髄膜炎とは、さまざまなウイルスや細菌が感染したことが原因となり、髄膜と呼ばれる脳の周りを覆っている膜(軟膜、くも膜、くも膜下腔)に炎症が起こる病気です。くも膜の下のスペースには髄液が流れており、これを調べることで髄膜炎かどうかを診断することができます。
免疫力の低い乳児は特にこの病気にかかりやすく、適切な治療が遅れると重い後遺症が残り、死に至ることもあります。
(1)感染している部位から直接髄膜へ侵入する場合
例:中耳炎や副鼻腔炎をおこした際、頭蓋骨の骨折、頭の手術(開頭手術)などで髄膜が露出した際に、外から菌が侵入することがあります。
(2)血液に菌が入り、髄膜へ侵入する場合(菌血症)
例:呼吸器疾患(肺膿瘍や結核など)、先天性心疾患、心内膜炎などをおこした菌が血流にのって髄膜まで運ばれてしまい、発症することがあります。
重要なことは、年齢が低い子ほど髄膜炎の症状がわかりにくいということです。
発熱、不機嫌、傾眠傾向(反応が悪く、うとうとしている状態)、頭痛、嘔吐、意識障害など様々な症状が見られ、さらに年齢によってその傾向は異なります。
髄膜炎とあわせて、けいれん発作、脳内の圧の上昇、脳神経麻痺、その他のウイルスや細菌感染などの症状(合併症)が見られる場合があります。
最近ではワクチンの導入や早期の診断・治療が可能になったことにより、髄膜炎にかかっても死亡する人の割合は減ってきました。それでも死亡率は約10%あり、約20%の患者さんに重い後遺症(難聴、精神発達の遅れ、けいれん発作、視力障害など)が残るといわれています。特に難聴は、髄膜炎の後遺症として最も多くみられるもので、その原因別にみると肺炎球菌性髄膜炎の30%、インフルエンザ桿菌の20%、髄膜炎菌性髄膜炎の10%と高い割合になっています。
髄膜炎を疑ったら、血液検査、尿検査など一般的な検査の他に、髄液検査が必要になります。髄液検査とは、くも膜下腔を流れる髄液に細菌がいるかどうかを検査するものです。患者さんの背中(腰の背骨の間)に針を刺して、髄液をとります。髄液の中の白血球数(炎症が起きた時に増加する細胞)が上昇している場合は髄膜炎を疑います。
その他にも、状態によっては頭部CTなどの画像検査が必要になることがあります。
髄膜炎は原因となる病原体により下のように大きく二つに分類されます。
いわゆる「バイキン」と呼ばれる微生物の中には、抗菌薬が効く細菌というグループと、効果がないウイルスというグループがあります。この病気は、患者さんの髄液の中に細菌がいるか、いないかで分類されます。
1.ウイルス性髄膜炎
髄液の中に細菌がいないので、無菌性髄膜炎とよばれるタイプの髄膜炎です。ただし、ウイルスは髄液の中に存在しており、これらが症状を引き起こします。
コクサッキーウイルスやエンテロウイルスなどのエンテロウイルス属が約80%を占めています。(その他:おたふくかぜの原因であるムンプスウイルス、ヘルペスウイルス)
症状はウイルス性も細菌性も同じです。ただし、ウイルス性は細菌性と比べると軽症で、けいれんや反応が悪くなることはほとんどなく、後遺症が残ることもほとんどありません。
髄液の中に細菌はいないので、通常は抗菌薬は必要ありません。
(例外:ヘルペスウイルスやインフルエンザウイルスが原因の場合は、それぞれのウイルスに効果のある薬が処方されます)
安静にすることや解熱鎮痛剤など、対症療法によって2~3週間で自然とよくなることがほとんどです。頭痛などの症状が強い場合は入院することもありますが、自宅で様子をみることもできます(状態によっては薬などの治療を追加する場合もあります)。
2.細菌性髄膜炎
髄液の中に、細菌がいる髄膜炎のことです。
5歳未満の髄膜炎については、約70%がインフルエンザ菌b型(ヒブと呼ばれる細菌で、インフルエンザウイルスとは異なります)と最多で、その次に肺炎球菌、髄膜炎菌が続きます。ワクチンが普及する前の日本では、毎年500~600人のこどもが細菌性髄膜炎にかかっていました。
ウイルス性髄膜炎よりも重症になることが多く、後遺症が残ることが多いといわれています。
細菌性髄膜炎が疑われた時点で、一刻も早く抗菌薬を注射する必要があります。そのため、場合によっては、髄液検査の前に投与する場合もあります。また、年齢や状態次第では、副腎皮質ホルモン(ステロイド)があわせて処方されることもあります。
髄膜炎の主な原因菌である、インフルエンザ菌b型(ヒブ)と肺炎球菌に対するワクチンが2013年4月から定期接種化されています。
ヒブ、肺炎球菌ワクチンは、感染力を持たない状態にした菌を接種する「不活化ワクチン」というタイプのワクチンで、最初は生後2か月の時に接種するよう決められています。
赤ちゃんは通常、生まれたばかりの時期には母親の免疫力を受け継いでいますが、生後2か月頃からその抵抗力が減り始め、生後6か月にはなくなってしまいます。
免疫力が下がってくる時期の乳児に起こる細菌性髄膜炎は、症状が特にわかりにくく、重症化したり後遺症が残ったりする可能性が高いことが特徴です。病気にかかる前に予防する最も確実な方法は、ワクチンの接種です。お子さんを守るため、必ず適切な時期にワクチン接種を受けましょう。
対象:生後2か月以上5歳未満のすべての小児が対象となります。
接種方法:上腕三頭筋(肘の上あたり)に皮下注射を行うことが一般的です。
【標準的なスケジュール】
【接種開始が生後2か月から7か月の場合】
【生後7か月を過ぎてしまったら?】
7か月を過ぎてからも接種は可能です。かかりつけの医療機関にお尋ねください。
このワクチンの接種により、髄膜炎と髄膜炎以外のヒブ(Hib、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型という細菌の略称)による感染症も防ぐことができます。この細菌は鼻やのどにいて、人から人へ唾液や鼻水などを介して感染し、肺炎や喉頭蓋炎、菌血症を起こします。 4回の接種でほぼ100%抗体(免疫)ができ、ヒブ感染症に対する高い予防効果があることが認められています。
対象:生後2か月以上5歳未満のすべての小児が対象となります。
接種方法:上腕三頭筋(肘の上あたり)に皮下注射を行うことが一般的です。
【標準的なスケジュール】
【ワクチンの種類の変更について】
肺炎球菌は90種類以上の種類(価)がありますが、中でもこどもに重症な病気を引き起こすことが多い価の肺炎球菌が選ばれ、ワクチンが作られています。2013年11月からは従来の7価が13価になり、予防できる肺炎球菌の種類が増えました。
※ 途中まで7価の肺炎球菌ワクチンを接種していても、今後定期接種を受けられるのは13価ワクチンのみになります。接種スケジュールはかわらないので、残りの回数を13価ワクチンでうけてください。
※ 7価の肺炎球菌ワクチンをすべて接種済みの人も、新しい13価のワクチンを接種することで、追加となった6種類の肺炎球菌について免疫をつけることができます。13価ワクチンを追加でうちたい場合、最後の7価ワクチンを接種してから8週間以上あければ、接種可能です。ただし、任意接種となり自費で受けていただくことになります。年齢や基礎疾患などによっても接種の推奨度が異なりますので、かかりつけ医などでご相談ください。
肺炎球菌は鼻やのどにいて、人から人へ唾液や鼻水などを介して感染し、ヒブと同様に、髄膜炎以外にも肺炎、中耳炎、菌血症を起こします。それらの感染もワクチン接種によって予防することが可能です。ただし、ワクチンに含まれていない型の肺炎球菌感染症は予防できません、ご承知ください。
海外では、感染症を起こしやすい4価の髄膜炎菌に対するワクチンが流通しています。しかし、髄膜炎菌による髄膜炎は日本ではまれであることから、日本ではまだ発売されていません(未承認)。
アフリカなどの髄膜炎菌が流行している地域に渡航する人や、免疫が正常に働かない病気をお持ちの方など、髄膜炎菌にかかりやすいリスクのある人に対しては接種が推奨されています。
ⅰ)まれな副作用:アナフィラキシー
アナフィラキシーとは、予防接種に伴うアレルギー反応で、全身のじんましんや呼吸困難などの呼吸症状、嘔吐・下痢などの消化器症状が現れます。これらはめったに現れることのない副作用ですが、重篤であり、すぐに医療機関で対応することが必要です。
アナフィラキシーが起こるのは、接種後5分以内が最も多いといわれています。
ⅱ)一般的な副作用:接種した部位の異変、接種後の発熱
不活化ワクチンの副作用の症状としては、接種した部位の赤み、腫れ、しこりと発熱がよく報告されています。
ヒブワクチンでは20~40%、肺炎球菌ワクチンでは60~75%の人に、通常24時間以内にあらわれる副反応です。特別な治療は必要なく、赤み、腫れは3~4日で消失します。しこりは1か月ほど残ることもありますが、次第に改善していきます。
ヒブワクチンでは2~4%、肺炎球菌ワクチンでは20~25%と、肺炎球菌ワクチンの接種後には比較的多くみられます。ほとんどが24~48時間以内にあらわれますが、通常は48時間以内に解熱するといわれています。
クーリング(患部を冷やす)などの対症療法を行い、全身の状態がよければ、自宅で様子をみることも可能です。ただし、48時間以上経ってから発熱したときや、48時間以上発熱が続いている場合、発熱以外の症状(ほ乳不良や不機嫌、風邪症状など)がある場合などは、副反応以外の原因で発熱している可能性があります。お近くの医療機関にご相談ください。
国立成育医療研究センター 小児医療系レジデント
国立成育医療研究センター 教育センター センター長/臨床研究センター 副センター長/臨床研究教育部長(併任)/血液内科診療部長(併任)
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