院長インタビュー

“ここにあってよかった”と思われる病院を目指し、地域とともに生きる――東京都立多摩北部医療センター

“ここにあってよかった”と思われる病院を目指し、地域とともに生きる――東京都立多摩北部医療センター
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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東京都東村山市にある東京都立多摩北部医療センターは、人口約76万人(2020年時点)を有する北多摩北部医療圏を支えている病院です。

小児から高齢者まで幅広い診療を行い、がん医療の高度化や救急医療にも力を入れています。また、地域とともに生きる病院として、ドレッシングの開発などさまざまな取り組みを行う同センターの役割や今後について、院長である髙西 喜重郎(たかにし きじゅうろう)先生に伺いました。

外観
病院外観

当院の原点は、経済的に困窮している方などの救貧施設として、1872年(明治5年)に立ち上げられた養育院です。この養育院は、現在一万円紙幣に肖像画が描かれている渋沢 栄一氏が院長として長らく運営に携わられたそうです。

その後、養育院附属病院(現・東京都健康長寿医療センター)が開設され、多摩地区にも同じような施設が必要であると考えられたことから、1986年に当院の前身である東京都多摩老人医療センターが開設されました。

開設後、段階的に病棟を立ち上げ1988年には320床となりました。その後、2005年に地域の小児医療を担っていた病院が統廃合されたことを契機に小児科を増科し、東京都保健医療公社へ運営移管され、多摩北部医療センターと改称し再出発しています。2022年には、東京都立病院機構の一員となり、地方独立行政法人東京都立多摩北部医療センターとなりました。

当院は緑豊かな環境に立地しているため“森のホスピタル”としても親しまれています。院内には、準絶滅危惧種とされている“キンラン”も咲いており、この花のイメ―ジでつくられたオリジナルキャラクター『たまるん』も生まれました。たまるんは、病院を見守るキンランの妖精として活躍してくれています。

たまるん
東京都立多摩北部医療センター オリジナルキャラクター『たまるん』

当院は内科系、外科系、小児科の合計25診療科で、多岐にわたる専門的な医療を提供し、救急医療やがん医療にも注力しています。また、消化器病センター、前立腺がん診断治療センター、内視鏡センター、おなかのヘルニアセンター、ハートセンターなどを設けており、チーム医療にも積極的に取り組んでいます。

地域のニーズが高い診療科としては、血液内科が挙げられます。周辺地域に専門的な診療を行える病院が少ないという背景もあり、遠方からも患者さんが来られます。また、患者さんの多い消化器疾患では、上下部消化管(胃や大腸)や肝胆膵領域まで専門的に診られる医師がそろっており、内視鏡、腹腔鏡、ロボットを使った診断・低侵襲治療を得意としています。2021年には消化器病センターも立ち上げており、内科・外科連携のもとより効率的で専門的な診療を行っています。

高齢化に伴い外傷や変性性疾患などの整形外科のニーズも高まっていますが、当院では膝、肩や肘、股関節、さらに手の外科を専門とする医師も在籍していることから、幅広い診療が可能となっています。

がん医療の高度化を目指し、当院は2023年6月に手術支援ロボット“da Vinci Xi(ダビンチ)”を導入しました。従来の腹腔鏡下手術よりも精緻で安全な治療が可能となります。

現在、泌尿器科では前立腺がん、腎がん、膀胱がんなど、消化器外科では大腸がん、ヘルニアなどの手術に対応しており、患者さん一人ひとりに合わせた治療提供を実践しています。また、婦人科におけるロボット支援下手術を準備中です。今後は、ロボット支援下手術をさらに幅広い疾患に対応できるようにしたいと考えています。

また、放射線治療においても新たな機器の導入を進めており、患者さんの負担を軽減しながら精度の高い治療をできるよう努めています。さらに、今後の医療の発展を見据えてゲノム診療科を立ち上げています。

地域医療を守るため当院は救急医療にも力を入れており、小児科においては、地域医師会からの協力もいただきながら、小児科平日夜間初期救急医療事業を推進しています。

また、多くの地域で課題となっている高齢者救急を支えていくため、総合診療医の育成にも力を入れています。高齢者は、一人で複数の病気を抱えていることが多いため、総合診療の力が重要になるのです。

東村山市は住みやすい街として人気がありますが、この地域に暮らす方々が安心して生活できるよう、引き続き小児から高齢者まで幅広い救急医療に尽力してまいります。

当院のパーパスは、「価値ある医療で地域に暮らす人々、社会のWell-beingに貢献する」です。

理念の一つに社会満足(ここにたまほくがあって良かった)を掲げ、地域とのコミュニケーションを大切にし、さまざまな取り組みを共に実施し新たな価値を創り出すという意味において、「地域とともに生きる病院」を目指しています。

ドレッシング(提供)
ドレッシング3種 清瀬にんじん・多摩湖梨・小平産ブルーベリー

地域の方々のやさいの摂取量を増やすことで健康に貢献したいという思いから、地元企業「ポールスタア」と共同でドレッシングを開発しました。地元産の野菜や果物を使用しており、ご好評をいただいています。

当院は、“東京の片隅で面白いことをやっている病院”を目指し、新しいやり方や価値を創造することに挑戦していますが、このような形で理念を実践しています。今後も地域とのつながりを生かしながら、地域の皆さんの健康に寄与できるような取り組みを続けていければと考えています。

子どもたちにさまざまなお仕事体験を提供する活動“夢★らくざプロジェクト(一般社団法人夢らくざプロジェクト運営)”に当院も参加し、看護師のお仕事体験の場を提供しています。看護師という仕事への理解を広め、将来医療に携わることを選択する方を一人でも多く増やせればと考えています。

人口減少が続くなか、2040年には全国で約100万人の医療・福祉分野の従事者が不足するといわれています。目の前の患者さんに質の高い医療を提供することはもちろんですが、将来にも目を向けた取り組みを行い、持続可能な医療体制を整えることも、医療に携わっている私たちの使命だと考えます。

当院の栄養科では、入院中だけでなく退院後も、自宅や施設で継続可能な栄養管理の仕組みづくりに取り組んでいます。

入院が決まった際には、事前に栄養状態を把握し入院後すぐに適切な栄養管理を開始します。退院後の生活に向けては、在宅・施設でも一貫した栄養サポートが行えるよう、地域の医療スタッフや施設とともに“お隣り会”と呼んでいる連絡会を通じて、その重要性や具体的な方法を共有しています。

薬剤科では、地域の親子を対象にしたイベントを開催し、体内の菌を観察する実験を通じて、抗菌薬の適切な利用についての情報提供を行っています。風邪をひいた場合、必ずしも抗菌薬を服用する必要はないなど、患者さんに薬の正しい知識を身につけていただく薬剤耐性(AMR)対策活動を行っています。

こうした取り組みにより、地域社会の医療的課題を共に解決して行くことが出来れば幸いです。

当院は“地域とともに生きる”を理念に掲げ、安心して暮らせる街づくりの一翼を担う存在でありたいと考えています。よい医療を提供するだけではなく、地域コミュニティの皆さんと一緒に課題を解決し、新たな価値を共創して行きたいと願っています。

今後もさまざまな取り組みを通して地域に貢献できるよう尽力してまいりますので、一緒に支え合いながら、よりよい未来を築いていきましょう。

*医師や提供している医療の内容などの情報および、病床数や診療科数などの数字については、2024年12月時点のものです。

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