リンパ浮腫はがん治療を受ける方の増加にともなって年々増えています。手術時のリンパ節切除をきっかけとして発症する方が多いためです。従来はがんによる生命の危機を免れたことの代償として、リンパ浮腫はある程度仕方のないことだと考えられている面がありました。しかし最近ではリンパ浮腫外来を開設して積極的な治療を行う医療機関が増えています。外科手術と保存的治療を組み合わせてリンパ浮腫の改善に取り組んでおられる、横浜市立大学医学部形成外科学教授の前川二郎(まえがわ・じろう)先生にお話をうかがいました。
リンパ浮腫とは、体内の老廃物を運ぶリンパの流れが何らかの理由で妨げられ、皮膚の下や脂肪のすき間などにリンパ液がたまって腕や脚がむくんでいる状態をいいます。
リンパは本来からだの表面に近いところから、より深いところへ還っていくものですが、リンパ節やリンパ管の機能に問題があると、皮膚逆流現象が起こって皮膚の下の脂肪層にあふれ出てしまいます。
リンパ浮腫には原発性と続発性(関連記事「リンパ浮腫の原因」参照)がありますが、全体に占める続発性リンパ浮腫の割合は80〜90%とされています。続発性リンパ浮腫はがん治療の際のリンパ節切除などによって起こるため、リンパ浮腫イコールがん治療の後遺症という一般的な認識につながっています。
原発性リンパ浮腫の患者さんは約5,000人程度、続発性リンパ浮腫では上肢(腕)の浮腫が約5万人、下肢(脚)の浮腫では約7万人の患者さんがいると推定されており、現在ではさらに増加しているとみられています。乳がんや子宮がんの手術をきっかけに発症する方が多く、女性が圧倒的に多いのも特徴です。
リンパ浮腫の状態を知るための検査として、多くの医療機関で導入されている超音波検査(エコー)は有効な検査方法です。超音波検査はプローブ(探触子)と呼ばれる器具から発する超音波の反射を画像化するもので、皮下にリンパ液がたまっている状態をとらえることができます。からだの外側からプローブを当てるので、からだが傷ついたり、苦痛を感じることがない無侵襲な検査であるというメリットがあります。
しかしその一方で、たまっている液体の成分が特定できないため、特に軽度の場合には他の疾患による浮腫との見分けがつきにくい場合もあります。また、通常ではリンパ管を見ることはできませんので、リンパ浮腫がどれくらい進んでいるのかという、いわゆる病期の判定には不向きです。ただし造影剤を使った造影超音波検査であれば、リンパ管の位置や造影剤の流れをとらえることもできます。
シンチグラフィー(またはシンチグラム)と呼ばれる検査法の一種で、放射性同位体と呼ばれる薬剤をリンパ管に注入し、薬剤が発する放射線を特殊な装置で検知します。からだの中でリンパ液がどのように流れているかを目に見える状態で観察することができます。
静脈性の浮腫などリンパ浮腫以外の病気との区別が可能で、進行の度合いを示す病期の判定にも有効であるとして、国際リンパ学会でも推奨されているスタンダードな検査法です。
近年開発された造影法で、リンパ管の状態をきわめて鮮明にリアルタイムで観察できる方法として注目されています。注射で体内に入れたインドシアニングリーン(ICG)やインドシアニングリーンなどの色素(造影剤)がたんぱくと結合して蛍光を発します。これを特殊な赤外線カメラで撮影してリンパ管の状態やリンパの流れを直接観察することができます。造影剤を注射する際には局所麻酔を行なうので痛みもほとんどありません。ただし、赤外線を使用するのでからだの深いところのリンパ管は見ることができません。
SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)は「単光子放射線コンピュータ断層撮影」とも呼ばれるシンチグラフィーの一種です。放射性同位元素が発するガンマ線をとらえるカメラ(ガンマカメラ)とマルチスライスCTと呼ばれる断層撮影の両方を備えており、それぞれの画像を重ね合わせてより正確な診断ができます。深層のリンパ管の状態が分かるため、リンパ管の機能を評価し、重症度を判定するうえで有効です。デメリットとしては単体の検査より被曝(ばく)量が多くなります。
蛍光リンパ管造影ほどではありませんが、リンパシンチグラフィより解像度が高く、からだの深いところも含めた全体を把握することができます。リンパ管が走っているようすを一本一本立体的にとらえることができ、断面の撮影によって浮腫の程度をみることもできます。ただし造影剤を注射するため、痛みがあります。また、造影剤を入れた後の撮影のタイミングが重症度によって異なり、意中の結果が得られない場合があります。
超音波検査以外の画像診断については導入している施設が限られるため、どこででも受けられるというわけではありません。また、リンパ浮腫の診断としては保険の適応になりませんので、患者さんに自費でご負担いただくか、医療機関が負担するかのいずれかになります。横浜市立大学附属病院では蛍光リンパ管造影やSPECT-CTについては病院の経費で検査を行うことができます。
横浜市立大学 形成外科学 教授
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