福岡市城南区にあるさくら病院は、1983年の開院以来40年以上にわたって地域に根差した医療を提供しています。地域の患者さんを支える取り組みは医療の枠にとどまらず、法人グループ全体で介護や福祉サービスなど切れ目のない支援体制を構築しています。
そんな同院が担う役割や今後の展望について、理事長である江頭 啓介先生にお話を伺いました。
当院は1983年に病床数30床の江頭病院として誕生し、地域に根差した病院として近隣にお住まいの方々の暮らしと健康を支えてまいりました。福岡市の中でもいち早く訪問看護ステーションを開設しましたのは、今後さらに加速することが予想される高齢化社会において、高齢患者さんの暮らしを支えることが何より大事になると考えたからです。1997年に江頭病院からさくら病院へと名称を変更した翌年には緩和ケア病棟を開設するなど、常に時代の先を見据えて医療体制の充実に努めてまいりました。
医療のみならず介護の充実を図るべく社会福祉法人を立ち上げて以降は、介護や福祉の分野でも地域の方々の暮らしをサポートしています。特別養護老人ホーム、複合型多機能高齢者住宅、サービス付き高齢者向け住宅などを展開し、医療、介護、福祉の切れ目ない支援を行っています。特別養護老人ホーム・ライフケアシリーズの“ライフ”には、生活、命、人生などの意味があります。この言葉のとおり私たちも、地域に暮らす方々の生活、命、人生の全てをケアする気持ちで取り組みを続けています。
当院は“愛の心と確かな医療技術を以て社会に奉仕する”との理念のもとに、職員一丸となって日々の診療にあたっています。地域に根差した病院として地域に奉仕することを考え、現在進めているのが医療や福祉の相談・助言に特化したよろず相談所としての“サロン”の開設です。
福岡市には医療や福祉に関するさまざまなサービスが用意されておりますが、活用する方法が分からずに適切なサービスを受けられていない方も少なくないようです。このため地域の方々が気軽に足を運べて、医療や介護のことを相談できるサロンのような場所をつくりたいと思っています。人と情報がつながり、さまざまな社会資源につながるような仕組みをつくり上げたいと考えておりますのでご期待ください。
人間は年齢を重ねるにしたがって、いくつかの病気を抱えながら生活することが多いです。最近は臓器ごとに細かく診療科が分かれていることが一般的ですが、縦割りの診療では患者さんを複数の病気を持った生活者として診ることはできません。1人の患者さんの人生に寄り添い、病気のことを含めて生活全体を支えていく……、そんな医療が必要になってくるのです。
当院には呼吸器、循環器、消化器など各領域を専門にする医師が在籍しておりますが、患者さんにいろいろな診療科を回って診察を受けていただくことはしていません。外来病棟区別なく医師が相談しあい、協力しながら総合的な診療を行うというのが当院の診療スタイルです。患者さんの診療にあたる医師の中には、大学教授や院長経験者なども含まれていることが当院の特徴と言えるでしょうか。主治医が中心となって患者さんに適した診療計画を立て、地域の開業医の先生方や介護職の方々とも連携しながら、患者さんの人生を支える医療の実践を目指しています。
日々の診療においては病気の治療に注力する一方で、患者さんの生活習慣や体質や環境因子などを踏まえた医療を行うことが大事になります。地域の方々の暮らしを支える当院においては地域包括ケア病棟や緩和ケア病棟にて患者さんの在宅復帰をサポートし、訪問診療、在宅での看取りなどにも幅広く対応しています。
緩和ケアは“人生の最期を迎えるための医療”と思われがちですが、決してそうではありません。たとえば、大学病院などで抗がん剤治療を受けた患者さんがご自宅に戻るまでの体力回復をサポートすることも緩和ケア病棟の役割です。人生の最終段階になってから緩和ケアを導入するのではなく、早い段階から緩和ケアを活用することで“その人らしく過ごせる時間”を長くできる可能性があることを、ぜひ知っていただきたいと思います。
私は消化器内科医として福岡赤十字病院などでの経験を積み、卒業後10年目の34歳のときに江頭病院を設立しました。病床数30床でスタートして以降、幾度かの増床や増築を経て、さくら病院と改称して現在は14の診療科と152床になりました。社会福祉法人を設立し、サ高住や住宅型有料老人ホームも運営していますが、それはいわば成り行きで、何か特別なことを考えたわけではなく、この地域において当院が果たすべき役割について考え、自らの使命を果たそうと取り組むうちに、自然と当院を中心にした法人グループの形が出来上がっていたという感覚です。
多様性の時代といわれる現代は、ひと昔前に比べて人々の生活様式が大きく変わってきています。少子高齢化が進む地域で病院組織がどうお役にたてるのか? この課題を解決する方法は地域によって異なるものの、医療が果たす役割は大きなものがあると考えています。地域を支える人々の健康を医療が支え、地域のつながりを大切にしながら、組織をあるべき形をつくり上げていく……。私たちも当院に課せられた使命を果たすべく、歩みを進めてまいります。
*写真提供……さくら病院
*提供している医療の内容や医師、診療科についての情報および本文中の数字は全て2024年11月時点のものです。