髄膜炎(ずいまくえん)は脳や脊髄を保護する膜である髄膜に炎症が生じる疾患です。さまざまな感染症の合併症として現れます。感染症には細菌感染とウイルス感染がありますが、髄膜炎の主な原因となる感染症はどのようなものが挙げられるのでしょうか。また髄膜炎の予防は可能なのでしょうか。今回は東京都立小児医療センターの福岡かほる先生に解説していただきます。
髄膜炎とは、脳や脊髄を保護する膜である髄膜に炎症が生じた状態です。脳膜炎(のうまくえん)や脳髄膜炎(のうずいまくえん)とも呼ばれます。髄膜炎は主に、ウイルス性髄膜炎と細菌性髄膜炎の2種類があります。
髄膜炎自体は周りにうつる疾患ではありませんが、ウイルスが原因の場合にはそのウイルスが周りへとうつることがあります。
生後1か月未満の赤ちゃんの髄膜炎は、主に細菌が原因です。日齢7までの生後早期に起こる場合と、それ以降の遅発性に起こる場合とがあります。生後早期では、産道を通った際に感染する(経産道感染)ことが多いとされています。遅発性に起こる場合、お母さんからもらった細菌が原因となることもあれば、日常生活の中もしくは入院中に細菌をもらうことで感染することもあります。
髄膜炎の発症経路は、主に鼻やのどなどから侵入した細菌やウイルスなどの微生物が血流に乗って髄膜へ侵入することで起こります。他にも、鼻・のどや皮膚に存在する原因微生物が髄膜と直接接触してしまう場合などでも、髄膜炎は起こります。
次章で、ウイルス性髄膜炎と細菌性髄膜炎について解説します。
ウイルス性髄膜炎の原因となるウイルスは多数あります。最も多いのは、エンテロウイルスなどで、主に夏に流行するウイルスです。ムンプスウイルスによる流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)や水痘(水ぼうそう)など、ワクチンによる予防接種で予防可能な感染症の合併症として発症することもあります。
髄膜炎の予防に関しては記事2『子どもの髄膜炎の予防─感染症の予防接種(ワクチン接種)が重要』にて解説しています。
先ほども述べましたが、ウイルス性髄膜炎の原因となるウイルスや疾患は多数あります。以下は無菌性髄膜炎の原因となるウイルスや疾患の一部です。ウイルス性髄膜炎の好発時期は、原因となるウイルスによってさまざまです。
夏に流行する、エンテロウイルス感染症の原因ウイルスです。手足口病(口のなかや手足などに水ぶくれができる)やヘルパンギーナ(発熱と口のなかに水膨れができる)の原因ウイルスとされています。
片側あるいは両側の唾液腺が腫れる、おたふくかぜの原因となるウイルスです。おたふくかぜにかかった人のうち、約5%(※1)がウイルス性髄膜炎を合併すると報告されています。
※1:Plotkin's Vaccines 第7版
発熱やかゆみを伴う発疹や水疱があらわれる水痘(水ぼうそう)の原因となるウイルスです。
インフルエンザを発症するウイルスです。予防接種も行われています。無菌性髄膜炎の合併頻度はまれです。
ウイルス性髄膜炎の場合、多くは後遺症なく回復します。ただし、予後についてはその原因ウイルスによって変わってきます。おたふく風邪を起こすムンプスウイルスでは、回復しない難聴の合併が少なくありません。水痘(水ぼうそう)では、稀に血管炎から脳梗塞などで脳に障害を残すことがあります。また、免疫が低下している状態では、どのウイルスでも通常より重症のことがあります。
髄膜炎の原因として、ウイルスのほかに細菌があります。細菌性髄膜炎は年齢によって原因となる細菌が異なります。
細菌性髄膜炎の原因となる細菌は多数ありますが、年齢によって原因となる細菌が異なります。
新生児(生後1か月頃まで)
・B群レンサ球菌
・大腸菌
・リステリア菌
乳幼児(5歳頃まで)
・肺炎球菌
・インフルエンザ菌b型
学童(6歳以上)
・肺炎球菌
・髄膜炎菌
新生児~乳児早期において、細菌性髄膜炎の原因としてもっとも多い細菌です。産道を通ったときなどに、お母さんが持っている菌をもらい、後に発症することがあります。肺炎球菌・ヒブが定期接種のワクチン導入に伴い減った一方で、B群レンサ球菌は承認されたワクチンがなく、減っていません。
小児では、主に新生児にみられる細菌性髄膜炎の原因菌です。お母さんが妊娠中に感染し、産道を通ったときなどに菌をもらい、後に発症することがあります。過熱不十分の食肉や非殺菌の牛乳、チーズなど乳製品を妊娠中に摂取することで、リステリア感染のリスクが高まります。
大腸菌は通常、腸管の中などに生息する細菌ですが、新生児では主にお母さんからの産道から感染して髄膜炎を発症することがあります。近年、通常使用する抗菌薬に耐性の大腸菌感染が問題になっています。
肺炎球菌は肺炎や中耳炎などの原因となる細菌です。現在は定期接種のワクチンが導入されたことによって髄膜炎の感染者数は減っていますが、ワクチンでカバーされない菌もあり、注意が必要な細菌に変わりありません。
インフルエンザ菌のb型(以下ヒブ)によってきたす髄膜炎があります。ヒブも定期接種のワクチンが導入されたことによって、感染者数は大幅に減少しました。名前に「インフルエンザ」とありますが、インフルエンザウイルスとは異なり、細菌になります。
日本では報告が少ないまれな細菌ですが、発症すると急激な経過で予後が悪いこともあります。発症が多い国に行く際には、任意接種のワクチンで予防することができます。
細菌性髄膜炎の後遺症の頻度は原因菌によって異なります。後遺症として、治療後にもけいれんを起こすことがあるほか、難聴や知的障害などが現れることもあります。
髄膜炎が重症化すると
など、全身状態が悪化します。この状態が続いた場合、命にかかわってきます。
細菌性髄膜炎の原因菌によって異なりますが小児における死亡率は約7%(※2)と高く、また後遺症が残ることも少なくありません。
※2:N Engl J Med 2011;364:2016-25.
髄膜炎の症状や後遺症については記事3『子どもの髄膜炎の症状─首を曲げたときの痛みに注意』にて解説しています。
髄膜炎の原因ウイルスや原因菌の一部は子どもの定期接種や任意接種で予防ワクチンがあります。こうした原因となるウイルスや菌の予防ワクチンを打つことで、そもそもの疾患にかかるリスクを回避することが髄膜炎の予防につながります。
髄膜炎の予防に関しては記事2『子どもの髄膜炎の予防─感染症の予防接種(ワクチン接種)が重要』にて解説しています。
沖縄県立中部病院 小児科
福岡 かほる 先生の所属医療機関
WHO Western Pacific Region Office, Field Epidemiologist、東京都立小児総合医療センター 感染症科 非常勤
日本小児科学会 小児科専門医・小児科指導医日本小児感染症学会 暫定指導医米国感染症学会 会員欧州小児感染症学会 会員米国小児感染症学会 会員米国病院疫学学会 会員米国微生物学会 会員
小児患児に感染症が多いにも関わらず、それぞれの診療科が独自に感染症診療を行うという小児医療の現状を変えるべく、2008年トロント大学トロント小児病院感染症科に赴任。感染症症例が一挙に集約される世界屈指の現場において多くの臨床経験を積むとともに、感染症専門科による他診療科へのコンサルテーションシステム(診断・助言・指導を行う仕組み)を学ぶ。2010年帰国後、東京都立小児総合センターに小児感染症科設立。立ち上げ当初、年間200件~300件だったコンサルタント件数は現在1200件を超える。圧倒的臨床経験数を誇る小児感染症の専門家がコンサルタントを行うシステムは、より適正で質の高い小児診療を可能にしている。現在は後進育成にも力を注ぐ。
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