
一回発病してしまうと、場合によっては入院も必要であり、長い間薬を飲まなければならない結核。しかし、感染しても症状もなく、発病しないケースも多くあります。結核の予防は、「感染の予防」より「発病の予防」という観点で考えることが大切です。結核の専門家である国立国際医療研究センター病院の高崎仁先生にお話をお伺いしました。
※「国立国際医療研究センター病院」は、 2025年4月より「国立国際医療センター」に名称変更しています。
乳幼児の特徴は、大人に比べて免疫力がとても弱いことです。そのため、結核に感染して発病してしまうと重症になりやすいことが知られています。さらに、肺結核だけでなく、結核による髄膜炎や全身への感染を起こしやすいという特徴があります。そのため、生後1歳未満のうちにBCG接種を行うことが、予防接種法で定められています。
BCGは「生ワクチン」です。これは、実際の結核菌を処理し弱毒化した(弱くしたり無害化した)ものです。そのため、生後すぐの接種は推奨されず、標準接種月齢は生後5ヶ月以上8ヶ月未満とされています。
大人の場合は「子どもの頃にBCGも接種しているし大丈夫だろう」と考えたいところです。しかし、BCGの効果は十数年程度しかもちません。そのため、大人にとってBCGで結核の発病を予防する効果は期待できません。それでは、大人になってもう一度BCG接種を打てばよいのでしょうか。
しかし、成人になってBCGを打った場合の効果は証明されていないため、成人のBCG接種は推奨されていません。BCGは現実的には重症化を防ぐことが目的であるため、重症化しやすい乳幼児に対してこそ価値があるのです。
実際のところ、結核は空気感染(空気中に飛沫となって原因菌が漂流し、感染する)のため、感染を防ぐことは難しいです。たとえばインターネットカフェに一晩泊まり、近くの席の方がずっと咳をしていた場合、それで感染してしまうこともあります。
結核には「感染」と「発病」の2つのステージがあり、この2つの状態は異なります。感染とは、「身体の中に生きた状態の結核菌が定着しているが、まだ身体には変化が起きていない」状態です。正確には「潜在性結核感染(せんざいせいけっかくかんせん)」といいます。発病とは「結核菌が分裂・増殖して身体に変化が起き始めている状態」、つまり「結核菌が実際に体に悪さをしている状況」で、より危険とされます。ただし、感染しても症状が全く出ずに発病しないケースが感染者のうち90%を占めます。
大人の場合は、まず免疫力低下を防ぐことが重要です。つまり、健康な体の維持とそのための栄養・睡眠・運動がポイントになります。一般的な内容ですが、以下のような基本的なことに気をつけましょう。
学校や職場、場合によっては医療機関で集団感染が発生する事例が報告されています。周囲の方の中に結核の患者さんが出たときは、どのように予防をするのでしょうか。
このような場合、症状の精査のほか、様々な検査(ツベルクリン反応、胸部レントゲン、血液検査など)を行います。その結果として、結核菌の検査であるIGRA検査(リンク)で陽性となり結核感染の可能性が高いと判断された場合には、抗結核薬であるイソニアジド(INH)を6ないし9ヶ月間内服し、発病する前に治療してしまいます。このことを「潜在性結核感染症の治療」といいます。
ただ、特別に結核感染のリスクが高い場合にはIGRA検査の結果が陰性、場合によっては検査結果を待たずに予防内服をスタートするケースがあります。これは、結核菌を大量に排出していた方と毎日一緒に仕事をしていたり、一緒に住んでいた場合です。
また、日本では全年齢において治療薬は公費負担となります(感染症法に基づく)。
国立国際医療研究センター 呼吸器内科
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