
IgG4関連疾患は全身の臓器が腫れたり硬くなったりし、症状が悪化する“再燃”を繰り返す原因不明の病気です。治療の第一選択薬であるグルココルチコイドには、長期使用による副作用のリスクが懸念されることなどから、近年、治療方針が見直されてきています。現在では、適切な治療によって今までどおりの生活や仕事に復帰することは十分に可能だと考えられています。今回は、産業医科大学医学部 分子標的治療内科学特別講座 特別教授 田中 良哉先生に、IgG4関連疾患の特徴や、近年の新たな治療選択肢についてお伺いしました。
IgG4関連疾患は、全身のさまざまな臓器が腫れたり硬くなったりする病気です。それらの症状は、複数の臓器で同時に起こることもあります。リンパ節、膵臓、唾液腺、涙腺、さらには背中(後腹膜)や、腎臓の周り、大動脈の周り、肺、そして脳の視床下部や下垂体など、ほぼ全ての臓器に影響が及ぶ可能性があります。
特徴の1つとして、血液検査で血清中のIgG4*という成分の数値が高くなることが挙げられます。そして組織検査を行うと、組織の中で特定の細胞などが増殖していたり、組織の線維化が生じていたりと、特徴的な変化が認められます。なぜこのようなことが起こるのか、まだ完全には解明されていませんが、本来であれば体を守るはずの免疫システムの異常が関与していると考えられています(メカニズムについて詳しくは後述します)。
発症年齢は平均するとおおよそ60歳です。男女比は2対1でやや男性に多い傾向があります。厚生労働省が指定する難病の1つで、現在、特定医療費(指定難病)受給者証を所持されている方の数は約4,500人です(2024年度末時点)。しかし実際には、全国に1万人以上の患者さんがいらっしゃるのではないかと推測されています。
*IgG4:血液中に含まれる抗体(免疫グロブリン)の一種。
IgG4関連疾患は、どの臓器が障害されるかによって現れる症状が異なります。比較的多くみられるのは、首の周りのリンパ節、唾液腺、涙腺などが腫れてくるケースです。この場合、実際に見た目や触診で腫れていることが分かります。人によっては、唾液腺への影響により口の乾きを感じることなどもあるでしょう。
膵臓の腫れも、多くみられる症状の1つです。膵臓が大きく腫れてくると、食欲不振やお腹の張りを感じるようになり、症状が悪化すると黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状)が現れることがあります。
このように症状は多岐にわたり、IgG4関連疾患だとは思わないまま進行してしまう方も少なくありません。IgG4関連疾患は比較的新しい疾患概念ということもあって、患者さんご自身だけでなく、医師も気付かないまま経過してしまう場合があるのが現状です。
実は、この病気は長らく別の病気と間違えられることが多くありました。かつては、膵臓が腫れるために膵臓がんを疑われたり、唾液腺が腫れるために自己免疫疾患の1つであるシェーグレン症候群*だと思われたりしていたのです。
転機が訪れたのは2001年、患者さんの血液でIgG4という成分が増加していることが日本の研究者により発見・報告されました。これをきっかけに血液検査でIgG4を測定できるようになったことで、別々の病気だと思われていたものが「同じIgG4に関連した病気ではないか」と考えられるようになってきたのです。2002年にはIgG4値の増加がみられる病気が複数報告され、2010年に厚生労働省の研究班によって、日本から世界へ向けて初めて“IgG4関連疾患”という疾患概念が提唱されました。
*シェーグレン症候群:ドライアイやドライマウスを特徴とする自己免疫疾患の1つで、全身の臓器にさまざまな異常を引き起こすこともある。
診断においては、がんやリンパ腫などの悪性腫瘍や、前述の自己免疫疾患などとしっかりと鑑別することが重要です。患者さんの自覚症状や医師の所見、画像所見、血液所見、そして組織を採取して調べる組織所見という4つの要素を組み合わせて診断を行います。
IgG4関連疾患は、健康診断や人間ドックでの検査値の異常などが発見のきっかけになることもあります。別の病気の治療中に偶然見つかるケースも珍しくはありません。また、触診を丁寧に行えば唾液腺などの腫れから可能性に気付くことができますが、この病気を念頭に置いて診察を行わなければ見逃されてしまう可能性があります。この病気の可能性が考えられる場合は、IgG4関連疾患を専門とする医師に相談していただくことをおすすめします。
現時点において、治療の中心となる第一選択薬はグルココルチコイド*です。免疫や炎症を抑えるはたらきがあり、IgG4関連疾患に対してはほとんどの症状を改善させる効果が期待できます。一方で、長期にわたって使い続けるものではないということに注意が必要です。
グルココルチコイドは本来、私たちの体内の副腎皮質から分泌されるホルモンの1つです。これを治療のために外から補うことになるため、長期的に多量を使用すると体に大きな負担がかかります。副作用として、代謝の異常による糖尿病や脂質異常症、骨粗鬆症、さらには心血管障害、脳血管障害などのリスクが高まります。また、免疫を抑え込むことで感染症にかかりやすくなる点にも留意しなければなりません。
*グルココルチコイド:一般的には“ステロイド”の名称で知られていたが、現在は男性ホルモンや女性ホルモンなどのステロイドホルモンと、治療に用いられるステロイドを区別するために、この名称が用いられる。
グルココルチコイドは、治療の初期にはしっかりと使うべきですが、副作用の懸念から漫然と使い続けることはできません。治療を始めた後は徐々に用量を減らしていき、基本的には3か月ほどを目処に“ゼロにする”ことが目標となります。
ただし、グルココルチコイドを中止すると症状が再燃する恐れがあります。特に自己免疫性膵炎と呼ばれる膵臓の炎症がある患者さんは再燃しやすいといわれています。再燃を防ぐためには、免疫の異常を抑えるはたらきがある免疫抑制薬を併用することが1つの手段です。中国の研究データでも、免疫抑制薬を併用することで再燃率を低く抑えられるという報告がなされています。日本でも、引き続き検証していく必要があるでしょう。
また、グルココルチコイドの低用量の服用を維持する“維持療法”を行うという考え方が従来は一般的でしたが、私は副作用のリスクを考慮すると、グルココルチコイドの使用は3〜4か月が上限であると考えています。今後は維持療法という考え方を見直していくことも必要だと思います。
先ほどお話ししたように、IgG4関連疾患の原因ははっきりとは分かっていませんが、次のようなメカニズムが考えられています。
IgG4関連疾患の患者さんの体内では、私たちの体を細菌やウイルスなどの外敵から守る“抗体”を作り出す役割を持つB細胞*が過剰に活性化しています。このB細胞が変化して“形質細胞”になると、IgG4という成分を次々と作り出します。さらに、活性化したB細胞はほかの免疫細胞を刺激し、“線維化”を引き起こすといわれています。
また、IgG4関連疾患の病態は大きく2つに分けられ、炎症が生じて臓器が腫れていく場合と、線維化が進んで組織が硬くなる場合があるようです。B細胞はこの両方の仕組みに関わっているため、B細胞のはたらきをコントロールできれば、病気の進行を抑え込めるのではないかと考えられるようになったのです。こうして、B細胞を標的とした新しい治療薬の開発が進められてきました。すでに欧米では“リツキシマブ”が治療に用いられるようになっています**。
*B細胞:白血球の一種で、体内で抗体を作り出す役割を持つ免疫細胞。
**欧米、国内ともにIgG4関連疾患に対しては未承認。
日本におけるトピックスとして、生物学的製剤の“イネビリズマブ”が2025年11月にIgG4関連疾患の再燃抑制に対する治療薬として承認されました。私が責任者を務めた国際共同治験でも、イネビリズマブを投与された日本の患者さん20名において、8週間以内にグルココルチコイドを休薬できたという結果が得られ、再燃抑制効果が示されています。
ただし、イネビリズマブは高額な薬剤であるという課題もあります。また、イネビリズマブの作用でB細胞を抑えることによる感染症への注意と定期的な検査が必要ですが、専門の医師が適切な管理を行うことで対策は十分に可能だと考えています。
近年ではイネビリズマブのほかにも、B細胞の活性を抑える“オベキセリマブ”や、内服薬の“リルザブルチニブ”などの治験も進行しています。患者さん一人ひとりに合った治療の選択肢がさらに広がることが期待されています。
この病気と向き合ううえで、何よりも重要なのは「専門の医師にきちんと診てもらうこと」に尽きます。全身のさまざまな臓器に障害が及ぶ可能性があるため、全身を包括的に管理する膠原病リウマチ内科などの、IgG4関連疾患を専門とする医師にご相談いただくことをおすすめします。専門の医師のもとで的確な診断を受け、適切な治療を行えば、症状の良好なコントロールが期待できます。
そして、私が患者さんに強くお伝えしたいのは、IgG4関連疾患になっても「仕事をやめたり、これまでの暮らしを諦めたりする必要はまったくない」ということです。治療費についても、医療費助成の手続きを行うことで負担を軽減できます。規則正しい生活を送り、定期的な通院を続けながら、ご自身の病気や薬について正しく理解することが大切です。ほかの病気にも共通することですが、患者さん同士の情報交換や交流の場である患者会に参加するのもよいと思います。
IgG4関連疾患は、2010年に日本から世界へ発信された新しい病気です。現時点で第一選択となっている治療薬はグルココルチコイドですが、その副作用を抑えつつ再燃を防ぐためには、免疫抑制薬あるいは生物学的製剤を使用していくことも重要になります。まずは専門の医師に相談し、診断を受けたうえで、ご自身に合った治療方針を一緒に考えていただければと思います。決して諦めることなく、病気になる前と同じような生活に戻ることを目指して、前向きに治療へ臨んでいただきたいと思います。
産業医科大学医学部 分子標的治療内科学特別講座 特別教授
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