院長インタビュー

県内全域での医療格差解消に取り組む岩手医科大学附属病院

県内全域での医療格差解消に取り組む岩手医科大学附属病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

目次
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岩手県紫波郡矢巾町ある岩手医科大学附属病院は、岩手県内で唯一の大学病院です。高度先端医療を提供する特定機能病院として岩手県全域の医療サービスを支える同院の役割や今後ついて、病院長である森野 禎浩(もりの よしひろ)先生に伺いました。

先方提供
岩手医科大学附属病院 外観(岩手医科大学附属病院ご提供)

岩手医科大学附属病院の起源は、1897年(明治30年)に開設された私立岩手病院にまで遡ります。1901年(明治34年)には私立岩手医学校も併設されましたが、医療教育制度の改革により、1912年(明治45年)には残念ながら閉校となってしまいました。

その後も診療は続けられてきましたが、1928年(昭和3年)に岩手医学専門学校が開校され、当院も附属病院として再出発となりました。さらに1952年(昭和27年)、学校制度の改革で専門学校が新制岩手医科大学になったことを期に、岩手医科大学附属病院へと改称しました。

開設以来、盛岡市の中心部である内丸地区で医療サービスを提供してきた当院ですが、2000年代に入って大学、病院施設とも老朽化が懸念されてきました。しかし、建築基準法の改正によって同規模の建物での建て替えが難しいため、2007年(平成19年)には10kmほど南にある矢巾町への移転計画がスタート。まず大学が移転を行い、2019年には当院の移転も完了し、矢巾町に学園都市が完成しました。

ただ、すべての病院機能を盛岡市内から撤退させてしまうと、患者さんにとっての利便性が損なわれてしまいます。そのため内丸地区には新たに外来診療を中心とした内丸メディカルセンターを設立し、救命救急対応や手術、主たる入院は、矢巾町の附属病院で行うという2院体制になりました。

2024年で創立127年を迎えた当院ですが、さらに多くの患者さんから信頼していただけるよう、「誠の精神に基づく、誠の医療の実践」を理念に邁進していきます。

先方提供

当センターは1980年(昭和55年)に、県が開設して岩手医科大学が運用するという官民共同でオープンしました。120人を超えるスタッフが所属し、24時間365日体制で岩手県の救急医療を支える拠点として活動しています。

1996年(平成8年)には、北海道・東北地区で初めて高度救命救急センターの認定を受けました。2001年(平成13年)からは運営主体が県から岩手医科大学に移管され、名称も岩手県高度救命救急センターとなっています。

岩手県は広く、冬期には降雪や路面凍結が起こるため、県内全域に救急医療サービスを行き渡らせることが難しくなっています。そのため当センターにはヘリポートも併設。ドクターヘリを使った機動力で、県内全域の救急医療を集約しています。

当院の産婦人科は県の総合周産期母子医療センターを併設し、産婦人科だけでなく小児科、内科、精神科といったほかの診療科と綿密に連携をとって、24時間体制で妊産婦と胎児の健康に寄り添った医療を行っています。

岩手県内では高度な周産期医療を受けられる医療施設が限られているため、当センターには県内全域から妊産婦の患者さんが来院します。県の周産期情報システムネットワークを介した入院受け入れを行っていますが、それ以外の方についても随時相談を受けつけていますので、お気軽にご相談ください。遠方からの患者さんに対しては、周産期管理によって状態が落ち着けば、地元の中核医療施設への逆母体搬送も積極的に行っています。

さらに県内各地の産婦人科・小児科の医療施設と協力して、ネットワークを利用した胎児の遠隔診断も実施中です。出生後の集中治療方針を早期に立てることで、安心して出産し、赤ちゃんがなるべく早くご家族の元に戻れるような診療を心がけています。

1997年(平成9年)に設立され、30年近い歴史のある循環器センターでは、国内でも有数の心臓外科手術の実績があります。特にカテーテル治療や低侵襲心臓手術(MICS)は、当センターの得意とするところです。最大6室の並列治療が可能な規模のアンギオ室を備え、22床のICUを駆使し、心臓・血管疾患の重症患者や術後患者の管理をしており、国内有数規模の循環器医療を展開しています。

また当センターでは、循環器内科や心臓血管外科、麻酔科、放射線科の医師、看護師、理学療法士、臨床工学士などがハートチームを結成し、緊密な連携や情報共有をすることで患者さん本位の医療を実現。さらに、急性心筋梗塞大動脈瘤破裂などの緊急性の高い疾患にも、24時間365日体制で対応しています。

当院は、岩手県のがん診療連携拠点病院に指定されており、専門的ながん医療を提供するだけでなく、がん治療に関する地域連携協力体制の構築や、がん患者さんやご家族に対する支援などを行っています。

がんセンター内には、がん診療センター、化学療法センター、緩和ケアセンター、がん相談支援センターの4センターを設置しています。特に化学療法に関しては、最先端の治療が集約されているといってもいいでしょう。

内丸メディカルセンターには臨床免疫センターがあり、がんだけでなく、希少疾患や膠原病といった幅広い免疫疾患について研究を進めています。さらには研究を臨床に生かす取り組みも進めており、例えば頭頸部がん対するリンパ抗生薬物送達法の臨床研究では、がんセンターと連携して手術範囲やステージングを決定する役割も担っています。

がん相談支援センターでは、がん治療に関する相談の受付や、かんについての情報発信だけでなく、がん患者さんやご家族が交流できるサロンも開設しました。安心してがん治療が受けられるようサポートしているので、ぜひご活用ください。

当院では、一度に広範囲を撮影できる320列CTによる画像診断を行っています。附属病院とメディカルセンターの双方に設置していましたが、2024年には3台目となる320列CTを本院に導入しました。より素早く画像診断ができるようになり、患者さんの待ち時間も減っております。

当院では、ダヴィンチやhinotoriといった手術支援ロボットも導入済みで、外科、泌尿器、心臓外科、産婦人科、呼吸器科などの手術でフル稼働しています。大腸がん胃がんの手術、心臓外科の手術の多くは、以前から低侵襲の手術を心がけてきました。ロボット手術を積極的に行うことで、手術時間も短くなり、患者さんの負担もより軽減できることでしょう。

当院ではローカル局のテレビ岩手と共同で、医療情報番組”健康大百科”を放映しています。不定期で年3~4回程度の放映ですが、皆様にとって身近な話題を取り上げることで、正しい医療知識を身につけていただけるよう腐心しています。

またFM岩手では毎週、医療情報ラジオ番組"岩手医科大学~いのちから~"を放送。医療情報以外に、季節の食材を取り上げて栄養学についての知識なども発信しています。FM岩手公式サイトでは、番組アーカイブも配信しているので、ぜひ多くの人に聞いてほしいと願っています。

当院は、基幹災害拠点病院でもあります。そのため万が一の自然災害の際にも、変わらず高度な医療サービスが提供できるよう、自家発電の設備を整えています。一部の病院設備だけでなく、病院全体を100%稼働させられるだけの発電量を備えているので、災害時の救急患者の受け入れも可能です。

また、東日本大震災の例を踏まえて、非常用食料の備蓄も実施しています。備蓄食料は定期的に入れ替える必要がありますが、古い備蓄食料は賞味期限内に福祉施設などに寄付し、できるだけフードロスを減らせるような工夫も行っています。

岩手県内の大学で、医学部があるのは岩手医科大学のみです。国立の岩手大学にも、医学部はありません。つまり当院は、県内唯一の大学病院です。皆さんが大学病院に期待するのは、やはり先進的な医療サービスの提供でしょう。当院も、県民の皆様の健康を支えるため、高度医療に特化していく使命があると考えています。

岩手県内には医療機関が充実していない地域もあり、またすべての県民が当院に通院できるわけではありません。そのため、県内のどこに住んでいる人でも高度医療が受けられるシステム作りも重要です。具体的には、県内各地の医療機関と連携をとり、検査は地元で済ませて、手術のみ当院に受けに来るといったシステムです。すでに私の専門とする循環器では、こういった取り組みを行っています。

また、何か体調に異変を感じた際、気軽に相談できる窓口作りも必要でしょう。看護師をはじめとするコメディカルスタッフや、医療事務、ケースワーカーといったスタッフが、医者との間に入って細やかにサポートする仕組みを、もっと充実させていかなければという思いもあります。

岩手県は、助け合い精神の強い地域だといわれています。互いに手を差し伸べることで、よりよい仕組み作りができることと信じています。当院としても、医療人材の確保に苦心している面もありますが、今後も県立病院への医師の派遣などは続けていく所存です。その努力を惜しまないことが、地域医療の充実につながればと願っています。

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