インタビュー

子どもの下痢、重大な病気のサインは?

子どもの下痢、重大な病気のサインは?
宮田 章子 先生

さいわいこどもクリニック 院長

宮田 章子 先生

ロタウイルスワクチンの開発により、重症胃腸炎の患者さんは激減しました。とはいえ、常に重症化した例を念頭において子どもの下痢をみていくことが、重症化を見逃さないためには医師にとって最も大切だといいます。子どもの下痢が非常に長引いたり、便の形や色がおかしかったり、下痢が落ち着いているにも関わらず元気がない場合、胃腸炎以外の病気である可能性も考えられます。また、ときには下痢による重度の脱水や合併症により重症化するケースもあります。ご自身のご経験も含め、さいわいこどもクリニック院長の宮田章子先生にお話しいただきました。

胃腸炎から起こる合併症の例―食中毒から起こりうる腎臓の障害

溶血性尿毒症症候群(HUS)は、腸管出血性大腸菌(有名な食中毒の原因菌、代表的なものはO-157)などの感染が原因となり発症する病気です。菌の出す毒素によって赤血球(血液中の成分の一つ)が破壊されると貧血や血小板減少、痙攣、意識障害、急性腎不全(急激な腎臓の機能低下)などを引き起すため、早急な治療が必要となります。適切な治療がなされなければ、腎臓に後遺症が残ることもあり、最悪の場合は死に至ります。

大抵の場合、溶血性尿毒症症候群(HUS)は下痢が出現してから4〜10日後に発症するといわれています。細菌性の食中毒を疑う下痢の場合は、腎臓の障害を引き起こしてしまう可能性があることを念頭に置いて診療します。

下痢に伴う脱水症状は重症化の危険を高める

胃腸炎による下痢で、世界では毎年多くの子どもが死亡しています。

特に、開発国では下痢による脱水症状が死亡要因として大きいといわれています。年齢の低い乳児期であるほど脱水症状が重症化し、入院や点滴が必要になります。

現在でも、胃腸炎による脱水が重症化してしまう可能性はあります。しかし、胃腸炎の代表的な原因の一つであるロタウイルスに対するワクチンが開発され、その予防接種が進んでいることにより、ロタウイルスに感染して来院される患者さんは激減しています。

ロタウイルスワクチンの導入とロタウイルス感染症の激減

ロタウイルスによる胃腸炎では、下痢や嘔吐が一週間は継続し、脱水が急速に進みます。ワクチン導入以前は、乳幼児の胃腸炎の中では重症度が高いという特徴がありました。脱水にとどまらず、数時間でショック状態にまで陥ってしまうことも少なくありませんでした。このような激烈な症状は細菌による胃腸炎の場合ではあまりみられません(赤痢など特殊な細菌を除く)。ノロウイルスによる胃腸炎も同様です。

現在では、ロタウイルスのワクチン(ロタテック®、ロタリックス®)が普及したことで、ロタウイルスに感染する患者さんの数が激減していると実感しています。さいわいこどもクリニックにいらっしゃる患者さんにも、ロタウイルスに感染した子どもはほとんどみかけなくなりました。

さいわいこどもクリニックでは、ロタウイルスワクチンの接種率は来院者のうち8割と非常に高い水準に達しています。

ロタウイルスワクチンは定期接種になるのか?

定期接種(ていきせっしゅ)とは国や自治体が接種を強く推進し、接種のための金銭補助もされるワクチンのことをいいます。ロタウイルスワクチンは現時点では任意接種(ワクチン接種に一定の金銭負担がかかるもの)であり、日本での定期接種化は残念ながらまだ具体化されていません。現在のところ定期接種化については、ロタウイルスワクチンよりもB型肝炎ワクチンやムンプス(おたふくかぜ)ワクチンのほうが優先されています(B型肝炎ワクチンは2016年秋から定期接種化が決定しました)。

とはいえ、予防のためのワクチンを打つに越したことはありません。ロタウイルスワクチンは、脱水による重症化だけでなく、脳炎(感染によって脳に炎症が起こり、けいれんや意識障害などの症状が生じたり、時には後遺症を残すこともある状態)などの重篤な合併症も防ぐことがわかっています。

日本はかつてワクチン後進国といわれていましたが(関連記事:中野貴司先生記事『日本における予防接種の歴史―日本はワクチン後進国?』)、少しずつ新規ワクチンの導入や定期接種化が進み、親御さんの意識は徐々に「ワクチンは打つべきもの」と変化しています。地域自治体によってはすでにロタウイルスワクチンの接種に補助金が出るところもあるため、お住まいの地域の状況を確認してみるのもよいでしょう。

下痢から気づかれる重症疾患、腸重積について

腸重積とは、腸の一部が重なり合っている状態で、最悪の場合は腸が壊死してしまう危険な病気です。代表的な症状は血便(便に血が混じること)ですが、血便がなく下痢のみで発見される腸重積も存在します。血便が見られない腸重積は、急に泣いたりおさまったりを繰り返すエピソードや、元気がなかったりなどの症状が中心になります。その他、特徴的な症状がないのに、しっかりと検査を行ったところ腸重積だと判明する場合や、一日~二日がかりで腸重積になる場合もあります。腸重積では、顔色がすぐれず痛みの訴え方が通常と異なるなどのサインがあらわれるため、医療者はそれを見落とさないようにします。

もちろん、症状が下痢のみのときに毎回腸重積を心配する必要はありません。ただし、医師は、常に重症疾患の可能性も頭の中に置きつつ診察しています。

下痢からみつかる虫垂炎について

虫垂炎が原因となって起こる下痢もまれにあります。通常、虫垂炎になって痛むのは右の下腹部と考えられていますが、子どもの場合はそうとは限りません。右が痛むばかりではなく腹部全体が痛むケースもあるのです。

宮田章子先生が印象に残った重症例

私が覚えているのは双子の赤ちゃんが同時にロタウイルスによる胃腸炎になったときで、二人が同時に嘔吐・下痢を繰り返しショック状態にまで進行しました。他の患者さんの診察をしている間にぐったりし始め、急激に状態が悪化したのです。

ほかにも、生後1か月のミルクアレルギーの赤ちゃんが、ショック状態で来院された経験があります。子どもの場合、下痢をきっかけにして脱水状態になり、ショックを起こすことがあります。

また、腎障害を起こしていた子どももいます。このお子さんは、脱水が点滴で治ったにもかかわらず、次の日になっても元気がありませんでした。すると、「どうしてこんなに元気がないのだろう」と気づくことができます。この患者さんは、実は胃腸炎に伴って腎不全(腎臓の機能が悪くなり、正常に働かない状態)になりかけていたのです。このように通常とは違って何かおかしい、と気づけると、適切な対応ができ、重症化が防げます。もし腎障害に気づくことができなかったり対応が遅れてしまったりした場合は、透析になってしまう可能性もあるのです。

また先述した溶血性尿毒症症候群(HUS)も重症例の一つで、貧血が症状に現れることがあります。明らかな症状はなくとも、採血したら溶血性尿毒症症候群(HUS)だとわかることもありますが、医師が溶血性尿毒症症候群(HUS)を疑わなければ検査すら行われません。

このように、私は非常に印象的だった症例を念頭に置きながら診療しており、同じ重症患者を出さないように心がけています。

子どもの下痢は、基本的に脱水に注意すれば重篤にはなりませんが、急激に症状が現れた際は親御さんも子どもが通常とは違って何かおかしくはないか、見逃さないようにしていただきたいと思います。

 

「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。

 

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