皮膚筋炎・多発性筋炎は膠原病の一種で、皮膚や筋肉に炎症が起こり特有の皮膚症状や筋力低下などが現れる病気です。この病気は特に合併症に注意が必要といわれています。一方で、大阪大学医学部 皮膚科学教室 教授の藤本 学先生は、「この病気の治療は、合併症の管理も含めてここ十数年で大きく変わってきた」とおっしゃいます。
皮膚筋炎・多発性筋炎の治療はどのように変化してきているのでしょうか。本記事では、皮膚筋炎・多発性筋炎の概要と間質性肺疾患といった注意すべき合併症について藤本 学先生に解説していただきます。
皮膚筋炎・多発性筋炎は皮膚や筋肉に炎症が起きる病気で、膠原病*の一種です。代表的な症状としては特有の皮膚症状や筋力の低下が挙げられます。一般的に、皮膚の症状と筋肉の症状の両方がみられるものを皮膚筋炎、筋肉の症状のみのものを多発性筋炎、皮膚の症状だけのものを無筋症性皮膚筋炎と分類します。ただし、一口に多発性筋炎や皮膚筋炎といっても、その中にはいくつかのタイプがあり、新しい分類も提唱されるなど、病気の定義も少しずつ変化しているといえます。
皮膚症状では、まぶたに赤みが出る(ヘリオトロープ疹)、手指の関節の背面(手の甲側)が赤くかさかさとして盛り上がる(ゴットロン丘疹/徴候)といったものが特徴的です。加えて、手指の爪の周りが赤くなる爪囲紅斑も、多くの場合初期から見られます。また、筋力は体の中心に近い大腿(太もも)や上腕(二の腕)などから低下し始めることが多く、座った状態から立ち上がりにくい、腕を肩よりも上に挙げにくいといった症状が現れます。飲み込む力(嚥下機能)や発声に関連する筋力が低下した場合には、むせやすくなったり、発声時にろれつが回りづらくなったりすることもあります。これらの代表的な症状のほか、発熱や関節の痛みを伴う方もいらっしゃいます。皮膚筋炎・多発性筋炎はこうした症状の現れ方に大きな個人差がある点も特徴です。
*膠原病:何らかの原因でさまざまな臓器に炎症が起こる一群の病気の総称。関節リウマチなどが含まれる。
皮膚筋炎・多発性筋炎においては、皮膚や筋肉の症状以外にも合併症の早期発見と治療が非常に重要です。特に間質性肺疾患とがん(悪性腫瘍)は直接生命にかかわる場合もあるため注意が必要となります。
間質性肺疾患は間質性肺炎とも呼ばれ、肺の中にある肺胞という部分の壁(間質)に炎症や損傷が起きる病気です。進行すると呼吸機能の低下をもたらします。具体的な症状としてはたんの絡まない咳(空咳)が続いたり、日常生活程度の動作での息切れ(労作時呼吸困難)などが現れたりします。基本的に最初は無症状ですが、症状がないからといって油断はできません。特に、急速に進行するような間質性肺疾患の場合には、数週間から数か月のうちに急激に呼吸器の症状が悪化するため、初期段階でしっかり治療を行うことが極めて重要です。特に無筋症性皮膚筋炎の方は、急速に進行する間質性肺疾患を合併するリスクが高いとされています。
がんなどの悪性腫瘍は皮膚筋炎で合併しやすく、皮膚筋炎を発症したときに同時に発見されることが多いですが、タイミングが少しずれて出てくることもあります。そのため、皮膚筋炎・多発性筋炎の発症から1、2年程度は悪性腫瘍が発生していないか、気をつけて経過を診る必要があります。
近年では、自己抗体*を検査することで、皮膚筋炎や多発性筋炎がどのようなタイプかということがある程度予測できます。つまり、どのような症状が出てどのような経過となりそうかといったことや、間質性肺疾患や悪性腫瘍を合併する可能性が高いかどうかといったことなどが自己抗体検査の結果によって予測できるのです。そのため、皮膚筋炎・多発性筋炎と診断された場合には早い段階で自己抗体を検査し、どの自己抗体が出ているかを判定します。
仮に急速に進行する間質性肺疾患を合併する可能性が高い自己抗体が検出された際には、すぐに間質性肺疾患の検査を実施し、間質性肺疾患の早期発見と適切な治療介入を目指します。また、そのときには間質性肺疾患が見つからない場合でも、定期的な通院のなかで間質性肺疾患を発症していないかどうかを注意深く観察するようにします。
このような点において、皮膚筋炎・多発性筋炎や合併症の治療は十数年で大きく進歩しました。そして、合併症の早期発見の可能性が高まることで、予後の改善につながるのではないかと考えられています。
*自己抗体:特定の成分に反応して攻撃をする分子を抗体と呼び、自己抗体は自身の体の特定の成分に反応する。本来は自分の体の成分に攻撃をする自己抗体は作られないが、一部の膠原病を含む自己免疫疾患では自己抗体が現れる。
一般的に、皮膚筋炎・多発性筋炎治療の第一選択はステロイド薬の内服で、これにより炎症や免疫機能を抑えます。また、重症の場合にはステロイドパルス療法といって大量のステロイドを点滴する治療などが選択されることもあります。治療の効果が見られたら、徐々にステロイドを減量していきます。ステロイドだけでは治療効果が不十分だと判断された場合やステロイドの減量によって再度症状が出てきてしまう場合、ステロイドの副作用が問題となる場合には、免疫抑制薬を用います。ステロイドは長期間にわたって多量の服用をすると、さまざまな副作用を引き起こす可能性があるので、最近では、比較的早い段階から免疫抑制薬を併用し、ステロイドの使用量を可能な限り減らそうという方向性になりつつあります。
2020年10月現在、間質性肺疾患を合併した場合の治療の柱はステロイド薬と免疫抑制薬です。間質性肺炎の緊急性(進行スピード)によってどれだけ早いタイミングで免疫抑制薬を併用した治療を開始するかという点が主な論点となります。急性間質性肺疾患の場合にはこうした治療で一度抑え込むことができれば、それ以上進行しないことも多いですが、慢性間質性肺疾患の場合には急性と比較して進行が緩やかな反面、現時点では完全に治すことが難しく、治療の主な目的は間質性肺疾患の進行を抑え呼吸機能を保つこととなります。
筋力低下の面においては、安静にしすぎていると筋力がかえって落ちてしまいます。そのため、初期の症状が抑えられた際には、ある程度の活動量を保ち筋力の維持に努めることも大切です。皮膚症状に関して、紫外線が悪化の原因になるといわれていますが、日本人の場合には白人ほど大きな影響を与えないという意見もあります。いずれにせよ、日常生活での外出程度の紫外線にあまり神経質になりすぎる必要はありませんが、不用意に強い紫外線を長時間浴びないよう気を配りましょう。
また、急性間質性肺疾患を合併していた場合、治療によって一度間質性肺疾患の進行が落ち着いても再発する可能性があります。しかし、定期的に通院していれば早期発見が可能となるため、深刻な状態は回避しやすいといえます。そのため、治療薬の服用や通院を自己判断で止めないようにしてください。
皮膚筋炎の初期に起こり得るまぶたの赤みや肌のかゆみといった皮膚症状は、皮膚科の日常診療の中でよく見られる病気、たとえば湿疹などとよく似ています。そのため、皮膚筋炎に特有の症状が出ていない場合には、初見で皮膚筋炎の可能性に気付かれない場合も多々あります。患者さんも、全身の倦怠感や立ち上がりにくさなどの皮膚筋炎で起こり得る症状を感じていたとしても、皮膚症状との関連があるとは思わないため、皮膚以外の体の変化を皮膚科の医師に伝える方はほとんどいません。こうした理由から、診断がつくまでに時間を要してしまうケースがあるのが現状です。
皮膚筋炎・多発性筋炎を早期発見するために、皮膚を含め自身の体調変化にいち早く気付くことは非常に重要です。また、皮膚の症状と体調の変化は関係がないと決めつけず、自身で気が付いた体の変化があれば医師に伝えてみてください。
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(編),自己免疫疾患に関する調査研究班(編)『多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン(2020 年暫定版)』,2020.
公益財団法人 難病医学研究財団 『難病情報センター』(https://www.nanbyou.or.jp)
大阪大学大学院 医学系研究科 皮膚科学 教授
藤本 学 先生の所属医療機関
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