「悪性脳腫瘍」と聞くと、生存率や予後がよくないものとイメージされる方もいるでしょう。しかし、診断や治療技術の進歩により、悪性リンパ腫や子どものがん(胚細胞腫や髄芽腫)は、打つ手のない不治の病ではなくなりました。また、代表的な悪性脳腫瘍である「グリオーマ」についても、正確なグレードの診断方法と、進行度に応じた治療が確立されつつあります。グリオーマをはじめとする悪性脳腫瘍の最新治療について、藤田医科大学 医学部 脳神経外科の主任教授・廣瀬雄一先生にお伺いしました。
悪性脳腫瘍のなかでも代表的なものには、「グリオーマ(神経膠腫・しんけいこうしゅ)」があります。グリオーマとは脳神経細胞を支持するグリア細胞(神経膠細胞)から発生する腫瘍で、全脳腫瘍のうち約25~30%を占めています。このほか、転移性の脳腫瘍を除いた原発性の悪性脳腫瘍の代表には、以下のものが挙げられます。
悪性脳腫瘍の確定診断のためには、細胞のかたまりを採取して、顕微鏡などで調べる「組織診断(生検)」が最も大切な検査となります。
MRI検査が向上した現代においても、画像所見のみでは、術前にその疾患を100%の確率で特定することはできません。ですから、“この部位に何mm程度のがんがある可能性が疑われる”といったように、画像検査によっておおよその推測ができたとしても、組織診断は必ず行います。とりわけ悪性リンパ腫と胚細胞腫には組織診断が有効です。
悪性リンパ腫に関しては、術前には生検しか行わず、手術中に病変組織を採取して、即座に調べる「術中迅速病理診断」を行います。術中迅速病理診断では、腫瘍の性状だけでなく、取り残しや転移の有無まで診断することができます。診断がついた後は、薬物療法と放射線治療で治癒(寛解)を目指します。
※悪性リンパ腫は、薬剤の効き目(感受性)が高い腫瘍ですが、これら2つの治療効果が見られない場合に限り、造血幹細胞移植を行うこともあります。
小児の胚細胞腫は、薬剤を用いた化学療法により治癒(寛解)することがあります。胚細胞腫も薬の感受性が高く、手術を行わないことも多々あります。なお、胚細胞腫の発症頻度は低く、ややマイナーな悪性脳腫瘍といえます。
髄芽腫は、小児に発生しやすい代表的な悪性脳腫瘍です。よく知られた疾患ですが、近年では、原因はわかっていないものの、症例数は減りつつあります。
髄芽腫の治療は、手術で腫瘍を可能な限り切除した後、残ったがん細胞に放射線を照射するというもので、この方法は昔から変わっていません。放射線治療では、がん細胞の増殖を抑えたり、がん細胞を殺傷することができます。
近年では、顕微鏡下の手術が発達したため腫瘍の摘出率が上がり、治療成績も向上をみせています。
過去には髄芽腫の5年生存率は50%未満でしたが、上記のような治療技術の発達により、現在では50%を超え、多くの方が長生きされるようになっています。かつて、悪性脳腫瘍は「不治の病」として扱われていましたが、悪性リンパ腫・胚細胞腫・髄芽腫の治療成績が向上していることからもわかるように、本当に治せないものはごく一部に限られてきているのです。
ここまでに3種の悪性脳腫瘍の治療の進歩についてお話してきましたが、グリア細胞から発生するグリオーマはとりわけ難しい腫瘍であり、診断や治療にも課題が残ります。
【グリオーマの治療に関する課題】
臨床上重要なグリオーマは大きく、星細胞腫(アストロサイトーマ)と乏突起膠腫(ぼうとっきこうしゅ/オリゴデンドログリオーマ)、上衣腫にわけられます。ただし、上衣腫は非常にマイナーな腫瘍ですので、グリオーマといえば星細胞腫と乏突起膠腫の2つと捉えていただいてよいかと考えます。
膠芽腫とは、最も悪性度の高いグレード4のグリオーマのことで、過去から現在に至るまで、残念ながら大きな治療成績の向上はみられません。
2000年代に入り、数十年ぶりに新たな薬剤が認可されました。しかし、これを用いても生命予後はわずか数か月しか延長していません。現在行われている膠芽腫の治療は、手術で病変部位をとれる限り切除し、化学療法と放射線治療を組み合わせてがん細胞の増殖を防ぐというものです。
最近では、がん細胞の増殖や転移に関係する分子を標的とする薬剤を用いた、「分子標的治療」を併せて行うことも増えています。しかしながら、やれることをすべて行っていても膠芽腫の克服は難しく、今後も引き続き検討していかねばならない大きな課題といえます。
グリオーマの悪性度は、グレード1から4にわけられます。このうち、グレード1の腫瘍は病変を切除するだけで容易に治癒(寛解)するため、切り離して考える必要があります。前項で述べた膠芽腫のように、悪性度の高いグレード4のものも同様です。
このような理由から、本項ではグレード2、3のグリオーマに焦点をあて、診断と治療について記していきます。グレード2、3のグリオーマとは、すなわち星細胞腫(アストロサイトーマ)と乏突起膠腫(オリゴデンドログリオーマ)のことです。
ここで問題となるのは、グレードの高さと腫瘍の種類の診断です。
星細胞腫と乏突起膠腫は、グレードによりその名称も異なるものとなり、治療方針も変わります。また、二つのがん細胞が混在した「混合性腫瘍」というグリオーマも存在します。
これまでは病変組織を顕微鏡で調べる病理診断が、最終的な診断とされていました。
しかし、たとえ技術と経験に富んだベテランの医師が診断したとしても、臨床経過(症状や検査結果の変化などのこと)をみていくと、病理診断と実際の種類・グレードが100%一致することはなく、かねてより問題となっていました。噛み砕いていえば、グリオーマは見た目だけでは診断をつけられないということです。
そこで、現在先進諸国で行われ始めているのが、遺伝子解析です。
遺伝子の異常、特性をみることで、腫瘍の情報が正確にわかるようになり、適切な治療計画が立てられるようになったのです。しかしながら、日本においてはグリオーマの遺伝子診断に関し、大きな課題が存在します。次の記事では、遺伝子学的な特性に基づく、グリオーマの多角的な治療について、詳しくお話しします。
藤田医科大学 医学部脳神経外科 主任教授
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