広島県呉市にある呉共済病院は、1904年の開院から120年以上の歴史を誇る病院です。地域における急性期医療を担う一方で、“まもりたい、あなたの明日と地域の医療。”とのスローガンのもとに地域住民の暮らしと健康を守り続けています。
そんな同院が担う役割や今後の展望について、病院長である田原 浩先生にお話を伺いました。
当院は1904年(明治37年)に呉海軍工廠職工共済会病院として設立され、第二次世界大戦が終わる頃までは軍需品を製造する工場で働く人やそのご家族のための医療を行っていました。終戦後は広く市民の皆さんに門戸を開き、今日まで120年以上にわたって地域医療の一端を担っています。
二次救急医療機関である当院では、年間3,000台あまりの救急車を受け入れるなど急性期医療に注力する一方、患者さんの在宅復帰までをしっかりサポートしていきたいと考えています。このため2022年には一般病床の一部を地域包括ケア病床に転換するなど、地域の患者さんを地域の中で支える環境整備にも取り組んでいます。
当院の患者さんは近隣にお住まいの方のみならず、遠方から足を運んでくださるケースも珍しくありません。これは当院に循環器内科と心臓血管外科が一体となった循環器センターがあり、不整脈に対するカテーテルアブレーションや肺高血圧症に対する専門的な診療を行っていることが理由の1つです。
また当院は消化器の診療に強みがあり、今ではよく知られるピロリ菌と胃がんの関係についても、当時在籍していた上村 直実医師が世界で初めて報告しています。消化器内科・外科には肝臓、胆嚢、膵臓などそれぞれの臓器を専門とする医師が在籍し、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎など)の診療にも力を入れています。
近年はお腹を大きく切り開くのではなく、体に小さな穴を開けて医療器具を挿入する低侵襲手術が広く行われています。当院においてもかねてより体への負担が少ない腹腔鏡手術を行ってまいりましたが、2023年末に新たに手術支援ロボット・ダビンチを導入し、より低侵襲な手術をご提供できるようになりました。
ダビンチの導入やロボット支援手術プロクター(指導者)の資格をもつ医師が着任したことにより、治療の選択肢が広がり、ロボット支援手術の適応範囲も広がりを見せています。このうちの1つに、骨盤臓器脱に対する“ロボット支援下仙骨腟固定術”があります。
骨盤臓器脱とは、子宮や膀胱などの臓器が腟から脱出してしまう女性特有の病気です。出産経験のある4割程の女性が何らかの骨盤臓器脱であるとされるものの、恥ずかしさなどから誰にも相談できず、1人で悩みを抱え込んでしまうケースも少なくないようです。当院では骨盤臓器脱の治療に積極的に取り組んでおり、新聞等で情報発信するほか、電話相談を受け付けたり、専門外来を開設したりして骨盤臓器脱の患者さんが適切な医療につながるようサポートしています。
今後は泌尿器、消化器、呼吸器などさまざまな病気に対してロボット支援手術が行える体制を整え、患者さんをお待たせすることがないように、適切なタイミングでの治療介入を目指してまいります。患者さんの状態などを踏まえて腹腔鏡手術やロボット支援手術から適切な治療法をご提案できることも、当院の強みと言えます。
当院では病気の治療を行うだけでなく、皆さんが病気にならず、よりよく生きるための情報発信も行っています。毎回テーマを変えて開催する市民公開講座では、病気のことや治療選択肢などを分かりやすくお伝えするほか、呉共済病院の公式YouTubeチャンネルでは、将来どのような医療やケアを希望するかを共有する“人生会議”に関する動画を公開したりしています。
*呉共済病院の公式YouTubeチャンネルはこちら
一方、医療DXにも積極的に取り組んできた病院内では、院内ツールとしてiPhoneを採用し、個々に配布しています。どこにいても電子カルテの閲覧や記入ができるだけでなく、多機能コミュニケーションアプリ(LINEWORKS)を利用して多職種で患者さんの情報を共有するなど、スムーズな治療介入につなげています。
かつて東洋一の軍港といわれた呉市は広島市よりも人口が多かった時期があり、広島県内では一番早く市街電車が走ったといいます。現在も呉市と江田島市からなる呉医療圏は人口約23万人を有し、人口10万人当たりの医療機関の数も全国平均を上回っている状況です(2020年時点)。医療機能が充実した地域において皆さんから「きょうさい」の愛称で親しまれ、120年以上も診療を続けて来られたことは非常にありがたいことだと思っています。
私は1997年に当院に赴任いたしましたので、この地域の医療に携わって30年近くなります。今後も地域の皆さんのご期待にお応えできるよう、さらなる医療提供体制の充実に努めてまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。
*写真提供……呉共済病院
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