“閉瞼不全”とは、まぶたを完全に閉じられなくなる状態のことです。重度の場合は視力障害や失明につながる可能性もあります。
“兎眼”と呼ばれることもありますが、現在では適切な表現ではないともいわれています。閉瞼不全は、どのような原因で起こるのでしょうか。また、治療にはどのような選択肢があるのでしょうか。熊本機能病院 形成外科・小児形成外科 部長の田邉 毅先生にお話を伺いました。
閉瞼不全とは、顔面神経麻痺などのさまざまな原因によってまぶたを完全に閉じることができなくなり、眼球の角膜が露出したままになる状態のことです。古代ローマではウサギは目を開けて寝ると思われていた1)ために、“ウサギの目”と呼ばれましたが、実際はウサギは瞬きも行い、寝ているときには目をつぶりますのでウサギが目を開けて寝るというのは誤りです。
瞬きは、目の角膜表面に涙の層を保持する非常に重要な役割を持っています。しかし、閉瞼不全になると当然不完全な瞬きしかできなくなり、角膜表面の涙の層が消失すると、さまざまな症状が現れるようになります。
1)Phillips AA, Willcock MM (1999) Xenophon & Arrian on hunting with chaunds.Aris & Phillips Ltd, Warminster, England
閉瞼不全の症状や程度はさまざまです。初期には、角膜のバリアである涙が継続して流失、蒸散するなどして保護機能が低下すると、目がごろごろする、痛い、いつも涙が流れるなどの症状を感じるようになります。
閉瞼不全を長期間放置すると、乾燥により角膜表面が損傷し角膜潰瘍を生じることがあります。また、感染を起こすと重症化することもあり、角膜が白濁し、視力が出なくなることがあります。まずは早急に眼科を受診することが大切です。
閉瞼不全の原因はさまざまです。感染、外傷、腫瘍、代謝、医原性など多彩であり、最多はウィルス感染によるとされるベル麻痺による顔面神経麻痺です。自然回復することが多いですが、さまざまな程度、部位によって麻痺が残存することもあります。外傷を原因とするものは眼瞼の瘢痕性閉瞼不全と呼びます。
原因としてもっとも多いのは、顔面神経麻痺です。顔面神経麻痺は表情筋麻痺であり、発症するとうまく笑えない、目を閉じにくい、眉が上がらない、口を閉じることができない、あるいは閉じる力が極端に減弱するなどの症状が現れます。
脳の血管障害、腫瘍などが原因となることもあり、このような場合は、一刻も早く専門の脳神経外科や内科がある医療機関を受診することが大切です。脳に異常がないときは、多くの原因はベル麻痺であるため耳鼻咽喉科での診断、治療が必要になります。
顔面神経麻痺以外でも、神経疾患のパーキンソン病や筋原性疾患の筋ジストロフィーや眼ミオパチーなどにより、瞬きが不十分になったり極端に少なくなったりしても生じることがあります。
事故による外傷や、顔面熱傷、手術後の傷など、眼瞼の外傷が原因で閉じられなくなってしまう状態を瘢痕性と呼びます。
また、眼球の突出が原因になる場合もあります。甲状腺機能亢進症や、眼球が収まっている眼窩内部の腫瘍、眼窩内の炎症などによって眼球突出が起こることがあります。
眼科医による診察、診断がまずは必要になります。直接患者さんの角膜表面など眼球構造を検査する細隙灯顕微鏡を用いて、詳しく検査、診断が行われます。
視機能検査も必須で行わなければなりません。脳梗塞、脳腫瘍に起因していないか検査する必要があり、脳外科や、脳神経内科を受診しCT検査やMRI検査を行い頭蓋内病変や顔面神経走行領域に血管病変や腫瘍性病変がないか調べます。
治療では、閉瞼させる手術として古くから、上眼瞼(上まぶた)に小さな金の板(ゴールドプレート)を埋める治療がありますが、露出などの合併症が多いとされ行われることは少なくなってきています。
下眼瞼(下まぶた)の場合は、筋膜や軟骨移植によって機能再建を行う必要があります。眼瞼瘢痕を原因とする場合は、閉瞼するための瘢痕拘縮形成手術が必要になります。
熊本機能病院に来院される閉瞼不全の患者さんは、後天性の顔面神経麻痺、主に他院での頭蓋内手術後による顔面神経麻痺や、原因不明とされ顔面神経麻痺が遺残し紹介されてくる方になります。閉瞼不全の手術治療は機能的な再建手術になるため、複合的な移植の必要性が生じたり、症例により術式を変えたりするなど、技術的に高度な手術となります。形成外科にて治療を担当しています。
熊本機能病院 形成外科・小児形成外科 部長
田邉 毅 先生の所属医療機関
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