朝、手がこわばって動かしづらい。指の関節が腫れて、なんとなく熱っぽい――。原因が思い当たらないそれらの不調は、関節リウマチ発症のサインかもしれません。進行すると関節の変形や破壊が進んだり、全身にも症状をきたしたりして日常生活に影響が出る場合があるため、早い段階で適切に治療することが重要です。今回は青森県立中央病院 リウマチ膠原病内科 部長 金澤 洋先生に、関節リウマチの特徴や治療法、診療で大切にしていることについてお話を伺いました。
私たちの体には細菌やウイルスから自分を守るための免疫機能が備わっています。関節リウマチは、この免疫に異常が起こることで自分の体を異物と認識して攻撃し、関節の内側にある滑膜に炎症が起こる自己免疫疾患です。進行すると関節の変形や破壊、機能障害が起こり、家事や仕事などの日常生活に支障をきたします。
原因は明らかにはなっていませんが、遺伝的素因がある方において、喫煙や歯周病などの環境要因が加わると発症すると考えられています。日本では女性の患者さんは男性より4倍多く、日常診療で遭遇する頻度の高い病気(コモンディジーズ)です。
主な初期症状は、原因の分からない関節の痛みや腫れ、起床時の関節のこわばりです。こうした症状は手足の指、手首にみられることが多いですが、肘、肩、膝、足首などの大関節に異常をきたす方もいらっしゃいます。また、炎症は関節以外の全身に起こることもあり、微熱、全身倦怠感、食欲低下がみられることもあるほか、間質性肺疾患*などの肺の症状、皮膚の下のしこり(皮下結節)などの皮膚症状、目や口腔内の乾燥がみられるシェーグレン病などを合併することもあります。
*間質性肺疾患:肺の間質という組織に炎症が起こることによって肺全体が硬くなることで、酸素と二酸化炭素のガス交換がしづらくなり呼吸機能が低下する病気の総称。
関節リウマチは早い段階で診断をして、できるだけ早期に治療を始めることが非常に重要です。治療は薬物療法を中心として、必要に応じて手術やリハビリテーションなどを組み合わせていきます。
薬物療法による治療目標は、症状や検査結果で病気の徴候が消失している“寛解”という状態を目指すことです。患者さんそれぞれの症状、リウマチの活動レベル、薬の効果、患者さんの社会的状況などをみながら薬物療法を進めていきます。
関節リウマチの第一選択として使われる薬は“抗リウマチ薬”です。免疫のはたらきを抑えて関節の炎症を鎮静化させる効果が期待できます。腎機能が低下している、妊娠・出産を希望しているなどの理由で使用できない場合を除き、基本的には“メトトレキサート”という抗リウマチ薬を使って治療を開始します。当院では通常、メトトレキサートを約1~3か月使用して効果を評価します。効果が現れるまでには少し時間がかかるため、症状が強く出ている患者さんに対しては、メトトレキサートが効いてくるまでの短期間に限ってステロイドを併用することもあります。
メトトレキサートで起こり得る副作用としては、血液中の白血球や血小板などの減少、肝機能障害、口内炎、消化器症状などです。これらは用量依存性といって、薬の投与量や回数が増えるほど起こるリスクが高まる症状です。一方、用量依存性でない副作用としては間質性肺疾患(薬剤性間質性肺疾患)や、まれにリンパ増殖性疾患*などが起こることがあります。
*リンパ増殖性疾患:リンパ球の過剰産生によってリンパ節の腫れなどがみられる病気。メトトレキサートによって発症するものをメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患と呼ぶ。内服中止によって改善するものと、悪性リンパ腫に準じた治療が必要なものがある。
生物学的製剤は、遺伝子組み換え技術を用いて作られた注射薬です。生物学的製剤には、炎症を引き起こす物質であるTNFやIL-6のはたらきを抑える“TNF阻害薬”や“IL-6阻害薬”、T細胞(白血球の一種)のはたらきを抑える“T細胞共刺激分子調節薬”があります。いずれも点滴や皮下注射で投与し、一部の薬は病院に行かずに患者さん自身で行う自己注射も可能です。関節破壊の進行を抑える高い効果が期待できる薬ですが、薬の価格が高いことが難点です。また、服用中は感染症への注意が必要です。
一方、JAK阻害薬は、JAKという酵素のはたらきを阻害することで炎症を引き起こす物質が作られるのを防ぐ作用がある内服薬です。副作用としては、感染症のリスクに加えて、帯状疱疹や、まれに腸管穿孔が報告されています。
治療の開始が遅れるなどの理由ですでに関節の変形や破壊が進行している患者さんに対しては、機能回復を目指すための手術やリハビリテーションを行います。手術方法には、傷んだ関節を人工の関節に置き換える人工関節置換術などがあります。
関節リウマチでは、バランスのよい食事や適度な運動によって治療の土台を築く基礎療法も大切です。関節リウマチの患者さんは、狭心症や脳梗塞、脳出血といった心血管イベントのリスクが高いとされているので、これらの引き金となる生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)を防ぐためにも規則正しい生活を心がけることが重要です。また、生活習慣病を併発すると服用薬が増えてしまい、リウマチ治療の妨げになることもあるため、必要に応じて生活習慣の改善を指導しています。
一般的に関節リウマチは若年から中年の女性に多い病気ではありますが、当院のある青森県は高齢化率が全国的に高いこともあり、高齢の患者さんが多くいらっしゃいます。関節リウマチ以外にも持病がある方も多く、初診時点ですでにたくさんの薬を併用しているケースは珍しくありません。薬の量が増えてしまうと、多剤併用によって副作用などの問題が生じる“ポリファーマシー”という状態に陥ってしまいます。そのため、関節リウマチの治療ではむやみに治療薬を増やすことはせず、“最小限の治療薬で最大限の効果を目指すこと”を念頭におきながら日々診療にあたっています。
また、高齢の患者さんの場合、ステロイド使用による感染症リスクの増加が若年の方に比べて高いことを実臨床で感じています。こうしたリスクを考慮して、当院ではステロイドは原則使用せずに関節リウマチの症状をコントロールできるように努めています。
関節リウマチの治療では採血の結果だけに着目するのではなく、患者さん一人ひとりの声に応じた治療を行うことを心がけるようにしています。患者さんが求めていることは数値の改善よりも、仕事や家事、子育てなどの日常生活において“リウマチであることを忘れた状態”で暮らせることだろうと思います。外来診療では、生活の中での困り事をこちらから積極的にお伺いし、それに応じて治療方針を見直すようにしています。
また、当院は高齢の患者さんが多いものの、中には妊娠適齢期にあたる女性の患者さんも一定数いらっしゃいます。妊娠を希望されている方に対してはライフプランに合わせて治療をアレンジし、無事に出産をされた方もいます。
生活の質を下げないためには医療費の問題も避けて通れません。生物学的製剤やJAK阻害薬は高額なため不安を抱く患者さんもいらっしゃいますが、当院では看護師やソーシャルワーカーなどの多職種と協力しながら、想定される費用、治療の特徴、期待される効果などを丁寧にご説明しています。心配なことを解消したうえで納得して治療を受けていただけるよう心がけています。
関節リウマチは“早期診断・早期治療”が非常に重要です。発症して間もない段階から適切な治療を始めることで、関節の変形や破壊の進行を抑えられる可能性が高まります。一方で治療が遅れてしまうと、関節の破壊が進行したり、薬を使っても十分な効果が得られない“治療抵抗性”の状態になったりしてしまいます。関節の炎症、とりわけ熱感を伴う関節の腫れや、起床時に手のこわばりが1時間以上続くなどの異常を感じる場合は注意が必要です。関節の腫れや異常がみられたら「歳をとったからかな」「気のせいでは?」と放っておかずに、できるだけ早くリウマチ専門医(日本リウマチ学会認定)の診察を受けていただくことをおすすめします。
金澤 洋 先生の所属医療機関
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