院長インタビュー

2025年に向けて増えていく医療ニーズに応えたい―JAとりで総合医療センターの取り組み

2025年に向けて増えていく医療ニーズに応えたい―JAとりで総合医療センターの取り組み
新谷 周三 先生

JAとりで総合医療センター(旧:取手協同病院) 名誉院長

新谷 周三 先生

この記事の最終更新は2017年11月02日です。

JAとりで総合医療センターは、1976年9月に茨城県取手(とりで)市に誕生しました。旧取手協同病院と旧龍ヶ崎協同病院が合併したのが始まりであり、2011年に「取手協同病院」から現在の病院名「JAとりで総合医療センター」に変更されました。

病床数は414床で、取手市を中心とした茨城県南部から、我孫子市を中心とした千葉県北西部まで、53万人相当の医療圏を担っています。

全国の自治体で人口減少や高齢化といった問題をかかえる中、同院はどのような取り組みを行っているのでしょうか。院長である新谷周三(しんたにしゅうぞう)先生に、お話を伺いました。

当院は、2017年現在、全国に108あるJA厚生連病院のひとつです。現在、25の診療科を構え、救急救命医療から回復期リハビリテーション、周産期/小児医療、在宅医療(訪問看護)、腎透析センター、糖尿病センター、予防医学(人間ドック)に至るまで、あらゆる疾患や病状に対応しています。

取手市は、全国の自治体と同様、高齢化(2017年現在、32.3%)が進みつつあります。しかし、都内からのアクセスがよく、大手企業(キャノン、キリンビール、日清食品、伊藤ハムなど)の工場もあるため、比較的若い世代も多い地域です。

このため、幅広い世代の診療に対応できるよう、周辺の医療機関と連携しながら、医療の充実を図っています。

 

図2 当院ヘリポートから搬送される救急患者さん

当院ヘリポートから搬送される救急患者さん

 

図3 回復期リハビリ病棟の屋上庭園にて

回復期リハビリ病棟の屋上庭園にて

 

図4 当院のNICUにて

当院のNICUにて

 

当院は救急患者さんの受け入れが多いのが特徴です。救急車の搬入台数は、年間5,000台前後です。ERを直接受診する患者さんも多く、小児の患者さん10,000人を含めて、年間26,000人を超える数字となっています。この数字は、茨城県内の病院でTop5に入ると思います。

また、我孫子市など周辺の自治体には、救急の受け入れが常時整っている病院が少ないこともあり、取手市外からも多く搬送されてきます。基本的には断らない方針ですが、ベッドが満床だったり、当直医が処置中だったりする時には対応が困難であるのが、心苦しいところです。

 

当院の救急の患者さんは、脳卒中の方が多くなっております。そのため千葉県北西部・茨城県南部を包括する「広域千葉/茨城・脳卒中地域連携パス」というものをつくり、病院間で連携して診療を行っています。

当院の特徴は、脳梗塞のt-PA(血栓溶解療法)を行う症例の多いことです。この治療は、脳梗塞の発症早期(4時間半以内)にこの薬を投与することで、後遺症の発現を最小限に抑えることが期待できる治療です。当院では、脳神経外科と神経内科が協力して行っています。脳梗塞の患者に対するt-PA投与例の割合は、全国平均で7〜8%ですが、当院では15%(2016年度は28例)と高い数字を誇っています。この数字は、救急体制も含めて脳卒中診療の質を判断するひとつの指標とされています。

内科的治療だけでなく、脳外科的治療ももちろん多く行っています。脳外科の年間の手術例は175件(2016年度)で、難易度の高い脳腫瘍頭蓋底腫瘍など)の手術に対しても、高い専門性を有しています。

 

(図5)河野脳外科部長の手術風景

河野脳外科部長の手術風景

 

当院は、介護保険制度がまだ始まっていない1994年から、往診と訪問看護を行ってきました。この30年近くの間に、実数で1,600名以上の患者さんの在宅に対応してきました。現在は8名の看護師(常勤)が、訪問看護に従事しています。

毎月3、4名ほど新たな患者さんを受け入れており、対応患者は常時100名前後で運営しています。また、現在では、この地域に在宅医療を主体に開業される先生や訪問看護の事業所が増えたので、そちらに患者さんを依頼することも多くなりました。急変時の往診から、お看取りまで対応される開業医の先生もいらっしゃいます。当院では、今後も地域の医療機関と協力しながら、在宅医療に貢献していきたいと思っています。

 

当院のカバーしている医療圏の人口は、約53万名です。取手市や守谷市をはじめとして、牛久市や龍ケ崎市、近隣の千葉県我孫子市など広範囲にわたります。これに加えて、柏市からも受診する患者さんがいらっしゃいますので、実際にはそれ以上の数字です。

この辺りの地域は、ほとんどが東京のベッドタウンとして発展してきた町です。当時、土地が比較的安いこともあって、昭和40年代から50年代にかけて、また、バブル時代の頃には多くの人が東京から引っ越してきました。

その世代の方々が、現在70歳くらいになっています。平成の初めには8%だった高齢化率も、現在は32.3%(2017年)です。これから2025年に向け、後期高齢者の人口もどんどん増えていくことでしょう。

そういった事情から、この地域は医療・介護の需要が、今後、全国平均よりも高く見込まれています。2035年ごろまでは右肩上がりで増えていくと予想されるため、当院が地域の中核病院として担う役割も、ますます重要であると考えています。
 

これからの医療のあり方として、病院完結型の医療ではなく、地域完結型の病院をめざす必要があると思います。当院を中心に、回復期や慢性期、療養型の病院、在宅診療所など、複数の医療機関や施設と連携をとっていくことが大切です。

取手市周辺には、老人保健施設や特別養護老人ホーム、サービス付き高齢者住宅などが増えています。都内と比べ、土地代の安さや、都内からのアクセスの良さが理由ではないでしょうか。

この地域で必要な医療が完結できるように、これからも連携を推し進めていくつもりです。

 

(図 6)病棟にて多職種によるカンファレンス

病棟にて多職種によるカンファレンス

 

当院は「東京医科歯科大学」の主たる関連病院になっているため、医師の多くは同大学から赴任しています。2017年4月現在、常勤医は105名、一部の診療科を除いて医師の不足はほとんどありません。ただ、困っているのは救急(ER)科です。日勤帯は非常勤の救急(ER)専門医が常駐していますが、常勤医がいないことが一番の課題であり、できれば3名確保できればと考えています。

小児科は、2017年度から、常勤医が8名から6名に減ってしまいました。そのため、2017年4月から夜間(23時以降)の小児救急は救急搬送の重症例のみと、一時的に限定しています。医師の数が戻れば、また元の体制に戻せるでしょう。あとは眼科にもう1名、医師を増やせたらと思っています。

 

私が、当院の医師に求めたいのは、Physicianであると同時にScientistであること、「Physician Scientist」です。

医師として、医長クラスにもなれば、病院の経営面も考えながら、臨床で成果を出していくことが求められます。しかし、それだけではいけません。日々の臨床の中からわき出た疑問点を総括し、その検討と探求を積極的に行っていく姿勢も非常に大切なことなのです。臨床でのスキルを高めていくと同時に、科学的な目も養っていってほしいと思います。その点で、当院は、前院長の時代から、学会発表・論文発表を、医師のみならず全職員に対し、コメデイカルも含めて奨励してまいりました。

 

当院の持っている役割は、3つあると考えています。一つ目は、JA茨城県厚生連グループに属する公的病院としての役割。二つ目は、茨城/千葉にわたる53万人の医療圏の救急基幹病院としての役割、三つ目は、取手市民病院(公立病院)の代わりとなる役割です。取手市には市民病院がありません。その分、地域のみなさまが必要とされる医療を提供していかなければと考えています。

一方で、当院がこの地でめざすのは、3つの幸せです。まず、①患者さんの幸せ、次に、②地域の幸せ、それと同時に、③当院で働く職員の幸せです。職員が幸せでないと、病院は成り立ちません。この3つの幸せを同時に実現できるよう、今後も努力していきたいと考えています。

 

病院長 新谷周三先生

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