院長インタビュー

地域医療・教育・研究を支え続ける大学病院として 名古屋市立大学病院が描くこれからの医療

地域医療・教育・研究を支え続ける大学病院として 名古屋市立大学病院が描くこれからの医療
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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名古屋市瑞穂区にある名古屋市立大学病院は、大学病院として医療人材の育成や研究を担いつつ、地域の救急や災害医療、周産期・母子医療、がん医療などを支える拠点としても重要な役割を果たしています。

病院長の松川(まつかわ) 則之(のりゆき)先生は、患者さんへの診療だけでなく、病院経営や地域医療の連携についても「科学的な視点」で捉え、医療の質を向上させることを目指していらっしゃいます。
松川先生に、同院が果たすべき使命や今後の展望、そして地域の方々への思いについて伺いました。

当院は1931年に名古屋市民病院として開設され、その後1950年には名古屋市立大学病院と改称して歩みを重ねてきました。長年にわたり、地域医療と医学教育、そして研究を担う大学病院として発展を続けています。

私が医師になった40年ほど前も、ご高齢の患者さんからは旧称である「市民病院」と呼ばれることが多く、市民の皆さんに親しまれている病院だと感じていました。実際、大学病院となった現在も、市民病院時代から受け継がれてきた「地域に根差した病院」という姿勢は変わっていません。

設立母体が名古屋市であることから、当院には市民の皆さんの健康を守るという使命があります。日常診療はもちろん、救急医療や災害医療など、公的な役割を果たすことも欠かせない責務です。

また、名古屋は東海地方の中心都市であり、愛知県内だけでなく岐阜県や三重県などからも患者さんが訪れます。そのため当院は、先進的な急性期医療を提供するとともに、教育・研究を通じて新たな医療を生み出し、その成果を地域へ還元する役割も担っています。

名古屋市民の皆さん、そして東海地域の皆さんから信頼される病院であり続けること。我々の思いは今も昔も変わっておらず、これからも変わらないでしょう。

医療を科学し、地域へ還元することも大学病院の使命

大学病院の役割は、目の前の患者さんを診療することだけではありません。医療を科学的に分析し、新しい知見を地域医療へ還元していくことも重要です。

私は若い頃、認知症の診療を行う病院に赴任し、何もないところから研究室を立ち上げた経験があります。当時は人間の脳組織を研究する前例がほとんどないなか、よりよい条件でサンプリングを行う方法を模索し、試行錯誤を重ねながらゼロから研究体制を築いていきました。
研究では、経験や思い込みではなく、データを集め、仮説を立て、検証を重ねながら真実に近づいていく姿勢が求められます。私はこの経験を通じて、「物事を科学的に捉える」という考え方を身につけました。

だからこそ私は、この考え方は診療だけでなく病院経営にも通じるものだと考えています。経験や勘に頼るのではなく、客観的なデータを可視化・分析し、その結果をもとに病院全体の改善につなげていくことを大切にし、日々実践をしているところです。

2026年6月に開棟した救急災害医療センター
2026年6月に開棟した救急災害医療センター(名古屋市立大学病院ご提供)

当院では、三次救急(命に関わるような重篤な患者さんへの救急医療)から二次救急(手術や入院が必要な患者さんへの救急医療)まで幅広く受け入れています。

近年は高齢化に伴って救急搬送される患者さんが増えているほか、新型コロナウイルス感染症の流行を経験したことで、名古屋市内において救急・災害・感染症に一体となって対応できる体制の重要性が改めて認識されました。そこで整備されたのが、当院で2026年6月から稼働を開始した救急災害医療センターです。

救急災害医療センターは、単に救急施設を新しくしたものではありません。重症患者さんの治療開始までの時間を短縮するとともに、災害や感染症が発生した状況でも救急医療を止めないことを目指して設計されました。

その考えを形にしたのが、センター内の設備です。救急車の受け入れ口には初療室を10室設け、大規模災害などで多数の傷病者が搬送された場合にも、同時に多くの重症患者さんに対応できるようにしました。また、同じフロアには患者さんを移動させることなく、検査からカテーテル治療、手術まで行えるハイブリッドER室を設置しています。
さらに、感染症患者さん専用の動線を設けることで、重症な患者さんの治療開始までの時間を短縮するとともに、新型コロナのような感染症が発生した場合でも通常の救急医療を止めないような作りになっています。

病院内の体制だけでなく、病院の外へ医療を届ける取り組みにも力を入れています。その1つとして、医師や看護師が乗って患者さんを迎えに行くドクターカーを、名古屋市消防局と連携して24時間体制で名古屋市全域へ出動させています。
医師や看護師が現場で初期治療を開始することは、救命率の向上や後遺症の軽減につながります。また、ドクタカーから設備の整ったセンターへスムーズに運び込むことで、搬送前から治療開始まで、より切れ目のない救急医療を実現することができています。

当院の周産期・母子医療は、名古屋市の妊婦さんや赤ちゃんへの医療を長きにわたり支えてきました。過去の先輩方が小児救急や未熟児医療を切り開いてきた歴史があり、当院の周産期母子医療センターはNICU(新生児集中治療室)などの設備も充実しています。2026年6月には、周産期母子医療センターを救急災害医療センター内へ移転し、産科とNICUを集約することで、より迅速な周産期医療を実現しました。

周産期母子医療センターでは妊婦さんに対する不妊治療や習慣性流産の研究・診療に取り組むほか、ハイリスク妊娠・分娩にも対応しています。一方、生まれた赤ちゃんに対しては、NICUを中心に低出生体重児や重い病気を抱えた新生児まで専門的に診療し、産科、新生児医療部門、小児科が密接に連携しながら母子を支えています。

少子化が進む一方で、専門的な周産期医療を必要とする妊婦さんや新生児への対応はますます重要になるでしょう。だからこそ、この分野は今後さらに集約化が進み、当院が地域の周産期医療を支える中核的な役割を担っていくと考えています。

当院は、地域がん診療連携拠点病院として、がんの診断から手術、薬物療法、放射線治療、緩和ケアまで一貫した医療を提供しています。また、がんゲノム医療連携病院として、一人ひとりの遺伝子情報に基づいた治療にも取り組むなど、先進的ながん医療を担う地域の中核的な病院です。

名古屋市では今後、高齢化がさらに進み、ご高齢のがん患者さんが増えていくことが予想されます。そうした患者さんに対しては、ただ病巣を大きく切り取ればよいというわけではありません。術後の生活の質(QOL)を維持できるよう、ロボット支援下手術などを取り入れた低侵襲(ていしんしゅう)(体への負担が少ない)な治療が求められます。

そこで当院では、「がん診療・包括ケアセンター」を設置しました。これにより、特定の細胞に作用する分子標的薬による化学療法や、がん細胞に集中的に作用する放射線治療など、がんへの集学的な治療を各診療科の力を合わせて提供することが可能となっています。
また、このセンターでは、乳房の再建などを担う形成外科との連携、緩和ケアセンターとの連携なども行っており、患者さん一人ひとりを支える包括的ながん医療を提供しています。

全国的に病院経営が厳しさを増すなか、前述したように、医療の質と経営の両方をデータに基づいて改善していくことがこれからの大学病院には欠かせないと考えています。

そのために現在進めているのが、電子カルテシステムの更新です。新しいシステムでは、診療データを蓄積・解析しやすい仕組みを構築し、各診療科の実績や医療の質、業務の流れなどを客観的に把握できるようにする予定です。こうして得られたデータを分析することで、改善すべき課題や適正な人員配置も見えてくるでしょう。

また、AIを活用するなどのさらなるDXの推進も必要です。しかし、DXを活用する目的は単なる業務の効率化ではありません。医師が再び患者さんと向き合う時間を増やすことこそ、本当の目的です。

電子カルテが導入された当時、医師はパソコンの画面ばかりを見て患者さんを見なくなったと言われた時期がありました。本来、医師の仕事は画面を見ることではなく、患者さんの目を見て診療することです。書類作成や画像診断のサポートなどをAIに任せることで、医療者が今よりももっと患者さんの目を見て、一人ひとりと向き合える医療を進めたいと考えています。

救急災害医療センターが稼働を始め、救急の受け入れ数が増加すると、次に課題となるのが、当院で治療が終わった患者さんを適切な次の医療機関へおつなぎするための連携です。

この連携は現状、電話での手作業に頼る部分も少なくありません。そこで今後はオペレーションセンターを機能させ、まず院内全体のベッドの空き状況やそれぞれの病棟の重症度、さらにはスタッフの看護力を数値化して把握できるようにしたいと構想しているところです。こうしたデータを可視化することで、救急で運ばれてきた患者さんを院内のどこで受け入れるか迅速に判断できるようになるでしょう。

そのうえで、将来的にはこの“可視化”を地域のクリニックや連携病院とも共有したいと考えています。地域の医療機関がデータを通じて1つの病院のように機能し、地域全体で患者さんを支える――それが私の思い描く、より進化した地域医療の姿です。

医療は日々進歩していますが、決して完成された万能の学問ではありません。私たちがどれほど力を尽くしても、時には思いどおりの結果にならないことがあります。

だからこそ、医師や看護師だけではなく、患者さんやご家族にも十分に情報をお伝えし、一緒に考えながら治療を進めていくことが大切です。医療は医療者だけが担うものではなく、患者さんやご家族との共同作業で成り立つものだと私は考えています。

たとえば治療を進めるなかで、「ほかの病院の先生の意見も聞いてみたい」と思われることは、ごく自然なことです。当院では、そのようなご希望があれば、ためらうことなくセカンドオピニオンをご案内しています。
当院の医師たちは、そうしたご希望があればためらうことなくセカンドオピニオンの紹介状を書く度量を持っています。自分たちの診療に自信があるからこそ、患者さんを他の医療機関へ快く送り出し、ご意見を聞いて戻ってこられたときにはしっかりと受け止めることができるのです。患者さんに十分納得したうえで治療を受けていただきたい――それが私たちの願いです。

不安なことや分からないことがあれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。私たちは大学病院として新しい医療に挑戦し続けながら、患者さんや地域の皆さんと共に歩んでいきたいと考えています。そして、地域の皆さんと一緒に、この名古屋市立大学病院を育てていければ幸いです。

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