静岡県の東部に位置する静岡県立静岡がんセンターは2002年の開設以来、『患者さんの視点の重視』という理念のもと、多くの患者さんに先進的ながん医療を提供してきました。
都道府県がん診療連携拠点病院、特定機能病院、そしてがんゲノム医療中核拠点病院に指定されている同センターの役割や今後について、総長である上坂 克彦先生に伺いました。
当センターは2002年の開設当初より、先端的ながん医療の提供とファルマバレープロジェクト(当センターを中心とした医療産業の集積・活性化を目指した静岡県のプロジェクト)の推進に取り組んできました。静岡県は他の多くの県と同様、人口減少と高齢化が進んでいますが、当センターが立地する県東部の長泉町は、静岡県内で唯一、将来的にも持続可能な「自立持続可能性自治体」に分類され(2024年4月24日、人口戦略会議発表)、右肩上がりの人口増加を続けています。
当センターが誕生するまで県東部には大きな医療機関が少なく、特にがんの高度医療を担える病院がありませんでした。そうした状況を打開し県民に高度ながん医療を提供できるようにしようと設立されたのが当センターです。
当センターの外科領域では、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術など、がんに対する低侵襲手術を積極的に推進しています。ロボット支援下手術に関しては、他施設に先がけ、2011年から手術支援ロボット“ダヴィンチ”を導入し、体に優しく精度の高い手術を行うことに努めてきました。2024年3月現在は3台のダヴィンチを稼働させ、大腸外科、胃外科、泌尿器科、呼吸器外科、婦人科などの8診療科でロボット支援下手術を行っています。その手術件数は年々増加し、2023年度は病院全体で年間868件のロボット支援下手術を行いました。特に直腸がん、結腸がんに対するロボット支援下手術の件数は全国でも上位を誇り、累積件数でみても2024年3月までに2,100件を超えるまでになりました。
さらに、2023年に国産の手術支援ロボット“hinotori(ヒノトリ)”1台を研究用に導入し、次世代のロボット手術の研究にも取り組んでいます。
がんは、遺伝子が変異することによっておこる細胞の病気です。がんゲノム医療では、がんの組織や血液を使って一度に多数の遺伝子を調べる「がん遺伝子パネル検査」を行い、がんの原因となる遺伝子の変化を解析することによって、一人ひとりに適した薬剤選択を行います。がん遺伝子パネル検査の結果は、エキスパートパネルで検討され、その持つ意味やお勧めすべき薬剤などの情報が診療の現場にフィードバックされます。エキスパートパネルには、担当医のほか、がん薬物療法、臨床遺伝学、遺伝カウンセリング、病理学、がんゲノム医療、バイオインフォマティクスなど、多くの専門家の参加が必要です。
当センターは、2020年4月に厚生労働省よりがんゲノム医療中核拠点病院(2023年3月現在、全国13施設)の指定を受け、県内のがんゲノム医療連携病と連携しつつ、がんゲノム医療を展開しています。また当センターでは、がん患者さんからいただいたサンプルの遺伝子解析を行う研究「プロジェクトHOPE」を研究所と病院が一体になって進め、これまでに1万人分以上の解析をしてきました。プロジェクトHOPEの研究結果は、がんの個別化医療の推進のみならず、新たな診断薬や治療薬の開発にも役立てています。また当センターは、国家プロジェクトである全ゲノム解析にも参画し、全ゲノム解析の臨床実装を視野にいれた患者還元体制の構築を進めています。
当センターでは、開院翌年の2003年から陽子線治療を開始しました。陽子線治療の特徴は、がんの病巣に合わせてピンポイント、高エネルギーで照射することができることです。すなわち、狙った場所だけに多くの放射線量を効率よく照射することができ、同時に周辺の正常組織に与える影響を少なくすることができます。陽子線治療は、小児の固形がん、骨軟部腫瘍、前立腺がん、頭頸部がん、肝細胞がん、膵がん、肝内胆管がん、再発大腸がんに保険適用されていますが、当センターではその他の多くのがんに対しても先進医療で陽子線治療を行っています。
また、リニアックを4台保有し、強度変調放射線治療(IMRT)、画像誘導放射線治療(IGRT)はもちろん、全身照射、定位照射、さらに最新機器では腫瘍追尾照射にも対応し、安全で正確な高精度照射を実施しています。
前世紀のがん医療は、がんを治すだけで精一杯でした。これに対して今は、がんを治すだけでなく、がん患者さんやそのご家族を支えていくことが大切であると認識されるようになりました。当センターでは、“よろず相談”(がん相談支援センター)と“患者家族支援センター”という2つの相談支援部門を中心に、がんの患者さんとご家族を積極的に支える「包括的患者家族支援体制」を作り上げてきました。“よろず相談”では、当院の患者さんのみならず、院外の患者さんも含め、年間1万2千件を超すさまざまな相談に応じています。“患者家族支援センター”では、初診から在宅に至るまで、シームレスに患者さんとご家族を支援しています。
また、患者さんのQOL(生活の質)向上のために医科歯科連携による口腔ケアやがんのリハビリテーションにも力を入れるとともに、がん治療に伴う副作用・合併症・後遺症の予防や治療を行う“支持療法センター”を国内で初めて創設しました。開院時から緩和ケアを重視し、全国のがん診療連携拠点病院では最大規模の50床の緩和ケア病床を有しています。地域のがんセンターとして、最期の時まで患者さんに寄り添う姿勢を大切にしています。
静岡がんセンターを開設してから22年が経過しましたが、この間にがん医療は驚くほど進歩してきました。今後も、AIやICTの影響で、がん医療はさらに大きく、速く進歩していくでしょう。
人口の高齢化と相まって、がん患者さんの数はさらに増加していくことが見込まれています。その一方で、高齢社会は、がんの患者さんを取り巻く環境に難しい問題を投げかけています。患者さんを生活の場でよりよく治していくには、地域の医療機関との密接な連携が欠かせません。静岡がんセンターは、今後も先端的ながん医療を提供し患者さんやご家族を積極的に支えるとともに、地域と一体になってがんの患者さんを治し、支えてまいります。がんでお困りの場合には、是非お気軽にご利用、ご相談ください。
静岡県立静岡がんセンター 総長
静岡県立静岡がんセンター 総長
日本外科学会 外科専門医・指導医・代議員日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医・特別会員日本肝胆膵外科学会 肝胆膵外科高度技能指導医・特別会員日本胆道学会 認定指導医・特別会員日本膵臓学会 認定指導医・特別会員日本消化器病学会 会員日本癌治療学会 会員日本臨床外科学会 会員
静岡県立静岡がんセンターにて総長を務め、肝・胆・膵外科部長時代には年間約400例に及ぶ肝胆膵がんの手術に携わってきた。膵臓がん手術後の補助化学療法にS-1(経口抗がん剤)を用いた大規模ランダム化比較臨床試験(JASPAC 01)で代表研究者を務め、当時の術後補助療法の標準治療に用いられていたゲムシタビンよりも、S-1を使用したほうが優れた有用性を示すことを報告し、世界中より注目を集めた。難治とされる膵臓がんの専門医として知られ、数多くのメディアに出演している。
上坂 克彦 先生の所属医療機関
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