埃っぽい環境下や特定の季節において、かゆみ・充血・目やに・涙目・異物感といった目の症状が起こりやすいという方は多いのではないでしょうか。こうした目の不快な症状は、眼球の表面にアレルゲンとなる物質などが付着することで起こります。目の不快感を和らげたり症状の悪化を防いだりするためには、薬液によって目の表面を洗い流す“洗眼”が効果的です。洗眼の具体的な方法と注意点について、順天堂大学医学部 眼科学教室 准教授の猪俣 武範先生に聞きました。
目は常にさまざまなトラブルにさらされているため、通年にわたり症状が起こる方や、特定環境下で症状が悪化する方もいます。また、目がかゆい、異物感があるなどの不快感を覚える場合は、異物の混入や病気が原因となっていることがあります。そのなかで、比較的多くの方が悩まされている病気には以下のようなものが挙げられます。
アレルギー性結膜炎とは、何かしらのアレルギー物質が目の表面に炎症を起こしてかゆみや充血(炎症)、違和感などを引き起こす病気です。
アレルギー性結膜炎には季節性アレルギー結膜炎と通年性アレルギー結膜炎があります。
前者は、アレルギー症状を引き起こすアレルゲン(スギ、ブタクサなど)が飛散する時期に症状が出るタイプです。
後者は、ダニ、ハウスダスト、ノミ、ペットの毛などが原因となり症状が現れるタイプで、1年を通じて症状が現れます。季節性アレルギーと通年性アレルギーの両方のアレルギーを持っている方もいます。
まずは何が原因で症状が出ているのかについて知り、日常生活の中でその原因を避けるための行動をとることが重要です。
アレルギーが原因の場合は、血液検査で自分の持つアレルギーを調べることができるので、一度血液検査を受けてみることをおすすめします。
ドライアイとは、何らかの要因で涙の量が不足している、または成分バランスに変化が起こっているために、目が慢性的に乾いてしまっている状態を指します。これによって眼表面に傷がついたり、細菌感染を起こすリスクが高まったりします。遺伝的要因・環境的要因・生活習慣などのさまざまな要因が相互に関与しているため“多因子疾患”といわれています。
また、近年の研究で、アレルギー性結膜炎がドライアイの発症および重症化に関係していることが分かってきました。両者の因果関係についてまだ詳しいことは分かっていませんが、アレルギー性結膜炎が原因で起こる目の症状をケアすることで、ドライアイの重症化予防にもつながる可能性があると考えられます。
眼科での治療を受ける前段階として、日々のセルフケアが重要です。セルフケアの大きな目的は“重症化を予防すること”にあります。ハウスダストやペットの毛、花粉などは日常生活のあらゆる場面に存在するため、自分自身の状況を把握して、状況に応じたセルフケアをしっかりと行うことが大切です。セルフケアでは、目の表面を薬液で洗う洗眼や点眼が効果的です。
2020年、日本のアレルギー性結膜疾患診療ガイドラインの改訂版が、一足先に海外の英語論文に収載されました。改訂版のガイドラインでは、従来のセルフケアの方法に加え、洗眼液が眼表面からの抗原除去に有用であることが明記されています。また、洗眼には目の表面からアレルゲンを洗い流す作用があるので、目に炎症が起こる病気の予防効果および重症抑制効果が期待できます。
ただし、誤った方法で洗眼をすると目に異物が入ったり、眼表面のバランスが崩れて目に障害を引き起こしたりする可能性があるので、用法・用量を守り適切な方法で行うことが大切です。
一般的な洗眼の手順(カップ式の場合)は以下のとおりです。
1、薬液をカップに規定量入れて、薬液がこぼれないようにカップを目にしっかりと押し当てる。
2、カップを目に押し当てた状態のまま頭ごと体をそらして大きく上を向き、数回まばたきをする。
洗眼を行うにあたり重要なのは、「定期的に洗眼することを習慣化する」「忘れずに行う」です。この2つを守るための1つの案には、外から帰宅したときに、手洗いやうがいと同じタイミングで洗眼も行う形が挙げられます。もちろん、ご自身が忘れにくいタイミングであれば、たとえば食事の前などでも構いません。
洗眼は、ご自身の体調の変化に合わせて取り入れることが大事です。特定の季節に飛散する花粉が原因で目の症状が出る方であれば、自分のアレルゲンとなる花粉が飛び始める少し前に洗眼を行いましょう。たとえば、春にアレルゲンが飛散して症状が出る方であれば春の花粉が飛ぶ約2週間前、秋に症状が出る方は秋の花粉が飛ぶ約2週間前になったら洗眼を開始します。
また、ハウスダストやペットの毛などに対するアレルギーで1年中症状が出る場合は、時期を問わず恒常的に洗眼を継続したほうがよいかもしれません。ハウスダストや動物の毛で症状が出ている場合、室内にあるアレルゲンは完全に除去できないため、完全に症状を改善することは難しいですが、洗眼を定期的に行うことで眼表面からアレルゲンを除去すれば、一定の症状軽減効果が望めるでしょう。どのような頻度やタイミングで洗眼を行うべきかを判断するためにも、上述したように、目にさまざまな不快症状をきたしているアレルギーの原因が何であるかをしっかり突き止めることが大事です。
医療機関にて処方された点眼薬と洗眼薬の併用は可能です。その場合、まずは洗眼をしてから点眼薬を使うという手順を守ってください。洗眼前に点眼薬を差すと、点眼薬が洗い流されてしまうためです。もしも先に点眼薬を差してしまった場合は、5分以上の間隔を開けて点眼薬が吸収されるのを待ってから洗眼を行ってください。
正しい方法で洗眼を行わないと、かえって目に傷がついてしまったり、感染を起こしたりする危険性があります。そのため、以下に述べる注意点を守って洗眼を行うことが大切です。
防腐剤含有の薬液で洗眼を行うと、眼表面に傷がつく、アレルギーを起こす、角結膜炎などの別の病気の発症につながるといった危険性が生じるため、“防腐剤フリー”などと洗眼薬液のパッケージに明記しているものを選ぶようにしてください。
薬液そのものが汚染しないよう、管理には注意が必要です。開封後は一定期間内に使い切ってください。開封してから使いきれずに時間が経ったものや、昔に購入したものは使わないほうがよいでしょう。
カップを使ったら必ず水洗いをして乾かしましょう。新しい薬液に買い替える際は、カップも一緒に新しくしてください。古いカップを使っていると、薬液が新しくても菌が繁殖して感染を起こす可能性があります。また、感染予防の観点から、家族内でもカップは使い回さず、1人1つずつ使いましょう。
目の中に異物が入ってしまう恐れがあるため、洗眼の前には目の周りを清潔にする必要があります。また、メイクをしている場合は、しっかりと落として目周辺を清潔にしてから洗眼を行ってください。
アレルギー性結膜炎やドライアイなどが原因で目に症状が起こっている場合は、眼科で治療を行うことも可能です。セルフケアを行っても目の症状が治まらないときは、眼科で治療を受けましょう。
患者さんの重症度に応じて、抗アレルギー点眼薬もしくは抗アレルギー内服薬による治療を行います。これらの治療を行っても自覚症状が改善しない、あるいは目の炎症が治まらない場合には、ステロイドもしくは免疫抑制剤を追加で投与します。
ドライアイの治療の場合も、アレルギー性結膜炎と同様に点眼薬による治療が基本となります。
洗眼をはじめとしたセルフケアをする目的は、さまざまな目の病気の発症および重症化を予防することです。そのために、まずは目に症状が出る原因や症状が出やすい時期などを含め、自分自身の状態を知ってください。それが把握できたら、ご自身に合ったセルフケアの方法をご自身にとって適切なタイミングで取り入れましょう。目にさまざまな症状が生じる前から適切なケアを心がけることで、症状の軽減や重症化予防につながっていくのではないかと思います。
そして、セルフケアや予防行動を心がけても症状がよくならない場合は、医師による治療が必要です。困ったときや悩んだときは専門医を受診して、しっかりと治療を受けてください。
順天堂大学 医学部 眼科学教室 准教授
順天堂大学 医学部 眼科学教室 准教授
日本眼科学会 会員日本角膜学会 会員日本眼炎症学会 会員
1981年5月、千葉県船橋市生まれ、茨城県取手市育ち。2006年順天堂大学医学部医学科卒業。2008年東京大学医学部附属病院初期臨床研修医終了。2012年順天堂大学大学院眼科学にて医学博士号ならびに日本眼科学会認定眼科専門医取得。2012年からハーバード大学医学部スケペンス眼研究所へ留学。留学中にはボストン大学経営学部Questrom School of BusinessでMBA取得。2019年11月より順天堂大学医学部附属病院眼科准教授として、臨床、研究、教育、経営に携わる。専門は、ドライアイ、角膜移植免疫、モバイルヘルス、IoMT、AI。趣味は硬式テニス。
猪俣 武範 先生の所属医療機関
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