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薬が効かない心不全……高齢化で増加が予想されるHFpEF(ヘフペフ)とは?

薬が効かない心不全……高齢化で増加が予想されるHFpEF(ヘフペフ)とは?
原田 栄作 先生

熊本機能病院 循環器内科 統括部長、熊本加齢医学研究所 、熊本健康体力づくりセンター 所長

原田 栄作 先生

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心臓の機能が低下する心不全。中でも、高齢の女性を中心に、心臓の収縮機能は衰えていないのに生じる “収縮機能が保たれた心不全(HFpEF:ヘフペフ)”が増えています。

熊本機能病院 循環器内科統括部長、熊本健康・体力づくりセンター所長、治験管理室長の原田 栄作(はらだ えいさく)先生は「今後の高齢化社会において、ますます増えていくHFpEFの治療法の確立を急ぐ必要がある」とおっしゃいます。原田先生に、HFpEFの特徴や現状の治療、そして今後の展望についてお話を伺いました。

心臓は、全身から血液を受け取って(拡張能)、それを押し出すこと(収縮能)によってまた全身に血液を送り出しています。この拡張または収縮の機能が低下し、身体に必要とされる血液を送り出せない状態を“心不全”と呼びます。心不全は、心筋梗塞(しんきんこうそく)狭心症(きょうしんしょう)動脈硬化高血圧不整脈など、心疾患をはじめとしたさまざまな原因によって生じます。

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心不全では、収縮能が低下している場合、1回に出す血液の量を確保するため心臓の器自体が大きくなり心拍数を増やしてなんとか血流量を保とうとします。そのため、負荷がかかると、その予備能力が低いために血液を全身にうまく循環できず、息切れ、むくみ、倦怠感などを生じるようになります。

拡張能が低下している場合、心臓肥大(心臓の筋肉が分厚くなること)が基礎にあることが多く、心臓自体が大きい割に、器自体はむしろ小さいことが多いのが特徴です。そのため、負荷がかかると、その予備能力が低いために収縮能低下の際と同様、血液を全身にうまく循環できず、息切れ、むくみ、倦怠感などを生じるようになります。

心疾患による死亡は日本人の死因第2位を占めています(2021年時点)。また、2017年時点では心不全の5年生存率は約50%であり、心不全で入院したことのある方のうち過半数が5年の間に亡くなっていることになります。

罹患率は高齢になるほど高くなり、患者数は全国で約120万人、2030 年には130 万人に達すると推計されています。患者数は年間1万人ずつ増えており、“心不全パンデミック”とも呼ばれています。

これまで心不全は、心臓が血液を全身に送り出すためにはたらく収縮能が低下するために起こることが多いとされてきました。このような心不全を“HFrEF:へフレフ”といいます。

HFrEFの主な原因は、心臓に血液を送る冠動脈が狭くなり血液が十分に運ばれなくなる冠動脈疾患です。心臓の筋肉の収縮力が弱くなり、左心室が拡張してしまう拡張型心筋症などの心筋疾患が原因となることもあります。

治療は薬物療法が有効で、ACE 阻害剤などの系統の薬剤、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、糖尿病2型の治療薬でもあるナトリウム依存性グルコース共輸送担体2(SGLT2)阻害薬など複数の薬が開発され処方されています。治療によって症状の改善や延命につながる効果が期待できます。

最近は、心臓の収縮機能は保たれているのに心臓が硬くなり、拡張しにくくなって全身からの血液を受け取る機能が落ちる心不全が増えています。このような心不全を“HFpEF:ヘフペフ”と呼びます。これまであまり認識されていなかったのですが、心不全の患者さんの約半数はHFpEFだと欧米や日本の研究で報告されています。

HFpEFの患者さんはHFrEFの患者さんと比較してより高齢で発症しやすく、女性に多いことが分かっています。動くと息切れがする、体のむくみがあるなどの症状が特徴です。

原因は高血圧がもっとも多く、不整脈糖尿病貧血なども原因となることがあります。予後はHFrEFと比べると多少良好であるという報告もありますが、高齢になるとさほど変わらないようです。

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薬物療法が有効なHFrEFと違い、HFpEFでは有効な治療法は確立には至っていないのが現状です。現段階では、鬱血に対する利尿薬、高血圧、糖尿病、心房細動などの併存症の治療が中心です。

そのような中、HFrEFに有効とされる薬剤の1つSGLT2阻害薬の一部が2022年よりHFpEFへの適応を認められ、HFpEF患者さんへの福音となっています。さらなる、今後の治療法の確立が期待されます。

私が所属する熊本機能病院の循環器内科では、救急の患者さんの受け入れから治療、予防やリハビリテーションまで、心疾患に対する一貫した治療を実施しています。

特に心不全患者さんのマネジメントに力を注いでおり、HFpEFを含む心不全患者さんの診療に尽力しています。ほかの病気で当院に入院している高齢の女性患者さんにむくみがあるため検査をしてみると、HFpEFだったというケースも少なくありません。

HFpEFの患者さんは、外来ですぐに分かる特徴があります。80 歳以上、女性、高血圧、脈圧(最高血圧と最低血圧の差)が大きいといった要素が多くみられるのです。また、採血では HFrEF よりもBNP(心臓から出るホルモンであり、心不全になると増加する)の値がそこまで高くなく、心エコーでは心臓の筋肉が分厚くなっているという特徴があります。

HFpEFの治療法確立は喫緊の課題であり、やっと近年糖尿病薬の1つSGLT2阻害薬がこの治療薬として認められました(2023年1月時点)。ほかにも、世界中でHFpEFの患者さんへの治療効果の検証は進んでいますが、すぐに結果が出るものではないのです。

私たちの調査では、HFrEFの患者さんには治療の要であるとされるβ遮断薬を女性のHFpEF患者さんが服薬していると、心不全の重症度の指標であるBNPがむしろ高くなっていることが判明しました。この機序(きじょ)(しくみ)としては、更年期を過ぎて女性ホルモンが減少することによって、女性ホルモン受容体と交感神経受容体の連携に変化が生じている可能性を考えています。つまり、HFpEFの患者さんでは治療法が男女で異なる可能性がありそうです。

HFpEFの患者さんは、高齢化社会で今後ますます増えていくと予測します。そのため、治療法の確立が望まれています。HFpEFは、HFrEFと異なり、心臓エコーでの収縮能のみならず拡張能、あるいは採血でのBNP値を評価することで診断されるため、気付かずに放置してしまうこともあります。特に高齢の女性で、動くと息切れがする、体のむくみがあるなどの症状があれば、早めに循環器内科医師にご相談ください。

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