院長インタビュー

地域を支える高度急性期医療の拠点へ――救急・がん・感染症・小児周産期医療を担う横浜市立市民病院

地域を支える高度急性期医療の拠点へ――救急・がん・感染症・小児周産期医療を担う横浜市立市民病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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横浜市立市民病院は、1960年の開院以来、地域の救急医療、がん診療、感染症医療、そして小児・周産期医療を柱として発展を遂げてきました。2020年には現在の地へ移転し、診療体制をさらに強化。救急医療指定病院や第一種感染症指定医療機関としての重責を担いながら、市民に寄り添う医療を提供し続けています。

長谷川(はせがわ) 直樹(なおき)院長に、同院の歴史や得意とする診療領域、そして先生が考える「これからの市民病院の役割」についてお話を伺いました。

私たちの病院が産声を上げたのは、1960年のことでした。当時は横浜市の人口が急増しはじめた時期で、医療面での充実に対する社会的な要請が非常に強かったと聞いています。国民皆保険制度が導入されるタイミングとも重なり、内科、外科、小児科、産婦人科という4つの診療科で、わずか42床からのスタートでしたが、翌年には整形外科、皮膚泌尿器科(現・皮膚科、泌尿器科)、眼科、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)などを加え、142床まで拡大しています。

その後は救急医療指定病院や感染症指定医療機関としての役割を加えながら、地域の期待に応える形で少しずつ機能を拡充してきました。1990年前後には大規模な再整備を行い、650床(2026年5月時点)を備える総合病院へと成長を遂げています。
現在は、神奈川区、西区、保土ケ谷区という3つの区が接し、横浜市のスポーツのメッカの1つである三ツ沢公園に隣接する場所で、高度急性期医療に注力して重篤な患者さんをしっかりと受け入れる体制を整えています。

また、地域がん診療連携拠点病院としての機能や、神奈川県下で私たちが担っている第一種感染症指定医療機関としての任務、さらに災害医療拠点病院としての責務も非常に重要です。特に感染症については、新型コロナウイルスのような新興感染症が発生した際に、神奈川県内で最初の受け入れ先の1つとなる役割を担っています。特殊な感染症に対応できる専用の病床や病棟を擁している点は、公立病院としての私たちの大きな特徴といえます。

当院の重要な使命の1つとして掲げているのが小児・周産期医療の充実です。少子化の影響で分娩を縮小する病院も増えていますが、私たちの病院では今もお産の数が増え続けています。無痛分娩*にも積極的に取り組んでおり、将来的には24時間体制での無痛分娩への対応など、ニーズに応じたあり方を検討しています。

また総合病院である強みを生かし、合併症やさまざまなリスクを抱えた妊婦さんの受け入れにも力を注いでいます。当院の母子医療センターでは、NICU(新生児集中治療室)を備えているため、ハイリスクな出産や新生児の緊急事態にも迅速に対応できるのが強みです。安心してお産に臨める場所であり続けることは、この街のインフラを支える公立病院として譲れない部分だと考えています。


*無痛分娩は硬膜外麻酔で分娩時の痛みを緩和します。痛みがまったくなくなるわけではありません。急速に分娩に至る場合もあれば、分娩までの時間が長くなることもあります。赤ちゃんが産まれる際、吸引や鉗子などの器械を使う頻度が高くなります。また、陣痛を促す薬(子宮収縮薬)を使う頻度が高くなります。一方で、分娩中と産後の疲労度が軽減されるとの報告もあり、利点と欠点について十分に説明した上で、妊婦さん自身に選択していただいています。費用は分娩費用のほかに無痛分娩の費用として別途15万円がかかります。無痛分娩は自由診療です。

特定の病気に対する取り組みとして、炎症性腸疾患、いわゆるIBDの診療には長く注力しており、「炎症性腸疾患(IBD)科」という独立した専門の診療科を設けています。
この科では、潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)やクローン病といった難しい病気に対し、内科的なアプローチと外科的なアプローチを密に連携させながら治療を進めています。かつては手術が中心だった時代もありましたが、現在は治療薬も進化しており、患者さんの状態に合わせた柔軟な対応が可能です。現在この分野に関しては、横浜市内だけでなく東北や九州など遠方からも患者さんが足を運んでくださっています。

私たちの病院では、形成外科による顔面神経麻痺の再建治療にも非常に力を入れています。これは、何らかの原因で顔面神経に麻痺が生じ、自然には元に戻らなくなってしまった麻痺を抱える患者さんに対し、外科的な手法を用いて機能の回復や外見の修復を図る治療です。お顔の動きに関わる非常に繊細な領域であるため、治療には特殊な技術が求められます。 

この治療は横浜市内でも限られた医師しか担えないもので、そのうちの1人が当院の形成外科で診療にあたっています。麻痺によって生じる不自由さや精神的な負担は計り知れないものがありますが、私たちはそうした患者さんの思いに寄り添い、確かな技術で支えていきたいと考えています。

がん診療においても、患者さんの負担を抑えた治療の提供を心がけています。例えば乳がんに対しては、ラジオ波を用いて腫瘍(しゅよう)を焼いて壊死させる低侵襲(ていしんしゅう)(体への負担が少ない)な治療法を取り入れており、体へのダメージを少なくすることで、早期の社会復帰をサポートします。また、低侵襲な手術が可能となる手術支援ロボットのダヴィンチも導入しており、今後さらにその活用範囲を広げていく予定です。

がんについては治療そのものだけでなく、診断から緩和ケアまでを包括的に支える体制も整えています。その一環として、手術・化学療法と並ぶがんの3大療法の1つである放射線治療では設備を刷新し、痛みの緩和を目的とした照射にも積極的に取り組んでいるところです。
さらに、院内にはがん相談支援センターやがんサロンを設け、患者さんやご家族がいつでも相談できる環境を整えました。相談の際はがん領域の看護師など医療スタッフのほか、がん経験者のピアサポーターや就労支援の専門家などが、療養に関する様々な不安に寄り添い患者さんの生活を支えます。

これからの医療において最も大切になるのは、国が推進する2040年に向けた地域医療計画が進むなかで、1つの病院で全てを完結させるのではなく、地域全体で患者さんを支えていくという考え方です。今後、私たちが「高度急性期医療」を担う立ち位置であることがより明確になるでしょう。

かつての市民病院は、お産から最期までを一貫して診るという、いわば「入り口からお墓まで」といった役割を期待されていた時代もありましたが、医療が高度化し複雑になった現在では、1箇所で全てを抱え込むことは難しくなっています。そのため、重篤な状態にある急性期の治療は私たちがしっかりと受け持ち、状態が落ち着いた後は地域の病院や診療所といった、より生活に近い場所で治療を継続していただくという役割分担が不可欠です。

特にお年寄りの救急搬送などについては、地域の先生方との密な連携が鍵を握ります。医療者側がこの仕組みを理解しているだけでは不十分で、患者さんやご家族にも「なぜ転院が必要なのか」といった今後の医療のあり方を正しくお伝えしていく必要があるでしょう。いざというときに患者さんが迷うことがないよう、近隣の病院とはお互いの顔が見える関係性を築き、適切なタイミングでふさわしい医療を提供できる体制づくりにこれからも全力を尽くします。

地域の皆さんに当院をより身近に感じていただけるよう、医療提供以外の活動にも積極的に取り組んでいます。市民公開講座を定期的に開催しており、市役所のアトリウムなども利用して、院外に出向きより多くの市民の方に健康や医療に関する情報をお届けすることもその1つです。地元の神奈川区のイベントにも出店しており、手指衛生の体験やちょっとした健康チェックなどを通じて、市民の皆さんと触れ合う機会を大切にしています。

また、隣接するニッパツ三ツ沢球技場を本拠地とするサッカーチームと連携した取組を行ったり、中高の吹奏楽部のコンサートを院内で開催するなど、文化やスポーツを通じた交流も推進しています。さらには、小中学生や高校生を受け入れて病院見学や職業体験を行うことで、命に関わる仕事の尊さややりがいを次世代に伝える種まきも行っています。
こうした多角的な活動を通じ、地域を支えるインフラとしての当院の必要性が若い世代にも伝わり、当院がより頼もしく、親しみやすい存在になればと願っています。

もしお体に不調を感じたり、健康に不安があったりするときは、まずは身近な「かかりつけ医」の先生に相談してみてください。そこで精密な検査やさらなる治療が必要だと判断された際は、私たちのような病院がしっかりとバトンを受け取り、責任を持って診療にあたります。
このような連携を適切に行うことで、皆さんがいつでも必要な医療を受けられる体制を続けていきたいと考えています。

当院は緑豊かな三ツ沢公園に隣接し、リラックスして過ごしていただける環境にあります。横浜駅からバスで約10分と、アクセスも非常に便利です。これからも救急医療、がん診療、感染症医療、小児・周産期医療といった柱をしっかりと守りながら、地域の皆さんが安心して暮らせるよう力を尽くしてまいります。何か困ったことがあれば、いつでも地域の先生を通じて私たちを頼っていただければと思います。
 

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