「頭部を強く打つ」というと、恐ろしいことのように感じますが、多くの場合は深刻な問題にはならないでしょう。軽症の脳震盪(のうしんとう)を起こすことはあるにしても、頭蓋内の出血や頭蓋骨にヒビが入るなどといった重傷を伴うことは滅多にありません。
頭部を打ったとき、医師はCT検査の施行を検討するでしょう。CT検査では多量のX線を照射することで、脳の3次元画像を作り出します。子どもがちょっと頭を打った、ちょっとした怪我をした際にはCT検査が必要ないこともあります。以下にその理由を示します。
頭を打ったり、頭を怪我して救急外来にやってきた子どもの約半数がCT検査を受けますが、そのうち三分の一にはCT検査の必要がありません。医師は子どもの診察を行い、受傷の状況や症状の詳しい問診を行ってから、CT検査を行うかどうか判断するべきです。
軽度の脳震盪が疑われる場合、まずCT検査で異常は見つからず検査はあまり役に立たないでしょう。
CT検査が有用なのは、頭蓋骨骨折や頭蓋内の出血などが起こっている場合です。脳震盪は頭蓋内の出血によって引き起こされるものではありません。
CT検査では放射線が使用されているため、がん発症のリスクを高める可能性があります。子ども、特に乳幼児は脳神経が成長の途中なので、一層危険性が高まります。また、不必要なCT検査を行うと、その後さらに不必要な検査や治療が行われることに繋がりかねず、それらも有害となることがあるのです。
頭部CT検査の費用は500~900ドル(日本円で約6万円〜11万円)で、費用はまちまちです。CT検査が果たして本当に必要なのか、費用を支払う前に尋ねてみるのも良いでしょう。
子どもが意識を失ったり、頭痛が治まらなかったり、混乱やふらつき、吐き気を訴える場合、すぐに医師の診察を受けましょう。こういった症状は受傷の数時間後や数日後に起こることもあります。
医師がCT検査をすべきなのは、お子さんに頭蓋骨の骨折や頭蓋内に出血が疑われる場合です。医師は以下に記した受傷の状況や症状がないかどうか問診し、目の周囲が黒く“パンダの目”のようになっていないか、出血がないかといった頭蓋骨骨折の兆候を診察で明らかにするでしょう。
・自動車事故にあった
・1メートル以上の高さから地面に落下した
・5段以上ある階段の上から落下した
・自転車から落下した際、ヘルメットを着用してなかった
・意識が無くなった
・ちくちくした痛みが体の片側に見られる
・ふらつきやバランス感覚に異常がある
・目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなった
・頭痛が段々酷くなっている
・すぐに眠ってしまう(傾眠)、怒りっぽくなっている
・すぐにCT検査を行い、治療を開始する必要があります
・医師は放射線の線量を最低限に抑えるでしょう
・CT検査は頭部のみに行われます(首や脊髄の怪我受傷を疑わないとき)
・何度もCT検査を行うのは避けます
●よくお子さんを観察してください
頭の受傷により以下のことが起こり得ます
・記憶、判断力の変化
・頭痛
・光や音に過敏になる
・睡眠、話し方、反応の速さ、バランス感覚の変化
受傷後のケアはどうするのか医師が指示を出してくれますので、しっかりとその指示を理解しましょう。上記の変化が改善しない場合、担当医にもう一度診てもらいましょう。悪化しているようなら、すぐにでも診察を受けましょう。
●すぐ運動を再開したり、すぐに学校に行かせたりしてはいけない
上記の変化により、運動を再開させることはリスクを伴いますし、学校に通うのは難しいでしょう。
脳震盪の後に子供は転倒・転落しやすく、再び頭部に怪我をしてしまう可能性が高まります。特に怪我から10日以内は起こりやすくなります。2度目の脳震盪起こすと危険です。
通常、症状が無くなってから少なくとも1週間はお子さんに運動をさせるべきではありません。少ずつ再開していきましょう。
●頭の受傷を未然に防ぐ
脳震盪を起こしやすいスポーツとしては、アメリカンフットボール、ラグビー、ホッケー、ラクロス、サッカーなどが挙げられます。お子さんにヘルメットを必ず装着させるようにしなければならないのは、自転車、スケートボード、アイススケート、スキー、そり滑り、アメリカンフットボールなどをしている時です。ヘルメットが適切に装着しているか、ヘルメットがへこんだりしていないか確認してください。ヘルメットが傷ついていれば、別のものに交換してください。
※本記事は、徳田安春先生ご監修のもと、米ABIMによる “Choosing Wisely” 記事を翻訳し、一部を日本の読者向けに改稿したものです。
翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム 大阪医科大学医学部医学科 前田広太郎
監修:小林裕貴、徳田安春先生
群星沖縄臨床研修センター センター長 、筑波大学 客員教授、琉球大学 客員教授、獨協大学 特任教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of General and Family Medicine 編集長
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