インタビュー

薬物依存症とはどのような状態?薬物中毒との違いについて

薬物依存症とはどのような状態?薬物中毒との違いについて
松本 俊彦 先生

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 部長、国立研究開発法人 国立...

松本 俊彦 先生

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この記事の最終更新は2015年04月17日です。

テレビのニュースや週刊誌では、覚せい剤で逮捕される芸能人の話が絶えません。危険ドラッグの問題も大きく報道されたので、薬物依存症の話を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。意外と身近に起きている薬物依存症について、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生にお話を伺いました。

何かの薬物を使っていて、その効果が切れると、またその薬物を使いたいという欲求が強く出てきて、我慢できなくなる状態のことです。薬物依存という言い方もあり、基本的には同じことを指しています。

薬物依存症は単にもう一度その薬剤を使いたいという気持ちが強いだけではありません。使うことが自分の生活や人生をダメにしてしまうと分っていても、使うことに抵抗ができないような状態で、頭の中がその薬のことで一杯になってしまいます。
薬がなくなると居ても立ってもいられず、その薬を得るために何でもするようになり、暴力や犯罪、借金などに結びつくこともしばしばあります。

周りの人から見ると、よく嘘をつくようになったり、お金の使い方が荒くなったりして、以前と全く別人になってしまったかのように見えます。自分にも、「もうこれが最後だから」と言い聞かせながら、薬物使用を繰り返してしまい、結局自分に対する嘘をくりかえすことになります。

これは、意志の弱さの問題ではなく、薬物が脳に与える影響によるものです。本人の持っている気質によるところもありますが、薬物が中枢神経に作用して、薬物依存症をつくります。たとえ自分は意志が強く、少し使ったくらいでは依存症にはならない、と思っていても薬物の作用で我慢ができなくなり、依存症に陥ることが多いです。 

薬物中毒というのは毒が体内にあり、その毒の作用で体に異常を来している状態なので、その薬物が身体から消えれば治ります。薬物依存症は、体内からその薬物が消えても欲求が抑えられず、症状がずっと続くところが薬物中毒とは異なります。

薬物中毒は短い間に多量の薬を使用することによって、身体に異常をきたす「急性薬物中毒」と薬を長期にわたって繰り返し使用することで身体に異常をきたす「慢性薬物中毒」があります。いずれも、薬を繰り返し使用したくなる欲求とは関係なく、薬の作用で起きる身体の異常です。急性薬物中毒には、お酒の一気飲みで起きる急性アルコール中毒や睡眠薬の過量服薬で起きる中毒などがあります。慢性薬物中毒としては、ベンゼンやシンナーなど有機溶媒の長期間の吸入で起きる血液の病気(再生不良性貧血など)やお酒の長期にわたる飲み過ぎで起きる肝硬変などが含まれます。

いずれにせよ、薬物中毒は体内に蓄積した薬物の直接的な作用によるもので、薬が切れている間にもずっと症状が潜在しつづける薬物依存症とは異なります。

頭痛薬や咳止め、また医師に処方される睡眠薬などを飲まないと症状が治まらず、毎回飲んでしまうという行為、それ自体は薬物依存症とは言いません。これらは症状があるから薬を飲んでいるのであって、その症状が消失すれば薬を服用しなくなります。つまり、基本的に病気や症状がなくなれば使わなくなるものであり、薬物依存症とは異なります。

ただし、風邪薬などの中には依存性をもつ成分が含まれることもあり、その成分の効果を求めて逸脱的な服用をするようになる人もいます。これは薬物依存症といってよい病態です。また、頭痛薬の飲みすぎが新たな頭痛(鎮痛薬誘発性頭痛)を引き起こし、頭痛薬の不適切な使用となってしまう人もいます。このような方の場合は、薬物依存症とは異なりますが、頭痛外来専門医の指導のもと、鎮痛薬の減量や服用中止を検討した方がよいでしょう。

記事1:自傷行為とは―自傷行為の種類、リストカットをしてしまう心理と原因
記事2:親しい人が自傷行為(リストカット)をしていたら―家族や友人はどう対応すればよい?
記事3:薬物依存症とはどのような状態?薬物中毒との違いについて
記事4:薬物によって依存症の治りにくさは違う?―大麻、ヘロイン、モルヒネ、コカインなど、薬物依存症を引き起こす薬の種類
記事5:薬物依存症の症状―薬物依存症は見た目でも分かる?
記事6:薬物依存症の治療法―家族、友人はどう対応すればよい?

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