インフルエンザや突発性発疹などの感染症に伴って起こる幼児の急性脳症のうち、けいれん重積型(二相性)急性脳症は29%と、もっとも多くの割合を占めています。けいれん重積型(二相性)急性脳症の原因や症状、発症メカニズム、後遺症について、東京大学大学院医学系研究科発達医科学の水口雅(みずぐち まさし)先生にお話を伺いました。
けいれん重積型(二相性)急性脳症を説明するために、まずは「急性脳症」についてお話しします。
ウイルスによる感染症には多くの種類が存在します。代表的なものにインフルエンザや突発性発疹(生後6か月〜1歳代の幼児が罹患しやすいヒトヘルペスウイルス6型または7型による感染症)、ロタウイルス胃腸炎などがあり、これらは私たちが一生に1度は罹患するごくありふれた感染症です。実際、年間に数百万名の幼児がこれらの感染症に罹患して高熱を出していると推測されます。
高熱を出した幼児のうち一部のケースでは、熱性けいれん(高熱をきっかけとして起こるけいれん)を発症します。熱性けいれんは1年間に数万名の乳幼児に発症すると推測され、比較的よくみられる疾患です。通常の熱性けいれんの場合、けいれんは長くても数分以内で治まり、けいれんが止まれば意識は戻ります。最終的には完全に回復して後遺症は残らず、死亡もありません。
しかし熱性けいれんを発症したうちごく一部の幼児は、けいれん後に意識が戻らず、昏睡状態(外部からの刺激にまったく覚醒しない)が24時間以上続くことがあります。これを「急性脳症」といいます。急性脳症は、脳に大きなダメージが起こり、最悪の場合死亡するケースもありえます。また急性脳症は命が助かった場合でも、運動麻痺・知的障害・てんかんなどの後遺症が残りやすいことが特徴です。幸い、急性脳症は非常にまれな疾患です。
急性脳症は1つの疾患の名称ではなく、「一定以上の時間経過と重症度を伴い感染中に生じる意識障害」の総称です。ウイルス感染に伴う幼児の急性脳症のうちもっとも多いタイプが、けいれん重積型(二相性)急性脳症です。
けいれん重積型(二相性)急性脳症は、急性脳症のおよそ29%を占めます。通常、高熱によるけいれんは長くても数分で止まりますが、けいれん重積型(二相性)急性脳症の場合には、しばしばけいれんが数十分続きます。けいれんが30分以上にわたって長時間続く状態を「けいれん重積」と呼びます。
2010年の全国調査データでは、けいれん重積型(二相性)急性脳症の患者数は年間に100〜200名ほどと推測され、まれな疾患です。けいれん重積型(二相性)急性脳症は、国別では日本、年齢別では生後6か月〜1歳代の発症が最多です。
けいれん重積型(二相性)急性脳症は、日本の小児に多い疾患です。海外にも発症例はありますが、圧倒的に日本人の小児に多くみられます。現在ではその原因の一部が解明されつつあり、日本人は急性脳症になりやすい遺伝子の型を持っていることがわかってきました。
けいれん重積型(二相性)急性脳症は、幼児がかかりやすい突発性発疹やインフルエンザ、ロタウイルス胃腸炎(ロタウイルスによって乳幼児が罹患しやすい急性の胃腸炎)など、ごくありふれた感染症に罹患し、高熱を出すことをきっかけに発症します。
けいれん重積型(二相性)急性脳症は、ある特定の薬剤によって症状が悪化することがわかっています。たとえば、かつて喘息性気管支炎の治療に使われていたテオフィリン(一般名)という薬剤です。テオフィリンの使用については、けいれん重積の症状悪化について警告されたことから、アレルギー治療のガイドラインで選択順位を下げられました。
けいれん重積型(二相性)急性脳症を引き起こす感染症はいくつもありますが、特にインフルエンザと突発性発疹による高熱がきっかけになるケースが多くみられます。インフルエンザは幼児期に初めて感染することが多く、初感染では重症化しやすいといわれています。
突発性発疹は、けいれん重積型(二相性)急性脳症を起こしやすいウイルスのなかで、もっとも高い頻度で幼児に発症します。突発性発疹は一度かかると免疫ができるため、一生に一度しか罹患しません。突発性発疹の原因となるウイルスはいたるところに常在し、ほぼ100%の子どもが罹患し、このときに通常の子どもは生まれて初めて発熱します。
実はほぼすべての子どもが、胎児期に母体から胎盤を通じて突発性発疹の免疫を受け継いでいます。しかしその免疫は生後6か月〜1年ほどで効果が失われるため、そのタイミングで突発性発疹に罹患し、けいれん重積型(二相性)急性脳症のきっかけになるのです。
脳内には膨大な数の神経細胞(ニューロン)があり、情報の伝達・処理を行っています。神経細胞の間で情報を伝達する際、さまざまな神経伝達物質を使いますが、そのなかでグルタミン酸は、興奮性の神経伝達物質として非常に重要な役割を果たしています。神経細胞は刺激によって情報を伝える信号を出しますが、この活動状態を「興奮」と呼びます。興奮が適度に行われている状態では、適量のグルタミン酸が産出され、このグルタミン酸により神経細胞は健康に保たれます。しかしけいれん重積が起こると一度に多量のグルタミン酸が産出される、大量のグルタミン酸は受け手である神経細胞にとってかえって毒となり、神経細胞が死んでしまいます(興奮毒性と呼ぶ)。
けいれん重積型(二相性)急性脳症では、けいれん重積をきっかけに大脳皮質(脳の表面部分)の神経細胞が興奮毒性により死滅するという特徴がみられます。
けいれん重積型(二相性)急性脳症を発症すると、1日目(24時間以内)にけいれん重積、ついで意識障害が起こります。この時期にMRIやCT検査を行っても、大脳皮質に病変はみられません。しかしながら実際にはこの段階で多量のグルタミン酸が産出されており、神経細胞の損傷過程が始まっています。
2日目には意識障害が改善することが多いのですが、完全にはっきりと戻るわけではありません。
3〜7日目に再びけいれんと意識障害を起こします。このときに起こるけいれんは1日目とは異なり、短いけいれんが何度も起こる「けいれん群発」です。(1日目と3日目以降、2回けいれんが前頭葉に起こることから「二相性」という名称がついています)
けいれん群発ののち、患者さんは2度目の意識障害に陥ります。この時期にMRI検査を行うと、大脳皮質の浮腫(腫れ上がった状態)という特徴的な病変がみられます。
意識障害から回復して覚醒した後に、大脳皮質の機能が低下した症状として、失語症(話せていた言葉が話せなくなる)、感情が平板になる、常同運動(同じ動作を長時間、繰り返す)などが見られます。てんかんの発作(突然意識を失い反応がなくなるなどの発作)が出ることがあります。
罹患から14〜21日目には、腫れ上がっていた大脳皮質の神経細胞が死ぬことで、その領域が萎縮し、血流が減少します。※病変部分の画像は記事2『けいれん重積型(二相性)急性脳症の診断・予防・治療』でご紹介します。
けいれん重積型(二相性)急性脳症は、発症した方のうち7割の患者さんに後遺症が残ります。もっとも多い後遺症は、知能指数低下、高次機能障害(脳の損傷による症状で社会生活に制約の生じる状態)、失語症などの知的障害で、重症のケースでは、四肢麻痺(程度が強ければ寝たきり)、片麻痺などの運動障害が後遺症として残ることがあります。またけいれん重積型(二相性)急性脳症の後遺症として残るてんかんの発作は重症化しやすく、抗てんかん薬の効きにくい難治性タイプが多いことが知られています。
記事2『けいれん重積型(二相性)急性脳症の診断・予防・治療』では、けいれん重積型(二相性)急性脳症の診断、予防、治療についてご説明します。
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