糖尿病などの基礎疾患がある患者さんは、傷が慢性化しやすくなります。足の慢性的な傷とは何かについては別記事「足を切断しないために」で、またその検査については「『足の慢性的な傷』の検査」で詳しく説明しました。では、こうした傷の治療では、どのようなことを行うのでしょうか。「足の慢性的な傷の治療」を専門とされる日本赤十字社医療センター・創傷ケアセンター長の日吉徹先生にお話をお伺いしました。
足の傷の治療法は、足の血流が良い場合と悪い場合の2つに分けられます。血流が悪い場合には、まず血流を改善する治療を行います。
足の血流が良い場合には、「デブリードマン」という施術を行い、汚い組織を取り除きます。デブリードマンは壊死組織を取り除き肉芽形成を促すほかに、あえて出血をさせて血液(血小板)に含まれる成長因子を引き出す効果があります。つまり、「慢性」の状態を「急性」に変え、早期治癒を促すのです。
例えば直径2cmほどの潰瘍が足にできている場合、周りの硬くなった角質と真ん中の汚い組織をハサミで取り除き、平らに綺麗にします。傷口部分が外部と当たらないように除圧する(体重がかからないようにする)と、おおよそ1か月程度で治ります。
技術的な問題などでデブリードマンができない場合には、汚い部分を溶かす軟膏を用いる方法や、虫に食べさせるような方法が取られることもあります。また、感染症を起こしている場合には抗生物質が投与されます。
血流が悪い場合は、外科的にバイパス術を行って血管をつないだり、カテーテルによる血管拡張術を行うことによって、まず血流を良くすることを目指す治療を行います。血流が良くなったら、前項で述べた「デブリードマン」を行い、早期の治癒を促します。この際、SPP(別記事参照)が40以上で血流が良くなったという目安になります。
慢性の足の傷は、正しく治療をすれば3か月で症例の7割程度が治るとされています。ただし、治療開始から1か月で半分以上治らない傷は完治しないとも言われています。例えば「4週間で傷の53%以上が縮小しない症例では、12週間で治るのは症例全体の9%にすぎない」というデータもあります。このように、足の創傷治療は、初めの1か月でおおよその目処がつくとされています。
慢性的な足の傷は、一度治っても基礎疾患(足の傷の原因となっている病気)の影響で再発しやすいです。足に治療が必要な患者さんは3年で55%再発してしまうと言われています。また、糖尿病の患者さんの中でも、透析の患者さんは動脈硬化がひどい場合が多く、深刻化しやすい上に再発もしやすくなります。1度足に傷ができたことのある患者さんは、治ったと思っても安心せず、普段からよく自分の足を見ておくことが大切です。
血流障害がもとで傷が慢性化してしまうので、予防として血流改善を行うために、抗血小板作用がある薬(シロスタゾールやリマプラストなど)を内服することがあります。ただ、血流が改善すれば足の潰瘍が起きないと捉えられがちですが、全ての足の潰瘍が血流障害から起きているわけではないので、その点には注意が必要です。さらに、傷を作らないために日頃からの下記のような注意が必要です。
記事1:足を切断しないために―「慢性的な傷」って? 注意点は?
記事2:「足の慢性的な傷」の検査―どんな種類があるの?
記事3:「足の慢性的な傷」の治療―治療法と再発の予防
日本赤十字医療センター 糖尿病内分泌内科 部長
日本赤十字医療センター 糖尿病内分泌内科 部長
日本内科学会 総合内科専門医日本糖尿病学会 糖尿病専門医日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・内分泌代謝科指導医
内分泌・糖尿病科を専門とする一方で、日本で数少ない創傷ケアセンターの一つでセンター長を務める。創傷ケアセンターでは傷が3カ月以上治らない慢性的な状態で、特に足に傷を負った患者さんを対象にしている。しかし、同様の医療機関はまだ広くは普及しておらず、形成外科、皮膚科、循環器科など各診療科で個別に診療しており、横断的に診療できる施設が少ないのも現状である。放っておくと深刻な状態になる足の傷に対して高い専門性を持ち、患者さんの足をなるべく切断しないような治療を行っている。
日吉 徹 先生の所属医療機関
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