東京都江戸川区に位置する江戸川病院は、下町の雰囲気をもつ身近な病院でありながら、最新機器を用いたがんの放射線治療やロボット支援下手術など新しい技術を取り入れた高度な医療提供を行っています。
同院の特徴や取り組みについて、院長の加藤 正二郎先生にお話を伺いました。
当院は、1932年に開設された90年以上の歴史をもつ病院です。江戸川区は、都心部からすると東の下町エリアで、人情に厚い地域だと感じることが多いです。そうした土地柄もあり、当院は患者さんと医師をはじめとする職員との距離が近いフレンドリーな雰囲気があり、他の病院から着任された先生やスタッフが驚くことも多いです。また地域の医療機関との結びつきも深く、患者さんを紹介したり・されたりというよい関係を築けています。
そうした和やかな雰囲気をもつ一方で、提供している医療は先進的なものや高度なものであり、よい意味でギャップのある病院だと自負しています。たとえば、がん治療では手術支援ロボット(da Vinci Xi)や、最新バージョンの放射線治療装置を駆使した治療を行っていたり、MRIと放射線治療システムを一体化させた“放射線治療のできるMRI”を導入していたりします。また、現在は都内初となる陽子線がん治療施設の誕生に向け動いており、2025年秋からの稼働を目指しています。
当院のモットーは“みんなのしあわせとおもいやり”です。この“みんな”が指すのは、患者さんや患者さんのご家族はもちろん、医療従事者や地域社会、さらにいえばこの地球に生きる動植物など生きとし生けるものも含めて考えています。全人的医療こそ病院医療の原点であると信じ、患者さんをただ治療するだけにとどまらない医療の提供を目指して日々邁進しています。
当院の整形外科は、人工関節の手術から脊椎外科、外傷まで幅広く診療を行っています。ほとんどの手術を低侵襲手術で行っており、患者さんのその後の生活も見据えて治療を行えるようにしています。
たとえば、人工膝関節の手術には全置換術や部分置換術という選択肢があります。ただ治すということを目的にすれば全置換でもよいかもしれませんが、部分置換にすることで、スポーツやスキーなどできることの可能性を狭めない選択につながることもあるのです。当院では患者さんのことを第一に考え、術後の生活や希望を考慮したうえで術式を検討しています。
また当院には整形外科のほかに、スポーツ医学科や人工関節センター、リハビリセンターなどがあり、専門的な治療から術後のリハビリテーションまで一貫して支えられる環境があります。患者さんの希望に添えるよう、さまざまな治療法や術式に対応しているので、よりよい治療法を一緒に選択していければと思います。
当院の位置する江戸川区でも高齢化は進んでおり、それに伴いがん患者さんも増えてきています。がん治療はどんどん進歩していますが、それでもやはり治療の術を失い途方に暮れる“がん難民”といわれる患者さんが一定います。そうした状況を受けて、当院では前院長時代から“キュアシティ構想”を掲げ、レベルの高いがん診療を地域でシームレスに受けられるような体制づくりを目指しています。当院では、“あきらめないがん治療”を目標に、手術・放射線療法・化学療法(抗がん薬治療)の三本柱全てに対応し、以下のような治療を提供しています。
腹腔鏡下手術、胸腔鏡下手術といった手術はもちろん、2013年より手術支援ロボットを導入し、より低侵襲な手術を行えるよう努めています。ロボット支援下による手術は、小さな傷で済むことや、術後の回復の早さなど患者さんにとってメリットとなることが多いという特徴があり、現在は泌尿器科や外科・婦人科の手術でロボット支援下手術を行っています。
当院の放射線治療科(東京江戸川がんセンター)では開設以来、高精度放射線治療(IMRT:強度変調放射線治療)に特化した放射線治療を行ってきました。IMRTは、オーダーメイドの照射が可能であり、さらにCT・画像に基づいた画像誘導下の放射線治療を行うことで、低被ばく・低侵襲な照射を心がけています。現在、CTガイド下(トモセラピー3機)が稼働しており、夜間10時まで治療可能となっています。また、必要に応じて放射線科への入院による治療も可能です。
近年、がん治療における化学療法の分野では、新薬の登場など進歩が目覚ましく、当院でも治療数は増加傾向にあります。そうした背景から、以前は治療までの待ち時間が長くなったり、予定どおり治療が進まなかったりすることがありました。そうした問題を解決するため、これまでの外来化学療法センターを増床し、新しい治療室をオープンしました。これにより待ち時間の短縮につながり、プライバシーに配慮した快適な環境での治療が可能となりました。
そのほかにも、泌尿器科では男性が罹患するがんのなかでもっとも多い前立腺がんに対しMRIフュージョン生検を導入しており、検査・診断から治療までスムーズな対応が可能です。また、婦人科では新たに子宮頸がんなど婦人科系の腫瘍(がん)を診療できる医師を増員しています。婦人科の医師は全て女性医師であり、その点でも患者さんの受診しやすさにつながるのではないかと思っています。さらに、腫瘍血液内科では無菌病棟の増床を行い、既存の病床と合わせて25床の無菌室を備えた病棟が完成しました。
治療以外の部分でも緩和ケア、がん相談室による支援、患者会といった取り組みを行っており包括的なサポートが可能です。
がん診療においては上記のような治療のほかにも、免疫療法の専門チームを立ち上げており、第4のがん治療へ取り組めるよう体制を整えています。また、当院の関連施設(江戸川プラスクリニック)では、がん遺伝子パネル検査によるゲノム医療や、免疫療法など自由診療による新しいがん治療にも取り組んでいます。
さらに、都内初となる陽子線がん治療施設の設立を進めています。陽子線治療の装置は巨大なものであり、都内での導入はなかなか難しいと考えられていました。しかし、当院と同じ江戸川区にある企業が陽子線装置の小型化に成功し、その1号機の導入先として指名してくれたのです。
当院では、臨床研究も盛んに行っています。たとえば、前院長の時代から取り組んできたBNCTでは、放射線治療後再発乳がんを対象とした臨床研究5症例を終え、FDG-PET陽性の浅在性腫瘍に対する特定臨床研究と自由診療での対応に移行しています。BNCTとは、がん細胞に取り込まれやすいホウ素化合物を使用し、がん細胞を選択して破壊する治療法です。一度放射線治療を受けた場でも治療が可能であるため、BNCTにより選択肢が広がることを期待しています。
泌尿器科では、尿道狭窄に対する新しい治療法 BEES-HAUS (ビーズ・ハウス)の臨床研究を進めています。尿道狭窄は、前立腺がんや前立腺肥大症の治療後に後遺症として起こることがあり、尿道切開術や拡張術といった治療が行われますが再狭窄が問題となることがあります。この問題を解決するために生まれたのが、自己口腔粘膜細胞を用いたBEES-HAUS細胞療法です。今後も臨床研究に積極的に取り組みながら、治療選択の幅を広げていけるよう努めます。
遠くの病院へ行かずとも、地域で医療を完結できるような体制や設備、技術が当院にはそろっています。一般的な診療はもちろん、がん診療や人工関節など技術が必要な治療においても多くの実績を積んでおり、高度な医療提供が可能となっています。ぜひ遠くの病院へ行く前に、当院へご相談いただけるとうれしいです。
*医師数や診療科、提供する医療の内容などについての情報は全て2024年4月時点のものです。