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緑内障を早期発見し、治療を継続する重要性

緑内障を早期発見し、治療を継続する重要性
中野 匡 先生

東京慈恵会医科大学 眼科学講座 主任教授

中野 匡 先生

目次
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視野が徐々に狭まってくる目の病気、緑内障。進行するまで症状に気付きにくいことから、発症しているにもかかわらず未治療の患者さんが多いといわれています。早期に発見して治療すれば進行を抑制できるため、まずは眼科で適切な検査を受けるとともに、診断がついたら治療を継続することが大切です。

今回は、緑内障の検査と治療について、東京慈恵会医科大学附属病院 眼科主任教授の中野(なかの) (ただし)先生に伺いました。

緑内障は、進行するまで自覚症状がなく、自分では気付きにくい病気です。したがって、自覚症状がないときでも医療機関にかかり、詳しい検査を受けることが重要となります。

一般的な健康診断でも目の検査は受けられますが、定期健康診断で義務付けられている検査項目は視力検査のみ(労働安全衛生法第66条)です。眼科を受診し、眼底検査や視野検査などの詳しい検査を受けることが緑内障の早期発見につながります。

緑内障の発症リスクとされる、家系に緑内障の患者さんがいる場合や、強い近視がある場合などは、40歳を過ぎたら、自覚症状がなくとも、まずは眼科検診を受けることをおすすめします。

緑内障の検査方法には、次のようなものがあります。

眼圧検査は、眼球の形を維持するために必要な眼球内の圧力(眼圧)を調べる検査です。目に空気を吹き付けて眼球の固さを測定する検査方法が一般的です。

ただし日本における緑内障の患者さんの約7割が、眼圧が高くない正常眼圧緑内障に分類され、眼圧検査だけでは、緑内障を診断することは困難です。

眼底検査は、目の奥の網膜を観察する検査方法です。緑内障に特徴的な変化を確認できるため、緑内障の検査として有用だと考えられます。ただし、近視がある患者さんの場合、緑内障の変化と見分けがつきにくく、眼底検査では診断が難しい場合があります。

視野検査は、まっすぐ前を見ているときに、どのくらいの範囲が見えているかを調べる検査です。通常片方の目を隠して行い、自覚症状がない患者さんでも視野異常を発見できる可能性があります。ただし、検査を受ける方の自覚に依存する方法であるため、患者さんの返答が結果に影響する場合もあります。

OCT(光干渉断層計)とは、光の特性(干渉)を利用して眼底を撮影する、三次元の画像解析装置を用いた検査方法です。客観的な検査方法であり、二次元の眼底写真と比べて、より多くの情報を得ることができます。

また、緑内障になる手前の段階である“前視野緑内障”のうちから、眼底の網膜に緑内障の特徴的な変化が出ていれば捉えることができるのも、OCT(光干渉断層計)の特徴です。前視野緑内障の時点で発見できれば、より早く治療を始めたり、治療を始めるタイミングを検討したりすることができます。

OCT(光干渉断層計)検査結果サンプル 緑内障レポート

OCT(光干渉断層計)検査結果サンプル 緑内障レポート
OCT(光干渉断層計)検査結果サンプル 緑内障レポート

緑内障にかかっているかどうかを自分で調べる方法として、かつてテレビ番組の放送終了後に流れていたノイズ、いわゆる“砂嵐”の画面が活用できます。視野が欠けていると、ノイズの中に一部固まっている部分が見られるためです。そのほか、簡易的に緑内障のセルフチェックができる検査シートを、インターネット上で利用するのもよいでしょう。

ただし、セルフチェックは上手にできない場合があるため、正常という結果でも安心せず、気になるところがあれば眼科にかかることが大切です。

治療の基本となる考え方は、緑内障のどのタイプでも同じで、眼圧を下げることです。日本において緑内障の患者さんの約70%を占める正常眼圧緑内障は、眼圧が正常範囲に収まっていますが、やはり眼圧を下げる治療によって進行を遅らせることが期待できます。できるだけ早く検査により正しく診断し、適切な時期に治療を開始し、視野への影響を最大限抑えることが重要です。

治療は、点眼薬による薬物治療や手術治療が主流になります。

緑内障のどのタイプの患者さんでも、まずは眼圧を下げる作用のある点眼薬を用いて治療することが基本です。それでも十分に眼圧が下がらないときや、視野障害が進行していく場合には、さらに眼圧を下げるために手術治療を考えます。

原発開放隅角緑内障の代表的な手術治療として、“濾過(ろか)手術”や“流出路再建術”などがあります。濾過手術は、目の中に満ちている房水(ぼうすい)の流出量を増加させるために、流出路を新しく作成する手術です。その中でも、“線維柱帯切除術”という方法が多く選択されます。一方、流出路再建術は、房水の出口である隅角(ぐうかく)に位置する線維柱帯での房水の流れを妨げる抵抗を解除し、元の流出路からの房水排出量を増加させる手術です。流出路となる線維柱帯を広げて再利用する“線維柱帯切開術”という方法がもっとも多く普及しています。また、外来で実施できる治療として、線維柱帯にレーザーを照射し、房水の排出を促す“レーザー線維柱帯形成術”があります。最近では、患者さんの体への負担が抑えられる道具(デバイス)を用いた新しい術式も使われるようになってきました。

原発開放隅角緑内障の手術治療

原発閉塞隅角緑内障の代表的な手術治療には、“レーザー虹彩切開術”があります。レーザー虹彩切開術では、虹彩に穴を開けて房水の通り道をつくり、房水を隅角に流れやすくします。最近では、白内障手術(水晶体摘出術)もあらゆる閉塞機序に対して有効な手術治療として注目されています。

原発閉塞隅角緑内障の手術治療

緑内障によって一度欠けた視野は元に戻せないものの、眼圧を下げる治療をすれば病気の進行を遅らせることが期待できます。しかし、緑内障の治療を中断してしまう患者さんは多くいらっしゃいます。その理由の1つとして、視野が回復したりすることがなく、自覚症状が改善したという実感を得にくいことが挙げられるのではないかと思います。

そのため患者さんの中には、治療の意味が十分理解できず、点眼治療が適切にできなかったり、通院が面倒になって治療を投げ出してしまったりする方も少なからず見受けられます。せっかく診断がついても正しく治療を継続しなければ症状が進行してしまうので、自己判断で中断するのはとてももったいないことです。

緑内障の点眼治療を始めるときは、患者さんに病気のことをしっかりと説明して、納得のうえで治療を受け入れていただくことが大事だと考えています。その後、治療を継続していくなかで、毎日のことなので点眼を忘れてしまう方もいらっしゃると思います。それを防ぐために、歯磨きするときや入浴の前に点眼するといった、自分なりの決まり事にするなど工夫をするのもよいでしょう。

眼科医としては、患者さんに治療のモチベーションを保っていただけるよう丁寧にご相談に応じたり、治療を継続する重要性を丁寧に説明したりして、患者さん一人ひとりに合わせてサポートすることを大切にしています。

中野 匡先生

緑内障の患者さんの中には、インターネットで情報を調べて、“失明する”という可能性を重く捉えすぎて落ち込んでしまう方がいらっしゃいます。確かに、緑内障を放置していたら最後は失明に至ることもあり得ますので、注意をしていただきたいと思います。日本では、失明の原因となる眼科疾患の1位は緑内障だというデータもあります。

しかし緑内障は、適切な治療によって進行を抑えることが十分期待できる病気です。私が診療するときは、緑内障の診断がついた患者さんに「早く見つかってよかったですね。ここから頑張りましょう」と、前向きに捉えていただけるよう、早期発見とともに治療を継続する重要性について丁寧にお話しするようにしています。

日本における緑内障の患者さんのうち、発症していることに気付かず、治療を受けていない方は約90%にものぼると推定されています。つまり、緑内障であることが分かって治療が始められるのは、患者さんのうちおよそ10%なのです。

「この治療には意味があるのかな」と悩むことなく、ぜひ治療を続けてください。それが緑内障の治療において一番大事なことだと思います。

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