インタビュー

病気が原因の危険な腰痛とは-腰痛の治し方、ストレッチやヨガは有効?

病気が原因の危険な腰痛とは-腰痛の治し方、ストレッチやヨガは有効?
志賀 隆 先生

国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長

志賀 隆 先生

この記事の最終更新は2016年09月30日です。

日本人の80%以上が生涯に一度は経験するといわれる「腰痛」。その大半は危険性の高いものではありません。しかし、腰痛に発熱や足のしびれなどを伴う場合、がんなどの重大疾患が原因となっていることもあります。

本記事では「危険な腰痛」の見極め方と、急性腰痛を早く治すために心がけたいことについて、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長の志賀隆先生にお話しいただきました。

二足歩行で生活する私たち人間にとって、「腰痛」は切っても切り離せない主訴のひとつであり、そのほとんどは危険性の低いものです。しかし、頻度は稀ではあるものの、背後に圧迫骨折がんなどが潜んでいる「危険な腰痛」も存在します。

特に、(1)発熱(2)直腸膀胱障害(3)サドル麻痺といった症状を伴っている場合は、大きな病気が原因である可能性も考慮し、慎重に検査します。

腰部の激痛に発熱を伴っている場合は、脊椎椎体炎(せきついついたいえん)や脊髄硬膜外瘍(せきずいこうまくがいのうよう)といった、血流感染による病気の可能性があります。

脊椎椎体炎(化膿性脊椎炎)は、細菌感染により椎間板や骨に炎症が起こる疾患で、高齢者に多くみられます。

脊髄硬膜外膿瘍は、脊髄を囲む硬膜の外側に腫瘍ができ、脊髄を圧迫して腰部に痛みを引き起こす病気です。

脊髄硬膜外膿瘍や脊椎椎体炎は、針を用いた医療行為(点滴など)や鍼治療により起こることがあります。これは、針を血管に挿す際に、化膿を引き起こす菌が血中に入り込んでしまうことがあるためです。

また海外では、麻薬を注射針で打つ行為が、上述の病気の原因となっていることもあります。

腰を押さえる男性画像

頻尿や便秘、失禁など、排尿や排便がうまくコントロールできない場合、腰椎椎間板ヘルニア腰椎圧迫骨折の可能性が考えられます。

腰椎椎間板ヘルニアとは、腰の骨(椎体)と骨の間に位置し、クッションの役割を果たしている椎間板が変形して飛び出し、脊髄(神経幹)を圧迫してしまう疾患です。

ヘルニア

 

腰椎圧迫骨折は、骨粗鬆症などにより骨密度が低下し、骨同士がぶつかり合って椎体が潰れてしまう骨折です。頻度は稀ですが、圧迫骨折した椎体が後方へと飛び出してしまい、脊髄の通り道である脊柱管(せきちゅうかん)の中へと侵入してしまうことがあります。

これにより排泄に関わる神経が圧迫され、膀胱直腸障害と呼ばれる様々な症状が生じるのです。

「サドル麻痺」とは、その名の通り、自転車のサドルがあたる部分の麻痺症状を指します。具体的には、足の付け根部分の内側や、陰部・肛門周辺に麻痺が現れます。

サドル麻痺も、巨大なヘルニアや圧迫骨折により、神経が障害されることで生じる症状です。

このほか、腰痛と共に「両足のしびれ」が現れている場合も、巨大な腰椎椎間板ヘルニアや重症度の高い腰椎圧迫骨折の可能性があります。ヘルニアや、圧迫骨折による飛び出しが下肢を動かすための神経に触れている場合、片足のみがしびれることがありますが、両足がしびれる場合はこれらの飛び出しによる圧迫が非常に大きいと考えられます。

また、腰痛に体重減少や全般的な体調不良を伴うときは、がん細胞が腰の骨に転移し、痛みを引き起こしている可能性も考えます。

がんの既往歴があり腰痛が生じた場合も、再発・転移の可能性がゼロではないため、医師にご自身の病歴を話したほうがよいでしょう。

このほか、以下に当てはまる場合も「危険な腰痛」の可能性があります。

  • 転倒や転落、事故などによる外傷歴がある
  • 長期間ステロイド治療を受けている
  • 局所の猛烈な痛みがある
  • 痛みがどんどん強くなっていく(進行性の腰痛)
  • 「楽な姿勢」がなく、どのような姿勢をとっていても腰の痛みが続く
  • 腹痛がある/腹部に触れるとドクンドクンと大きな脈動を感じる(腹部大動脈瘤の可能性)

ただし、これらの症状があり、検査を受けられた方のうち、実際に重大疾患がみつかる方はごくわずかですので、不安視しすぎないようにしましょう。

腰痛は整形外科で専門にみる疾患ですが、休日や夜間などに急激かつ重い腰痛が現れた場合は、救急外来を受診しましょう。“ER型”といわれる診療形態をとっている施設では、重症度に関わらず様々な疾患に対応しています。どの施設を受診すべきか迷った場合は、ER型の救急外来を持つ施設を受診するのがよいでしょう。

関東では、東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市)、湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市)、東京慈恵会医科大学付属病院本院(東京都港区)、東京都立多摩総合医療センター(東京都府中市)などが、ER型の診療を行っています。

腰痛の主要な原因である腰椎椎間板ヘルニアの治療法には、手術と保存療法があります。保存療法とは、NSAIDsと総称される非ステロイド性消炎鎮痛薬や、コルセットなどの装具を用いた治療法です。

腰椎椎間板ヘルニアは、手術を行わず、保存療法を1か月から数か月行うことで改善する場合がほとんどです。

ただし、ヘルニアが非常に大きくサドル麻痺や両足のしびれが出ている場合や、痛みが非常に強い場合、また、早期に社会復帰せねばならない患者さんなどであれば、手術を選択することもあります。

また、膀胱直腸障害がある場合は緊急手術を行うこともあります。

しかしながら、「激痛や神経性の麻痺症状がないヘルニア患者さんに対し早期に手術を行っても、アウトカム(治療効果)がよくなったという科学的根拠はない」という報告もなされています。

また、痛みが6週以上続いている患者さんに対し、手術を行った場合と保存療法を行った場合を比較した論文によると、手術を受けた群のほうが痛みの引きが早く、治療直後には大きな効果が得られたものの、2年後の治療効果には有意な差はなかったとされています。

手術には痛みが早く減るというメリットと共にリスクも存在しますので、整形外科の先生に相談し、しっかりと説明を受けたうえで治療選択することをおすすめします。

(参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=19363457

骨密度は加齢に伴い低下するため、高齢者の中にはくしゃみや咳をした際に圧迫骨折してしまう方もいます。特に、閉経後の女性は骨粗鬆症になりやすいため、ひょんな動作による圧迫骨折のリスクも高まります。

強い痛みにより動けない、痛みが生じたの瞬間のことをつぶさに覚えているほどの激痛が生じたというようであれば、圧迫骨折や大動脈瘤破裂の可能性も考えられるので、早めに病院を受診することをおすすめします。

椎体は真横からみると長方形の形をしています。しかし、重症度の高い圧迫骨折の場合、レントゲンを撮ると長方形が大きくゆがんでいたり、つぶれてしまっていることがあり、手術を要することもあります。最近では、「骨セメント術」(経皮的椎体形成術)と呼ばれる、体への負担が少ない手術を行う施設も増えています。

骨セメント術とは、背中から針を挿入し、医療用の骨セメントを折れた椎体に注入して、圧迫骨折による激しい痛みなどを取り除く手術です。

腰椎圧迫骨折は高齢の方だけでなく、転落や交通事故により若い方にも起こる骨折です。大手術ではない治療法が出てきているということを、ぜひ知識として知っておいていただきたいと考えます。

頻度は稀ですが、小さなお子さんに腰痛症状が現れる疾患の中には、白血病など、重いものもあります。ある論文では、子どもの腰痛のレッドフラッグとして、以下のものを挙げています。

  • 夜間痛(夜に痛みが出てくること)
  • 発熱
  • 排尿・排便障害
  • 4歳未満
  • 尿路感染の症状がある
  • 怪我
  • 水泳や体操など、身体を大きく反らせるスポーツ

(参考文献:http://www.fpnotebook.com/ortho/peds/LwBckPnInChldrn.htm

夜間痛がある場合は、椎体炎や骨髄炎、悪性腫瘍や骨芽細胞腫、骨肉腫などが疑われます。

実際にこれらの病気が見つかることはほとんどありませんが、万が一罹患していた場合は生命を左右することもある病気ばかりです。小さなお子さんは腰痛を自分で訴えることができないことも多いため、周囲の大人が、不機嫌で痛がっていたり、不自然な体勢をしていないかどうかチェックすることも大切です。

ストレッチする女性

海外で行われた興味深い複数の小規模研究を紹介します。ひとつは、慢性的な腰痛を持つ313人の対象者を156人ずつの2グループに分け、1グループには普通の治療(鎮痛剤の処方など)を、もう1グループにはヨガを行ってもらったというものです。

この2グループの3か月後、半年後、1年後の経過を比較したところ、ヨガを行ったグループのほうが、機能改善の度合いがよかったという結果が報告されています。

別の研究では、全228人を92人はヨガ、91人はストレッチ、残る45人は腰痛治療のための本を用いたセルフケアを行う3グループに分け、経過を追跡調査しています。これによると、ストレッチを行った群が最も経過がよく、次いでヨガ、最下位は本を用いたセルフケアの群であったと報告されています。

また、エクササイズをする際には、体を動かす「方向」も重要といわれています。2004年に報告された論文では、自身にとって快い・痛くないと感じる方向へと体を動かしたグループのほうが、動作の方向を意識せずにエクササイズを行ったグループよりも、痛みの改善度や機能の回復度、本人の満足度が高かったという結果が出ています。

この研究からもわかるように、腰痛の緩和を目的とする場合、ただやみくもに動くのではなく、自分自身にとって気持ちがよい、無理をしていないと感じられる方向へと体を動かしたほうがよいといえます。

近年では、急性腰痛に対するベッド上安静は、必ずしも有効とはいえないという認識が広がりつつあります。

ある急性腰痛の比較試験では、ベッド上安静をしていたグループと、可能な範囲で活動したグループの治療効果には、有意な差がなかったという報告がなされています。また、ベッド上安静をしていたグループと、リハビリを行っていたグループも同様に比較したところ、こちらも両者に差はなかったとの結果が出ています。急性腰痛において、ベッド上安静は必ずしも必要というわけではないのです。

腰に痛みがあるとき、「動いてしまったら余計悪化するのではないか」と不安を覚える方も多いものですが、急性期の激しい症状が軽減し始めたら、ご自身にとって耐えられる程度の活動を少しずつ開始することが望ましいといえます。

(参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=15495012

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