や診断方法、そして各分野で研究が進んでいる治療について、東京医科大学神経内科 主任教授 相澤仁志先生にお話を伺いました。
ALSを確実に診断する方法はないため、ALSが疑われる場合には、神経内科医による診察と針筋電図検査、末梢神経伝導検査、画像診断などの結果を組み合わせて診断を行います。
ALSの診断では、まず臨床経過と診察が非常に重要となります。上位運動神経細胞と下位運動神経細胞は、障害が起こるとそれぞれ特徴的な症状が現れます。これらの症状を専門の医師が直接確認することが大切です。
上位運動神経細胞が障害されている場合には、腱反射が亢進し、Babinski反射などの病的反射がみられます。また、下位運動神経細胞が障害されている場合には、筋萎縮と筋力低下がみられ、ときに筋肉がピクつきます。両方の症状がみられた場合は、ALSの可能性が高いと判断されます。
針筋電図検査は、針を筋肉に直接刺すことで、筋萎縮・脱力の原因が筋肉自体であるか神経が原因であるかを判断することが可能です。
末梢神経伝導検査では、末梢神経線維の異常を調べます。末梢神経伝導検査は、ALSの症状と似ている末梢神経疾患との鑑別のために行います。
頚椎や脳のMRIを撮影し、筋萎縮や筋力低下の原因となりうる他の病気がないか調べます。
ALSの治療は薬物療法で病状の進行を遅らせるというのが中心となります。現在(2017年)薬物療法として使用されているのは、「リルゾール」と「エダラボン」という薬剤です。
リルゾールにはグルタミン酸の放出を抑制する作用があります。グルタミン酸は、上位運動神経細胞から下位運動神経細胞へ信号を伝達する物質です。上位運動細胞からのグルタミン酸放出を抑制することで病状の進行を遅らせられると考えられています。
エダラボンは、フリーラジカルという有害物質を抑制する作用があります。もともと脳梗塞の治療に使われていた薬剤ですが、2015年からALSの治療にも使用されるようになりました。リルゾールと同様にALSの病状の進行を遅らせるために用いられます。
薬物療法とあわせて、患者さんの症状に応じて対症療法を行います。どのような対症療法をおこなうかは患者さん自身がALSの症状を十分に理解したうえで、患者さんの意思を尊重して決めていきます。
たとえば、食事をするのが困難な患者さんには胃ろうをつくり、きちんと栄養を摂ることがあります。また、自発呼吸が難しい患者さんには補助呼吸器をつけて呼吸をサポートするなどの処置を行います。
ALSの症状が進行すると筋力が衰え、筋肉を動かすことが難しくなってきます。しかし筋肉を動かさなければ、筋肉が固くなってしまうため、ALSでは、無理のない範囲で他動的に関節を動かす身体機能維持のためのリハビリを行います。
ALSの患者さんは、症状が進行すると、言葉を発することや筆談、身振り手振りができなくなり、意思の伝達が困難になってしまいますので、コミュニケーションの方法を工夫する必要があります。
たとえば、文字盤を使って文字を指し示す方法や、目の動きでコミュニケーションを行うこともあります。また、身体の一部を動かすことでパソコンに文字を入力できるような装置も開発されています。病状に応じてコミュニケーションの工夫を行うことも患者さんの大切なケアのひとつです。
2017年現在、本邦ではALSを対象とした肝細胞増殖因子(HGF)、メコバラミン、ペランパネルの医師主導治験が行われています。
HGFは運動神経細胞保護効果の強い生理活性物質で、HGFの第II相臨床治験が東北大学病院、大阪大学医学部附属病院で行われています。また、高用量メコバラミンの第III相臨床治験は2017年11月に徳島大学で開始し、順次全国18施設で行われる予定です。
ペランパネルの臨床治験は2017年4月から東京医科大学病院をはじめ、全国12施設で行われています。ここでは私たちが行っている、このペランパネルの治験について説明します。
ALSの治療では、2017年時点では、主にリルゾールとエダラボンを使った薬物療法が行われていますが、私たち東京医科大学では「ペランパネル」という薬剤の治験を行っています。ここではペランパネルがどのような薬剤であるかを簡単にご紹介します。
上位運動神経からの指令はグルタミン酸という神経伝達物質により下位運動神経細胞へ伝わり、筋肉を動かすようになります。この指令を受け取る受容体のひとつがAMPA受容体です。
AMPA受容体は4つのサブユニットから構成されています。正常ではGluA2というサブユニットはADAR2と呼ばれる酵素のはたらきでGluA2QというタイプからGluA2Rというタイプに変えられ(これを編集といいます)、AMPA受容体からのカルシウムイオンの流入をブロックします。
ALSの下位運動神経細胞のAMPA受容体ではADAR2のはたらきが低下するため、カルシウムイオン流入をブロックできないGluA2Qというタイプが増えて細胞内へのカルシウムの流入量が増えてしまうことが明らかになっています。
カルシウムの流入が増えてカルシウム濃度が高くなると、カルシウムの濃度に依存している酵素が活性化し、その結果、運動神経細胞にダメージを起こしてALSが進行してしまうと考えられます。
私たちが治験を行っているペランパネルという薬剤は、このAMPA受容体に作用し、異常なカルシウム流入をブロックする薬剤(拮抗薬)です。
ペランパネルは孤発性ALSのモデルマウスを用いた研究では、臨床的にも神経病理学的にも有効であったことから、孤発性ALSを対象として臨床治験を計画しました。ALSに対するペランパネルの治験は日本医師会治験促進センターに委託された国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の臨床研究・治験推進研究事業によって行われています。孤発性ALSを対象としてペランパネルの有効性と安全性を検討し、その有用性を明らかにしたいと考えています。(http://team.tokyo-med.ac.jp/shinkeinaika/clinical/index.html)
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の研究は、基礎から臨床までさまざまな分野で行われています。症状の進行を遅らせる薬剤だけでなく、遺伝子の改変や筋肉の再生といったところからアプローチしている研究チームもあります。
また、発症直後の早期の段階でALSを診断する方法の研究も進んでいます。これは早期診断によって薬剤をできるだけ早くに使用し、効果を高めるというアプローチで、注目されている研究のひとつです。
原因や治療に関してまだ明らかになっていないことが多いALSですが、日々研究は進んでいます。多くの研究者は患者さんに還元できる有効な治療を目指しながら研究を進めています。
ALSは、現時点(2018年)では確実に治療する方法がないため、患者さんは不安な思いを抱えています。大切なのはご家族とともに病気についてしっかりと理解し、病気を受け入れていただき、今後どのように生きるのかを自分で決断するという前向きな姿勢です。
ALSの治療は、一つひとつの効果が大きくない場合でも、いろんな種類の治療を組み合わせて行う「コンビネーションセラピー」によって効果が大きくなる可能性があります。治療に関する研究はさまざまなアプローチで行われていますので、諦めることなく病気と向き合っていただきたいと思います。
患者さんがALSという病気と向き合うためには、患者さんのメンタル面のサポートも非常に大切です。海外ではカウンセラーやソーシャルワーカーが加わったチームで、患者さんを心身ともにサポートする体制が整えられています。今後は本邦でも積極的にカウンセラーやソーシャルワーカーを含めたチーム医療として患者さんを身体面とメンタル面を含め全人的にサポートしていくシステムの普及が望まれます。
東京医科大学 神経学分野 主任教授
関連の医療相談が14件あります
ギランバレー、ALSについて
3月末から4月頭まで風邪。 4/15〜外傷がないのに肌がヒリヒリする。腕、背中顔など色々な場所、同時に皮膚の冷感、スースーするような感覚 4/30〜手指に力が入りにくい、動かしにくい感覚 5/5〜肩こり、筋肉痛 5/7〜筋肉のピクつき、腕の疲れ、体の疲れ、足の脱力感、つっぱる感じ があります。 明日脳神経外科でMRIとCTを取ることになっていますが、ネットで検索してALSを見つけてからノイローゼ気味で全くやる気も起きず、吐き気や喉の渇き、頭痛、食欲もなくなって、毎日泣いております。 明日検査してもすぐわかるわけではないですし、時間はかかると思いますがとにかく不安が解消されず、どう過ごしていいかわかりません。 上記のの症状があればかなり可能性は高くなるのでしょうか?
脱力感、痺れ。ALSかギランバレーへの不安
1月13日、左腕の違和感(筋肉痛のような)その後、左半身に痺れ発生。炭酸風呂に入っているようなシュワシュワした痺れと冷感。そして、脱力感。17日、個人病院の神経内科受診、脳CTでは異常なし。翌日、紹介状を持って大きな総合病院へ。脳MRIを撮り異常なし。1週間後に頚椎MRIを撮るも痺れにあたる異常なし。その間に左半身だった痺れが顔全体(顔面も含め)、右側にも広がりました。救急外来へ電話をするも脳MRIなども異常ないし、呂律がしっかりしているので緊急性はなさそう。平日、専門科で受診した方が良いと言われ1週間我慢。頚椎MRIも異常ないので、原因がはっきりせず。 ここで気になる病名です 1→ギランバレー症候群 12月21日にインフルエンザワクチン接種 顔面の痺れも含めた全身の痺れ、脱力感 力の入りにくさ 2→ALS 私自身、一番これを疑ってしまっています。 痺れ、脱力感、力の入りにくさ、手首の動かしにくさ、筋肉のピクつきなどが当てはまります。 来週、神経伝達速度検査をします。どうやったら、この不安が消えますか? この2週間、これらの病気のことを調べすぎて吐き気がおこるくらい精神的に追い込まれています。毎日、涙、涙しながら見なければいいのにALSばかり調べています。 あと、舌を見るとわかるとありますが舌を出すと小刻みに震えています。これは健常者でもあることなんでしょうか?
左腕細くなり手が上がりません
一年ほど前から左手が上がらなくなり、自分は、昔の左足の骨折が原因で筋肉が引っ張られて上がらんようになったとおもってたんですが、妻が半年ほど前だと思うんですが、お父さん左腕が細くなって来てるでと言われ自分も左腕が、正面側に上がらないので肩が横から見てたら左の肩だけ、重いものを持つと体が傾いておかしな姿勢になってると言われて、近くの整形外科に行きました。そこで三角筋とかその辺が筋肉落ちてるし、首のレントゲン撮影してもらったら頚椎が神経を圧迫してるしMRI取りに行って来なさいと言われて診察受けました。MRIの写真でも神経を圧迫してるから症状と合致はするがここからは僕では見きれないから大学病院の、脊柱外来紹介するからと言うことで大学病院の順番を待っていますが、腕が細くなってるのが、自分も気になります。神経のややこしい、病気もよく似た症状みたいなので何か、他にアドバイスがあればと思います。痺れは、たまにエアコンに入ってると手足に感じるんですが、それより筋肉のピクピクするのが気になります神経の病気を見てるとALSと言うのが初期症状でぴくつくと書いてあるのが多いのでどうなもんかなぁ怖いなぁと思っているのですが、あと現状では握力は落ちてはいません手先も普通に動きます左腰左足の外側の筋肉は歩くと重痛い感じで常に少しかばっているような状態で筋肉も引っ張られている感じです炎天下の中仕事してるせいもあると思うんですが、体重も春の健康診断より6キロほど前落ちています暑さの何かアドバイスがあれば教えて下さい
左半身不随意運動
5年ほど前から左手に違和感を感じ始め、少しずつ思い通りに動かなくなっております。 プルプルと震えて動かそうとしても動かないといった症状です。具体的には「パソコンの キーボードを押した後に指があがらない」「頭が洗えない」等です。2年前に某総合病院の 神経内科で脳のMRIとCTの検査をしていただきましたが異常なく、「手が動かなくなるのは 体質。その程度で病院に来るな。物が呑み込めなくなったらまたおいで」と言われました。 ただ、ここ1年くらい左足も思うように動かずバランス感覚がいちじるしく低下しており、また 右手も違和感を感じ始め、日常生活が一人で行えなくなってきたため、相談させていただき ました。薬でも治療でも少しでも改善できればと思っております。 下記にてその他の違和感のある症状をあげておきます。原因が違うもの等も含まれて いるのかもしれませんが、思いつくことあればアドバイスいただけたら幸いです。 ・頻尿になった(いきたくなると我慢できなくなった) ・声がかすれたように出ない時がある ・力が抜けない(常に手足に力が入っている) ・手足、わき腹等がつりやすくなった ・精神的にも異常(違和感)を感じている せめて、何科に相談すればいいかわかればいいのですがわからずのままです。 糸口でもよいので助けていただけないでしょうか。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「筋萎縮性側索硬化症」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。