概要
爪甲剥離症とは、従来下の皮膚と付着しているはずの爪が先端から剥がれ、浮き始めてしまうことをいいます。特に女性に多くみられることが特徴です。
爪が付着している部分の皮膚を“爪床”、爪床の上に付着している部分の爪を“爪甲”といい、通常両者は強く付着しているため、剥がれることはほとんどありません。しかし、爪甲剥離症では爪甲が爪床から剥がれてしまい、剥がれた部分の爪甲は表面から見ると白や黄色に見えることが一般的です。
時には爪床と爪甲の間にゴミやホコリが入って、内部が汚れて見えてしまう場合もあります。このような場合、無理に内部の汚れを取り除こうとすると皮膚に刺激が加わり、さらに悪化する可能性もあるため注意しましょう。
爪甲剥離症では複数の原因が考えられる一方で、検査などを行っても具体的な原因が分からない場合もあります。また症状が現れる爪の本数も1本で済む場合もあれば、複数の爪に生じることもあります。特に手足の複数の爪に変化がある場合には、甲状腺機能亢進症などの全身疾患が疑われますので、速やかに医療機関を受診することが大切です。
原因
爪甲剥離症の多くは、原因の分からない特発性のものです。老化に伴う乾燥症状があり、爪の恒常性が保たれていないことが多いです。一方で甲状腺機能異常や強皮症などの全身疾患、乾癬などの皮膚疾患、不適切なマニキュアなどの使用による慢性の一次刺激接触皮膚炎、カンジダ菌への感染、末梢循環不全などさまざまなことが原因となって、爪甲剥離症が起こることが分かっています。
全身疾患によるもの
爪甲剥離症を引き起こす全身疾患としては、甲状腺機能亢進症が代表的です。
甲状腺機能亢進症とは、甲状腺の機能が活発になることにより甲状腺ホルモンが多く分泌され、食べても痩せてしまう、疲れやすい、眠れないなどの症状が現れる病気です。
時に爪が平たくなったり、反り返ったりすることによって爪甲剥離症が生じます。このような症状を“プランマーズ・ネイル”と呼ぶことがあります。はじめは1本の爪から症状がみられますが、徐々に複数の爪に症状が現れるようになります。
そのほか、強皮症、貧血、甲状腺機能低下症、糖尿病、肺がんなどの肺の病気でも爪甲剥離症を引き起こす場合があります。
皮膚疾患によるもの
爪甲剥離症を引き起こす皮膚疾患としては、強皮症の強指症、乾癬、掌蹠多汗症などが挙げられます。これらの病気では先に皮膚症状などが現れ、診断に至ることが一般的です。
外部からの刺激によるもの
爪と皮膚の間に棘など細いものが刺さることによって起こるものや、マニキュアや除光液、洗剤、有機溶剤、ガソリンなどに触れることによって起こるもの(接触皮膚炎)があります。
感染症によるもの
爪甲剥離症を引き起こす主な感染症として、カンジダ症や爪白癬などが挙げられます。カンジダ症による爪甲剥離症(カンジダ性爪甲剥離症)の場合、剥がれた爪の下の皮膚がカサつくことが特徴です。
光線過敏症によるもの
紫外線を浴びることで症状が現れることがあります。太陽の光が強い5月ごろから夏場に悪化しやすく、冬は軽快しやすいことが特徴です。また、爪の症状だけでなく紅斑などの皮膚の症状も併せて現れる傾向があります。
症状
爪甲剥離症では、爪が先端から剥がれて浮き上がり、剥がれていない部分よりも白く、あるいは黄ばんで見えるようになります。症状が現れる爪の本数は原因によっても異なりますが、手足の複数の爪に症状が現れている場合には、全身疾患が疑われます。
検査・診断
爪甲剥離症には、全身疾患、皮膚疾患、外部からの刺激、感染症などさまざまな原因が存在し、原因に応じた治療を行うことが大切です。そのため丁寧な問診などを行い、何らかの病気が疑われた場合には、疑われた病気に応じた詳しい検査を行うことが一般的です。
たとえば、カンジダ性爪甲剥離症が疑われた場合、剥がれた爪甲をできる限り取り除き、爪床の角質を採取して、カンジダ菌が存在しているかどうかを顕微鏡で観察します。また、検鏡で検出されないこともあるので、真菌培養を行うことも大切です。
治療
全身疾患や皮膚疾患などが原因で生じている爪甲剥離症の場合、原因疾患を治療することで症状が軽快することが一般的です。またカンジダ性爪甲剥離症の場合は、抗真菌薬の飲み薬や塗り薬を使用することが一般的です。その際に、医師はカンジダ菌に有効な薬なのか、水虫菌に有効な薬なのかを、添付文書で確認することが必須です。
原因不明の場合
原因がはっきり分からない爪甲剥離症の場合、ステロイド薬の塗り薬や角質に浸透しやすい保湿剤、末梢循環改善を期待してビタミンE類似のトコフェロールニコチン酸エステルなの飲み薬などによる薬物療法などが検討されることが一般的です。
一般的に原因不明の爪甲剥離症は治りにくい場合も少なくなく、まずはマニキュアなどによるネイルケアと上述の治療を根気強く続けていくことが大切です。
これらの治療をしてもよくならない場合、爪疾患の治療経験の多い皮膚科の医師にセカンドオピニオンを求めるのも大事です。
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