概要
ロタウイルスとは、嘔気・嘔吐と下痢を主症状とする急性胃腸炎の原因ウイルスのひとつです。ロタウイルスによる急性胃腸炎は、冬から春先にピークを迎えるとされています。
インフルエンザにA型やB型があるのと同じように、ロタウイルスにも型が存在します。ロタウイルスにはA型からG型が存在しますが、人に感染が報告されているのは、A型とC型です。さらに、ロタウイルス表面のいくつかのタンパク質も特定されており、タンパク質の種類に応じて感染性が異なります。そのため、一言にロタウイルスといっても、タイプの異なるウイルスが多数存在することになります。
世界的にみてもロタウイルスの影響力は大きく、小児の急性胃腸炎の主要原因ウイルスとなっています。そのため、日本を含む世界中でワクチンによる予防が推奨されています。
原因
ロタウイルスに感染することで起こる急性胃腸炎は、大気中や糞便、嘔吐物などに存在するウイルスを、口から取り込むことで感染し、発症すると考えられています。
特に、保育所や幼稚園では、ロタウイルスに対する免疫を獲得しておらず、衛生的な概念も確立していない幼児が集団生活を送ることから、容易にロタウイルス感染が流行しやすい傾向があります。
また、ロタウイルスは感染力が非常に強く、わずかな数のウイルスを取り込むだけでも感染が成立することから、手洗いやうがいなどで充分な注意を払っていても感染してしまうことがあります。そのため、ほぼすべてのお子さんが5歳になるまでに一度はロタウイルスに感染するともいわれています。
さらに、ロタウイルスにはさまざまなタイプがあるため、何度もロタウイルスに感染することがあり、急性胃腸炎を繰り返すこともあります。一般的には繰り返すことで、徐々に症状は軽くなる傾向にあるとされています。
症状
ロタウイルスによる急性胃腸炎に伴う症状には、嘔気・嘔吐、下痢、腹痛などがあります。ウイルスが体に取り込まれてから1~3日の潜伏期間を経て、発熱と嘔吐が始まり、その24~48時間後から水のような下痢(白色になることもあります)が起こることがあるといわれています。
熱や嘔吐は数日で治まりますが、下痢症状は治まるまで1~2週間程度を要することもあります。下痢が長期間続き、水分摂取がうまくいかない場合には、重篤な脱水状態に至ることもあります。
脱水を見極める症状としては、以下が挙げられます。
- おしっこの回数やオムツを替える回数が減った
- 口の周りが乾燥している
- 口の中が乾いている
- ふらつく
- 意識がトロンとしていておもちゃで遊ばない
など
このほか、ウイルスに感染しても、胃腸炎の症状を発症しない不顕性感染で終わることもあります。頻度としては小児における胃腸炎が多いものの、成人においても同じような症状が現れることもあります。
また、ロタウイルスに感染した場合、脱水に関連した症状以外にも注意すべきものがあります。具体的には、胃腸炎症状が出てから1~2日でけいれんを起こしたり、まれに脳炎と呼ばれる神経の後遺症が残ったりすることもあります。そのほか、胃腸炎に関連した腸重積を発症することもあり、血便にも注意が必要です。
検査・診断
ロタウイルスの急性胃腸炎は、臨床経過や身体診察から診断できることも多々あります。ロタウイルスは冬季に流行することが多く、特に集団感染を起こすこともあり、こうした季節的・環境的な情報も診断の役に立ちます。
また、脱水症状が強い場合や合併症を伴っている場合においては、便を用いた検査によって確定診断がつくこともあります。約15分で結果が判明できる、簡便で迅速な検査です。
脱水が進行すると腎機能にも影響が生じたり、電解質異常やアシドーシスが進行したりすることがあります。輸液の適応かどうか、それ以上の治療介入が必要かを判断するために、血液検査や尿検査が行われることもあります。
治療
ロタウイルスによる胃腸炎の第一の治療目標は、脱水をいかに避けるかということです。特に発症初期は吐き気や嘔吐症状が強く、無理に水分を飲ませると嘔吐を誘発することもあります。
数時間経つと吐き気はおさまることも多いため、このころから少しずつ水分を口から取ることが大切です。これを経口補水療法と呼びます。市販されている経口イオン水が推奨されていますが、お子さんの場合は味を嫌うこともあります。嫌がる場合には無理に経口イオン水を飲ませようとするのではなく、本人の飲みやすいものを与えるようにしましょう。
一度に多くの水分を摂取すると、嘔吐してしまうこともあるため、ペットボトルのキャップ程度の少量の飲み物を5分間隔程度でこまめに飲ませ続けることが重要です。
基本的に、脱水症状がない場合は、食事形態を普段と大きく変える必要はありません。乳児であればミルクや母乳も与えても構いません。しかし、なかには、ロタウイルスに関連して乳糖不耐症を発症するお子さんもいます。乳糖不耐症とは、母乳やミルクの消化が悪くなり、下痢を起こしてしまう病気です。
乳糖不耐症が疑われる場合は、一時的な母乳やミルクの中止、特別な粉ミルクへの変更、乳糖の分解を助ける薬の併用なども検討しましょう。
予防
ロタウイルスによる胃腸炎の発症を抑えるために、感染予防策を講じることも大切です。日本では1価ワクチンと5価ワクチンの2種類の生ワクチンが使われています。
生後6週間から接種可能であり、1価ワクチンは生後24週まで、5価ワクチンは生後32週までに完了する必要があります。接種可能時期は短く、任意接種ではありますが、接種することでの効果はとても高いといわれています。
また、ロタウイルスは感染力が強いことに加え、アルコール消毒では対策しきれないため、塩素系消毒液の使用も考慮しましょう。
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