細菌性髄膜炎は抗菌薬を使用した治療を行わなかった場合は命に関わることがあります。細菌感染による髄膜炎なのか、ウイルス感染による髄膜炎なのか検査することはその後の治療や、お子さんに後遺症を残さないためにも重要です。髄膜炎の検査や治療について、前回に引き続き東京都立小児医療センターの福岡かほる先生に解説していただきます。
髄膜炎の検査では、菌血症(きんけつしょう:無菌であるはずの血液中に細菌が存在している)や原因菌の特定のために行います。炎症の程度も参考にします。
髄液検査を行う前に、頭蓋内に腫瘍などの異常所見がないかを検査するために頭部CT検査を行うことがあります。頭蓋内に腫瘍などがある場合には髄液検査ができないことがあるためです。
髄膜炎の診断に最も重要なのが髄液検査です。腰に針を刺し、背骨のなかにある脳脊髄液を採取します。脳脊髄液の細胞の数や細菌の有無を確認するため、脳脊髄液を培養します。平日の日中であれば即日で行える検査ですが、原因となる細菌を特定するには数日かかります。
髄膜炎は原因によって治療法が異なります。
髄膜炎の原因については記事1『子どもの髄膜炎の原因─予防は可能?』にて解説しています。
ウイルス性髄膜炎では、細菌性髄膜炎が否定された場合対症療法が中心となります。
ウイルス性髄膜炎で頭痛がひどい場合、嘔吐を繰り返す場合は鎮痛剤や解熱剤を処方します。
ウイルス性髄膜炎では、抗菌薬は効果がみられないため、細菌性髄膜炎が否定されれば抗菌薬は必要ありません。
細菌性髄膜炎の治療では点滴を使用した抗菌薬での治療を行います。
その際に使用する抗菌薬は原因菌によって有効なものが異なります。
また、合併症がある場合にはその治療も同時に行っていきます。頭の中に膿瘍を作っている場合には、抗菌薬が膿瘍まで届かない可能性があるため、外科手術を必要とすることもあります。
点滴による抗菌薬治療を行うため、原則として入院が必要です。ウイルス性髄膜炎と確定できれば、状態によっては自宅療養に切り替えることがあります。
細菌性髄膜炎では合併症の有無によって入院期間が長引くことがありますが、合併症がみられない場合には約2~3週間の点滴治療を行います。
自宅で看病を行う際には子どもを安静にさせてください。吐き気が強いこともありますので無理に食事を食べさせないようにしてください。その時には、水分をこまめにしっかりとらせるようにしてください。食事がとれない場合、塩分や糖分の摂取が少なくなっていることもあるので、スープなど塩分がとれるものも良いでしょう。食事がとれる場合には、好きなものを食べさせましょう。
髄膜炎は髄膜が炎症を起こしている状態のため、髄膜炎自体が周囲にうつることはありません。しかし、原因となる細菌やウイルスが人にうつる可能性はあります。
登園や登校は、子どもの症状が落ち着いてきた際にもう一度医療機関に受診してください。髄膜炎の原因には、法律で出席停止と決められた病気もあります。おたふくかぜは、耳下腺の腫れが出てきてから5日を経過するまで学校に行ってはいけません。医師が登園・登校可能と判断したら、子どもの体力が回復してきたタイミングで登園・登校を再開して構いません。
髄膜炎は定期接種や任意接種の予防ワクチンを行うことで原因となる感染症にかかるリスクを減らすことができます。髄膜炎はさまざまな感染症の合併症とされています。そもそもの原因の予防はもちろん、髄膜炎にかかっても早い段階での治療で後遺症や命の危険は回避できる可能性が高いといえます。
沖縄県立中部病院 小児科
福岡 かほる 先生の所属医療機関
WHO Western Pacific Region Office, Field Epidemiologist、東京都立小児総合医療センター 感染症科 非常勤
日本小児科学会 小児科専門医・小児科指導医日本小児感染症学会 暫定指導医米国感染症学会 会員欧州小児感染症学会 会員米国小児感染症学会 会員米国病院疫学学会 会員米国微生物学会 会員
小児患児に感染症が多いにも関わらず、それぞれの診療科が独自に感染症診療を行うという小児医療の現状を変えるべく、2008年トロント大学トロント小児病院感染症科に赴任。感染症症例が一挙に集約される世界屈指の現場において多くの臨床経験を積むとともに、感染症専門科による他診療科へのコンサルテーションシステム(診断・助言・指導を行う仕組み)を学ぶ。2010年帰国後、東京都立小児総合センターに小児感染症科設立。立ち上げ当初、年間200件~300件だったコンサルタント件数は現在1200件を超える。圧倒的臨床経験数を誇る小児感染症の専門家がコンサルタントを行うシステムは、より適正で質の高い小児診療を可能にしている。現在は後進育成にも力を注ぐ。
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