周産期心筋症の診断基準は
の3つに当てはまることです。そのため、検査としてはまず、心臓超音波検査(心エコー検査)や胸部のレントゲン撮影を行い、心臓の機能低下について詳しく調べます。
また、心不全になると血中のBNPと呼ばれるホルモンの値が高くなります。そのため、血液検査を行い、BNPの値を測ります。
周産期心筋症の症状は、一般的な心筋症と同様です(周産期心筋症の詳しい症状については、記事1『周産期心筋症とは 原因・症状について詳しく解説』をご参照ください)。そのため、治療も心不全に対する処置を行います。妊娠中に周産期心筋症を発症した場合は、分娩後に治療を行うケースが一般的です。
心不全の症状を和らげ、進行を抑えるための治療としては、ACE阻害薬やARBといった薬を使用します。また、心臓の負担を軽くするβ遮断薬という薬や、心機能低下に伴い発生した腎臓機能の低下によって、体のなかに溜まった水分を排出するために、利尿薬を使用することもあります。
薬物治療だけでは症状の改善が不十分な場合、経皮的心肺補助装置(PCPS)といった機械を用いて治療を行います。経皮的心肺補助装置は、血液内の酸素の量を増加させ、全身へ送る補助をする装置です。
病院を退院した後も、心臓の働きが元通りになるまでには、一定の期間が必要であり、周産期心筋症の治療をされた日本の患者さんの6割から7割は、1年以内に心臓の働きがもとに戻っています。しかし、頻度はまれですが死亡するケースもあります。予後をよくするためには、早期発見と治療が大切です。
過労や睡眠不足などを避け、身体的・精神的なストレスを溜めないように心がけてください。
そして、軽い運動での息切れや、咳、急激な体重の増加といった症状が悪化していると感じた場合は、早急に医療機関を受診しましょう。
そして、心臓の機能が回復しないうちの妊娠は非常にリスクが高くなります。きちんと避妊を行いましょう。周産期心筋症の既往歴のある患者さんの妊娠については以下でご説明します。
周産期心筋症の既往歴(過去の病歴)のある患者さんが、再び妊娠をされたときのリスクは、心機能がどこまで回復したかに深く関係しています。
周産期心筋症は再現性のある疾患のため、心機能が回復した患者さんの場合でも、再度妊娠された方のなかの3割は、再び周産期心筋症を発症すると報告されています。一方、心機能が十分回復していないまま次の妊娠をした方では、5割が再発し、早産や心不全の重症化、最悪の場合、死亡するというケースもありました。
上記のような危険性があるため、周産期心筋症を患ったことのある方は、必ず次の妊娠をする前に、医師に相談して検査を受け、心機能が回復していることを確認してください。その際に重要なことは、妊娠後ではなく、妊娠をする前に検査を受けるという点です。
妊娠に伴う心臓の動きの変化は、妊娠直後から始まっています。そのため、妊娠がわかってから病院に行っても、その患者さんの心臓がどれほど回復した状態であったのかは、既にわからない状態になっています。ですので、そろそろ次の妊娠をしたいと考えた時点で、検査を受ける必要があるのです。
周産期心筋症発症以降の分娩を安全に行うためには、前回周産期心筋症を患ったときの症状や心臓の経過情報が非常に重要となります。そのため、病院で前回の経過を詳細に記録してもらっておくことが大切です。
周産期心筋症に関して、2017年現在は以下のような研究が行われています。
周産期心筋症の発生には、プロラクチンというホルモンが関係していると考えられます(周産期心筋症の原因についての詳しい説明は、記事1『周産期心筋症とは 原因・症状について詳しく解説』をご参照ください)。そこで、プロラクチンの発生を抑える薬を使用した、抗プロラクチン療法の大規模な研究がヨーロッパで行われています。
また、日本でも少しずつですが、抗プロラクチン療法の症例の集積が進められています。しかし、目覚ましい効果がまだみられていません。そのため、ヨーロッパで行われている大規模な研究ではどのような結果が出るのかが期待されています。
現在の妊婦健診では、心臓の検査は、何か症状が発生しない限り行いません。しかし、拡張型心筋症の原因遺伝子を保有している方や、妊娠高血圧症候群の方など、周産期心筋症になりやすい素因を持った方を対象に、妊娠中から心エコーの検査をし、心機能の変化を観察するという研究が行われています。
検査をすることで、周産期心筋症の発症をある程度予測することが可能です。そして、妊娠中から既に心機能に異変が起こっている妊婦さんは、循環器内科の専門医がいる病院で出産する選択ができるなど、発症したにしっかりとした対応が可能となるのです。
周産期心筋症を患ってから、心臓を元の状態まで治すためには、一定の期間が必要となります。その間は、通院が必要な状態ですし、身体だけではなく、精神的な負担もかかるため、治療するためには家族でサポートすることも大切です。
また、次の妊娠を望む場合、心臓の回復状態を把握せずに闇雲に妊娠してしまうことは非常に危険です。妊娠をしたいと考えた時点で医療機関を受診し、医師と相談をしながら妊娠の準備をしてください。
国立循環器病研究センター病院 周産期・婦人科部 部長
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