インタビュー

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の薬物治療とサポート

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の薬物治療とサポート
加藤 宏之 先生

国際医療福祉大学病院 教授  同 神経内科部長 同 神経難病センター長

加藤 宏之 先生

ALSは、原因が明らかになっていないため「治す」ことが難しい病気です。発症してからは、食べる、話すなどの日常生活における重要な行為を、できる限り安全に快適に行えるようにサポートすることが重要です。国際医療福祉大学神経内科の加藤宏之先生にお話をうかがいます。

治療の主な目的は進行を遅らせること

ALSの治療は、原因が分かっていないため「根治」を目指すことはできません

そのため、「進行を遅らせる」ことが現在の治療の大きな目的になります。進行を遅らせるために、神経細胞の変性に関係しているといわれる興奮性アミノ酸※やフリーラジカル※を抑えるような薬を使用します。興奮性アミノ酸の毒性は神経細胞を死なせてしまい、フリーラジカルは過剰に発生すると神経細胞を障害してしまうと考えられています。

※興奮性アミノ酸・・・細胞内に多量に含まれ、生体内のエネルギー代謝において興奮性の刺激を伝達する物質。

※フリーラジカル・・・不対電子を持つ原子もしくは分子。他の分子から電子を奪い取る力が強く不安定。相手の物質を還元(酸化)させる力が強い。老化やがんはフリーラジカルの障害がもとで起こる。

興奮性アミノ酸やフリーラジカルを抑えるのに有効な薬

現在ALSの治療で使用されるリルゾールという薬は、日本では1999年から使用されています

この薬は、ALSの進行を遅らせることにおいて非常に高い効果があることがわかっています。進行を遅らせるということは、結果として患者さんの生存期間を延ばすことにつながります。リルゾールの使用により進行を遅らせることのできる期間は2~3ヶ月程度といわれています。

また、フリーラジカルの働きを抑える薬としてエダラボンという薬が2015年に厚生労働省に認可されました。エダラボンは、もともと脳梗塞の薬として使用されていましたが、ALSの進行を遅らせ、生存期間を延ばすために有効であるとされています。ただし、エダラボンがどのくらいALSの進行を遅らせることができるかという具体的な期間は分かりません。今後研究データを積み重ねていくという段階です。

ALSのリハビリの考え方

ALSにおけるリハビリは、あくまで機能維持のために行うことを基本としています

筋肉は動かさなければ硬くなってしまうため、無理をしない範囲で筋肉を使い続けること、動かし続けることが重要です。加えていうならリハビリは、ALSの患者さんにとって日常の随意運動を安全に少しでも快適に行えるためのサポートシステムでもあります。

自分で歩くことを諦める、美味しいものを食べることを諦めるのは人間にとってとても難しいことです。ですから、歩行が難しい時は杖を使う、歩けない時には車いすを使う、うまく食事ができない時は食事がしやすいスプーンを使う、普通の食事が困難な時はペースト食を摂るなどの方法は、患者さんの楽しみや自尊心を維持することにもつながります。

サポートをうまく利用して、たとえばコミュニケーションボードという文字が書かれた文字盤を使って俳句を詠んだり、本の執筆活動につなげている方もいらしゃいます。また、今はインターネットの時代ですから、パソコンを使える場合は何かを発信することも可能です。これらのサポートを、医師や看護師をはじめとした栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ケアマネージャー、ボランティアの方などが一丸となってチームで行うことも重要なポイントです。

ロボットスーツHALHybrid Assistive Limb)を使ったリハビリ

ロボットスーツ「HAL(Hybrid Assistive Limb)」は、体に装着して動かない手を補助的に動かす装置です

脳卒中によるマヒのリハビリなどでも使用されていますが、ALSのリハビリでも積極的に利用されています。日常生活において「動かない」体を補助的にでも「動かせる」ようになることは、患者さんの心理に大きく影響します。HALのようなリハビリ器具の発展は患者さんのQOL(生活の質)に非常に役立ちます。

このようなロボットの能力は、今はまだ補助的に体を動かす程度でそれ以上のサポートが可能なレベルには至りません。しかし将来的には、自動的に手足を動かしてくれるロボットや、さらには考えている思考を読み取って自分の代わりに部屋の電気をつけたり他者とコミュニケーションをとってくれるようなブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)が開発されることがあるかもしれません。そのようなBMIが開発されたならこれほど素晴らしいことはなく、本当にそのような時代がやってくるなら、ALSのような病気を抱えていても医療の介入なしに社会で十分に暮らしていくことが可能になるでしょう。