インタビュー

頚椎症性脊髄症の手術

頚椎症性脊髄症の手術
國府田 正雄 先生

筑波大学 医学医療系整形外科 准教授

國府田 正雄 先生

目次
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この記事の最終更新は2015年08月19日です。

年齢を重ねると、頚椎にはさまざまな変化が起こります。その変化自体は誰にでも起こり得ることで、特に気にする必要はありません。しかし、頚椎が変化していくと、その近くを通る脊髄に影響を及ぼしさまざまな神経症状を引き起こすことがあります。そのことを「頚椎症性脊髄症」といいます。
頚椎症性脊髄症ではどのように手術を行うのでしょうか。筑波大学医学医療系整形外科 准教授の國府田正雄先生にお話を伺いました。

I.上肢運動機能

0箸又はスプーンのいずれを用いても自力では食事をすることができない。

1スプーンを用いて自力で食事ができるが、箸ではできない。

2不自由ではあるが、箸を用いて食事ができる。

3箸を用いて日常食事をしているが、ぎこちない。

4正常

注1 きき手でない側については、ひもむすび、ボタンかけなどを参考とする。
注2 スプーンは市販品を指し、固定用バンド、特殊なグリップなどを使用しない場合をいう。

II.下肢運動機能

0歩行できない。

1平地でも杖又は支持を必要とする。

2平地では杖又は支持を必要としないが、階段ではこれらを要する。

3平地・階段ともに杖又は支持を必要としないが、ぎこちない。

4正常

注1 平地とは、室内又はよく舗装された平坦な道路を指す。
注2 支持とは、人による介助、手すり、つかまり歩行の支えなどをいう。

これが13点未満かどうか、という点がひとつの目安として用いられています。しかし、あくまで「機能」が問題になります。例えば、細かい筋肉が弱って物が持ちにくいことで、生活に現実的な支障が出る人に関しては、16点程度でも手術をすることがあります。また、仕事の内容によっても不便のある状況であれば手術を行うというのが基本的な考え方です。

基本的な考え方としては「ADL(日常生活動作)の障害と仕事の関連」があります。手の動きが悪いと仕事にならない方は、早い段階で手術治療を行うことがあります。このように、日常生活において必要な機能との関連が重要なのです。ただし、以下に説明しますが、手術によるリスクも考えなくてはいけません。

手術をする方の条件は、以下の通りです。

  • 機能障害がある

 ※MRI画像の異常だけで、症状がない場合には手術をしません。

  • 診断が明らかである

 ※症状があったときにはMRI画像できちんと診断をする必要があります。

  • ADL改善の見込みがありそれを求めている

 ※ある程度の機能障害があっても全く困らない方には手術はしません。高齢者の方にはそのような方も多くいます。

手術を速やかに行う場合は、急性増悪(急に症状が悪くなること)のときです。この場合にはすぐに手術を行います。通常、数ヶ月程度は保存的療法(手術などを行わない治療)にトライする余裕はあります。

また、症状が「手のしびれ」のみである場合は手術を行わないこともあります。しびれは手術をしても治りにくい症状として知られているためです。

基本的な手術の考え方は除圧と固定です。
除圧とは脊髄への圧迫を取り去っていくことをいいます。圧迫が取り去られると神経症状が改善されます。また、固定とは不安定な椎間を安定させることです。この2つにより、頚椎症性脊髄症を治療します。

現在ではこれがもっともポピュラーな手術です。実際の手術としては、「椎弓」という部分を開いていき、脊柱管を広げます。これにより、脊髄の圧迫を取り除いていきます。開いた椎弓には、以下に示す2種類の方法で人工骨または本人の骨(棘突起)(きょくとっき)などを入れます。

  • 縦割(じゅうかつ)式:椎弓の真ん中を開く
  • 片開き式:椎弓の端を開く

筑波大学附属病院では片開き式を行っています。この2つの手術成績にはほとんど差がありませんので、施設によってどちらかが選択されます。

椎弓形成術の特徴

この手術の特徴としては、多椎間において頚椎症性脊髄症が起きているときに対処しやすくなります。例えば、治療において脊椎の4カ所(番号がふられており、C3,C4,C5,C6と言われます)をすべて開く必要があるとき、この手術であれば一度にすべてを開くことができます。つまり、多くの箇所に原因がある方に対して行うとよい手術なのです。
もうひとつ、この手術を選択するのがよいケースは、「発育性脊柱管狭窄症」という生まれつき脊柱管が狭い方による頚椎症性脊髄症のときです。このようなときも、全体を広げた方がいいため、椎弓形成術が選択されます。
また、この手術のメリットとして、手技の面で比較的容易(手術としてそこまで難しくない)という特徴もあります。

椎弓形成術の合併症

どのような手術でも起こる一般的な合併症としては感染・出血などが挙げられますが、それらを除いた代表的な合併症としては以下の2つがあります。

①頸の後ろ側の筋肉が血行障害を起こす
椎弓を切るためには頸の後ろ側の筋肉を切る必要があります。そのため筋肉が痛んだり、頸の痛みやこりが出やすくなります。これらは比較的起こりやすい合併症です。ただし、手術の技術が進歩したことにより、少なくなりつつあります。

②第5頚椎神経の障害
第5頚椎神経は肘の屈曲(くっきょく)(折れ曲がること)と腕の挙上(きょじょう)(持ち上げること)に必要な神経です。これの障害により腕が上がらなくなることが5~10%程度の可能性で起こります。ただし、これは自然回復する場合が大半を占めます。

これもよく行われる手術です。その名の通り、頸の前側から椎体を削る手術です。椎体を削ることにより神経の圧迫を取り除いていきます。圧を取り除いた後、人工骨や金属製のプレートで椎体を固定します。

前方除圧固定術の特徴

1の椎弓形成術の対象とならない患者さんに用いられます。つまり、多椎間の頚椎症性脊髄症ではなく、発育期脊柱管狭窄症でもないときです(特に発育性脊柱管狭窄症の場合は絶対に用いてはならないとされています)。例えば、病変となる頚椎が4ヶ所あった場合を考えましょう。このようにたくさんの病変がある場合には、前から手術をすることは一般的ではありません。

前方除圧固定術
前方除圧固定術

前からのアプローチなので、筋肉を切らなくても良い点がメリットです。気管と頸動脈を経て頚椎にアプローチしていきます。骨棘などを直接削っていくことができ、切る範囲が狭いので出血量も少なくなります。一方で気管や頸動脈などが近くにあるため、先述したように大きな範囲を削ることはできません。

前方除圧固定術の合併症

削り終わった後に「隣接椎間障害」が出ることがあります。これは、手術をした椎間板の隣の椎間板に障害が出る可能性があるということです。気管や食道、頸動脈などの重要な臓器の損傷も起こることがありますが、非常に稀です。気管が手術後に腫れて呼吸器系のトラブルを起こすこともありますが、これも頻度は少ないです。また、声帯における「反回神経麻痺」という症状が一時的に起こり、嗄声(させい)(しわがれ声のこと)になることがありますがこれも基本的には自然回復します。

頚椎症性脊髄症において、これはあまりメジャーではありません。この手術ではまず、椎弓形成と同じように頸の後ろ側から椎弓を開いていきます。それにより神経の圧迫を取り除いていきます。圧を取り除いた後に、下図のようにスクリュー(医療用のねじの一種)を用いて椎体を固定していきます。

後方除圧固定術の特徴

この手術のイメージとしては椎弓形成に加えて、椎体をスクリューで固定するというものです。椎弓形成だけでは対応できない方、つまり椎体が不安定な方にも対応できます。具体的には後彎(こうわん)という普通の頚椎と逆カーブになっている状態の方などが対象になります 

後方除圧固定術後
後方除圧固定術後

後方除圧固定術の合併症

基本的には椎弓形成術と同じです。しかし、筋肉を切る量は多くなるため筋肉痛が出る頻度が高くなり、感染や出血も起こりやすくなります。

施設によって異なりますが、概ね50%程度症状が良くなるとされています。改善率は、前述したJOAスコアの改善率という方法で計算します。その中でも軽症の方のほうが改善しやすい傾向にあります。また、症状が完全に良くなるわけではなく、症状の悪化防止という面もあります。

放っておいてしまい、症状が重くなってしまった方が改善率は悪くなり、軽症のうちに治療をしてしまった方が治りが良いというデータもあります。しかし、軽症のときには今ある症状と合併症を天秤にかけていく必要があります。椎弓形成術などでは合併症の筋肉痛リスクもあり、難しいところではあります。

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