大腸に発生するがんを“大腸がん”といいます。進行すると、がん細胞がお腹の中にばら撒かれて、お腹に水がたまったり腸閉塞が起こったりする、腹膜播種という状態になる可能性があります。腹膜播種は大腸がんのステージIVにあたり、従来は根本的な治療法のない状態だといわれてきました。
今回は、大腸がんの腹膜播種に対する治療に取り組む、国立国際医療研究センター病院の合田 良政先生に、大腸がんの腹膜播種とは何かを伺いました。
大腸は便の通り道であり、消化管の最後の部分にあたります。右側の下腹部にある盲腸から始まって、上に向かう上行結腸、左側に向かう横行結腸、下に向かう下行結腸、左下の下腹部からSの字のように伸びているS状結腸、大腸の最後の部分である直腸で構成されています。
このような便の通り道にできるがんのことを、大腸がんといいます。良性のポリープががん化する場合と、正常な粘膜から直接がんが発生する場合とがあります。日本人はS状結腸と直腸にできるがんが多いといわれています。
大腸の内側にある粘膜にがんができると、外側にある漿膜に向かってどんどん深く侵入していきます。最終的には大腸の壁を貫いて、がん細胞がお腹の中にばら撒かれる(播種)か、あるいは、大腸の壁の中のリンパ液や血液の流れに乗って、転移を起こす可能性が出てきます。
転移のパターンは、大きく分けて次の3種類があります。
本記事では、この中でも大腸がんのステージIVにあたる、“腹膜播種”と呼ばれる転移のパターンについてご説明します。
“種を撒く”と書いて“播種”といいます。がんが大腸壁の外側に広がると、がん細胞がおなかの中にこぼれて、腹膜に転移します。
大腸がんが見つかった時点ですでに腹膜に転移している場合は同時性、腹膜に転移していることが大腸がんを切除した後で明らかになった場合(再発)は異時性と分類され、転移の頻度は同時性か異時性かで異なります。
同時性の腹膜播種の発症頻度は、『大腸癌治療ガイドライン2019年版』によると約4.5%で、肝転移(10.9%)に次いで2番目に多いとされています。
異時性の腹膜播種の発症頻度に関しては、正確な数値がこれまで明記されていませんでしたが、『大腸癌治療ガイドライン2019年版』で初めて約2.0%と明記されました。患者さんが少なく診断の難しい状態であることに変わりありませんが、近年、ようやく注目されるようになったのだと解釈できます。
初期の段階では、がん細胞がお腹の中にばら撒かれても、目に見えない程度の大きさです。時間が経つにつれて徐々に大きくなっていき、ゴマくらいの大きさから、ゴルフボールくらいの大きさのしこりへと成長します。それ以上の大きさになる場合もあります。
大腸がんの腹膜播種における代表的な症状は、腹水の出現と腸閉塞です。
腹水とは、栄養を含む体液がお腹の中にたまってしまったものを指します。お腹の中には元々、体液が少量存在していますが、腹膜播種のがん細胞が腹水を作り出し、蓄積されていきます。腹水がたまると、お腹が張って苦しさを感じること(腹部膨満感)、食事がうまく取れなくなることなどが症状として出てきます。
また、腹水は体にとって大切な栄養分を含みます。腹水を除去する治療を行うと一時的に症状が改善しますが、体から栄養が失われて、栄養状態は悪くなってきます。
お腹の中にばら撒かれたがん細胞が育って大きくなっていくと、大腸を外から押してふさいでしまうため、排便、排ガスが難しくなります。これがいわゆる腸閉塞です。消化物がたまると食事をうまく取れなくなったり、嘔吐したりすることがあります。
大腸がんの腹膜播種があると、抗がん剤治療もしくは緩和医療へ移行することが一般的です。しかし、『大腸がんの腹膜播種に対する治療——腹膜切除と術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)について』でも述べているように、大腸がんの腹膜播種は切除することで治癒し得る方もみられます。全ての患者さんに対してではありませんが、欧米では積極的に切除するのが主流です。日本でも、播種の程度が軽い患者さんなど、条件に当てはまれば切除する方針へと変わりつつあります。諦めずにセカンドオピニオンを受診しましょう。
国立国際医療研究センター病院 外科
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