自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性硬化性胆管炎は、それぞれ障害される部位や治療法、かかりやすい年齢や性別が異なります。しかし、3つの疾患には共通項も多く、そのひとつとして「合併症」が挙げられます。自己免疫性肝疾患に合併しやすい病気にはどのようなものがあるのでしょうか。患者さんへのメッセージと共に、国際医療福祉大学消化器内科教授の銭谷幹男先生にお話しいただきました。
3種全ての自己免疫性肝疾患に共通して、肝臓以外の自己免疫疾患を合併するケースが多々見られます。
原発性胆汁性肝硬変(PBC)と原発性硬化性胆管炎では「胆汁うっ滞」が起こることで非常に強い高脂血症を来すため、医学の世界では高脂血症の合併症である黄色腫症を発症しやすいといわれています。(※黄色腫症とは:皮膚に盛り上がりなどができること)
ただし、黄色腫症はコレステロール値が非常に高くなることで現れる病気であり、日本人は欧米人ほどコレステロール値が高くはないので、臨床的にみるとこの病気を合併する方は欧米に比べて少ないのです。
シェーグレン症候群の症状は、目の渇きや口腔内の渇きなど、涙腺や唾液腺の異常により生じるもので、これら分泌物を分泌する管を「導管」と呼びます。上記の症状から、シェーグレン症候群とは導管に対し免疫失調が起こり、あらゆる分泌臓器がうまく働かなくなるものだと考えられます。肝臓もまた胆汁を分泌する臓器であるために、自己免疫性肝疾患にはシェーグレン症候群を合併しやすいのでしょう。
こういったことを医師に教えてくれるのは患者さんにほかなりません。患者さんの症状により、導管に対し免疫失調が起こっていると医師は仮説を立てることができます。患者さんの病態からここまで読み取ることができれば、免疫学的な突破口を発見できる可能性も高くなります。
ここまで繰り返し述べてきたように、自己免疫性肝疾患のメカニズムを紐解き、治療法を確立するためには、「患者さんの様子(症状、治療効果など)をみる」ことが最も重要です。私は10年以上にわたり、自己免疫性肝炎の患者さんの会で講演を行っていますが、そこで常にお願いしていることは、「血液検査を厭わず積極的に受けてほしい」ということです。
患者さんの血液をみて検討しなければ、病気の実態を解き明かし、根治療法をみつけることはできません。ただし、この際に問題になるのは、採取した末梢血(通常の血液)の状態だけをみても、それが本当に肝臓内の免疫応答を反映しているのかはわからないということです。
肝臓内の免疫応答を調べるには、理想をいえば肝生検で細胞を採取することが一番です。最近では、潰瘍性大腸炎やクローン病など消化管の疾患の解明がめざましく進みました。この理由には、病変が起こっている大腸や胃の生検は比較的簡単にできるということがあります。
しかしながら、肝生検により患者さんの身体や生活にかかる負担は、大腸や胃の生検とは比べものになりません。移植により患者さんから摘出した肝臓をみるという方法もありますが、肝移植を行うほど悪くなってしまった肝臓を調べることは、たとえるならば「大火事の焼け跡をみて火元を探る」ようなもので、原因解明に繋がる可能性が高いとはいえません。しかし、肝臓に炎症が起きた初期の段階で薬の反応などを追うために生検を何度も行うことも、先に述べた理由からできません。ですから、現段階では患者さんに血液検査を受けていただくことが一番よい方法なのです。抹消血をみるということは、病気全体ではなく、病気の頭やしっぽなど、どこか一部だけをみるということですが、私たち医師は断片的な情報を繋ぎ合わせ、病気全体の解明をしていかなければなりません。患者さんからいただいた情報をどのように繋ぎ合わせていくかが、今後の医師の課題といえるでしょう。
国際医療福祉大学大学院 教授、国際医療福祉大学大学院 臨床研究センター 教授、赤坂山王メディカルセンター 院長
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