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心室頻拍に対する治療の進歩――カテーテルアブレーション適応の可能性

心室頻拍に対する治療の進歩――カテーテルアブレーション適応の可能性
北井 敬之 先生

医療法人札幌ハートセンター札幌心臓血管クリニック 循環器内科

北井 敬之 先生

目次
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心室頻拍は、不整脈が続く時間や不整脈の現れている場所によっていくつかのタイプに分類されます。そのうち異常な電気信号の現れている場所が定まっているタイプの心室頻拍に対しては、薬物療法、ICD(植込み型除細動器)のほか、カテーテルアブレーションが有効であるといいます。重篤な不整脈の1つである心室頻拍の治療の進歩とその可能性について、札幌心臓血管クリニック 循環器内科の北井 敬之(きたい たかゆき)先生にお話しいただきました。

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写真:PIXTA

心室頻拍は心臓の心室という部分から起こる頻脈性不整脈の一種で、心拍数が1分あたり100回を上回った状態です。中には心室が無秩序に収縮する心室細動をきたし、最悪の場合は死亡する可能性もあります。

発症すると失神や意識の消失がみられるほか、一般的な症状としては動悸、胸の不快感、脱力感、ふらつきなどがあります。ただし、症状の現れ方は頻拍の持続時間や心拍数、血圧の数値などによって異なります。たとえば、通常血圧120前後の方が80程度まで低下し失神してしまうようなケースもあれば、血圧はやや下がる程度で意識も保たれており、動悸や胸の不快感を訴えて病院を受診するケースもあります。いずれの場合も、症状が出た段階では心室頻拍と判断することはできません。

また、心室頻拍と診断できた場合も、基礎疾患による心機能低下や血圧低下などから循環器内科医でも対応が難しい場合もあり、全ての循環器を標榜する医療機関で対応できるわけではないというのが現状です。

心室頻拍は、その病態によって“単形性”と“多形性”、頻脈の持続時間によって“持続性”“非持続性”にそれぞれ分かれます。

単形性心室頻拍と多形性心室頻拍

単形性心室頻拍は、心室の同じ場所から規則的に不整脈が出ている、または心室内を規則的に旋回する電気回路が生じて一定のタイミングで不整脈が出ているタイプの心室頻拍です。一方、多形性心室頻拍は心室内の複数箇所から異常な電気刺激が出ているタイプで、心室細動に近い状態です。また、電解質異常や心不全などと関連することが多く、単形性心室頻拍に比べて重症例が多い傾向にあります。

持続性心室頻拍と非持続性心室頻拍

持続性心室頻拍は、30秒以上継続して頻脈が起こるタイプを指します。これに対して非持続性心室頻拍とは、発作が起こってから30秒未満に自然消失するタイプです。持続性心室頻拍では血圧低下や倦怠感などの症状が起こりやすく、失神や突然死に至るリスクもあります。

心室頻拍は、明確な原因となる病気があるタイプと、原因不明で突然起こるタイプがあります。明確な原因となる病気があるタイプの心室頻拍は、心筋梗塞(しんきんこうそく)心筋症QT延長症候群などの心疾患が背景にあることが多いとされています。そのほか、心筋の特定の場所に異常な興奮が起こる細胞を持っていて、その細胞が自動的に興奮してしまい頻拍が起こるようなタイプの方もいます。

原因不明で発症するタイプの場合、最初の発作で突然死してしまった方を除くと、原因を伴うタイプに比べて死亡リスクが低いとされています。

心室頻拍の治療が適応となるのは、心機能が悪く、今後心室頻拍をきたすリスクがある方(1次予防治療)と、過去に心室頻拍を起こしており、今後心室頻拍を起こさないようにする必要がある方(2次予防治療)です。

一般的には、次の発作を起こしづらくするための薬物療法、カテーテルアブレーション、起こった発作を止めるICDなどの治療を組み合わせて行います。どういった治療法が適応になるかは症状の現れ方に応じて異なります。たとえば、心拍数が正常よりやや多い程度でも血圧が著しく下がっている方はICDやカテーテルアブレーションなどによる治療が必要です。一方で、心拍数が著しく増加していても、そのほかの症状がなければ薬物療法で様子を見るケースもあります。

薬物療法

アミオダロン塩酸塩などの抗不整脈薬を内服することで、不整脈の発生を防ぎます。薬物療法は不整脈の基本的な治療方法であり、病態に応じた薬を処方しますが、薬によっては長期間の服用による副作用として間質性肺疾患などの発症リスクが懸念されます。また、抗不整脈薬は根治療法ではないため、長期的な服用が必要な方は、ほかの治療方法が適応できるかを併せて検討することが重要です。

ICD

PIXTA
ICDのイメージ(イラスト:PIXTA)

心室頻拍や心室細動が起こったとき、自動的に不整脈を感知し、脈拍を正常化させるために電気ショックを与える機械を体内に埋め込むことで、失神や突然死を防ぐ治療です。もともと心機能が悪いような場合に有用な方法とされます。ただし、非常に重篤な発作が起こり血行動態の破綻をきたした場合や心室細動に移行した場合は、ICDが正常に作動しても失神してしまう可能性があります。

カテーテルアブレーション

medick
カテーテルアブレーションのイメージ(イラスト:medick)

カテーテルアブレーションは、異常な電気信号の現れている場所を焼灼(しょうしゃく)することで異常を抑える治療法です。心房細動など、ほかの不整脈に対する治療としても用いられているカテーテルアブレーションは、異常な電気信号の現れている場所が定まっている単形性の心室頻拍に対しても適応される治療法です。実際には患者さんの容体や希望を考慮して適応が決定されますが、心室頻拍に対する有用な治療手段の1つといえるでしょう。

当院は、心室頻拍に対するカテーテルアブレーションを積極的に行っており、北海道地域の患者さんを救うために尽力しています。具体的な治療の特徴については、こちらのページをご覧ください。

カテーテルアブレーションによる心室頻拍の治療には課題もあります。アブレーションを行うにあたっては、不整脈の回路を特定するため、意図的に一度不整脈を起こさせる必要があります。すなわち、もともと心室頻拍を起こして心機能が悪くなっている患者さんの心機能を、また悪い状態にしてしまうということになりますから、心臓へのダメージが懸念されます。

このような課題を解決するために、現在、高精度3D*マッピングシステムなどを用いて正常な脈の状態から不整脈の回路を予想する方法が行われています。あらかじめ焼灼するポイントが押さえられていれば、カテーテルアブレーションにかかる時間を短縮するとともに、できる限り患者さんの心臓へかかるダメージを減らしながら治療を行うことが期待できます。

心室頻拍に対して、より安全なカテーテルアブレーションが実施できる未来を目指し、北海道のみならず、全国的に取り組みが進められています。

*3Dマッピングシステム:心臓の3D画像を作成し、病変部を特定する装置

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