世界におけるC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)の持続感染者は1億7千万人、わが国では200万人存在するといわれています(推定)。このC型肝炎とはいったいどのような病気なのかご存知でしょうか。
このC型肝炎とは肝臓の病気ですが、原因となるウイルスが性交渉によって体内に侵入することもあるため、性感染症としても一面も持ち合わせています。我が国における性感染症治療の第一人者である尾上泰彦先生に、C型肝炎とはどのような病気なのか教えていただきました。
肝臓には三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)の「代謝と貯蔵」、体内に取り込んだアルコールや薬、有害物質、老廃物の「分解と排泄」、脂肪を消化に不可欠な「胆汁の生成と分泌」の3つの役割があります。この肝臓にHCVが侵入して起こる状態の総称がC型肝炎です。
C型肝炎は性行為によりHCVが体内に侵入することから、性感染症としての性格も有しています。C型肝炎で最も注意しなければならないのが、慢性化する率が高いことです。C型肝炎のうち62~77%、特に輸血が感染の原因となった方では80%以上が慢性化するともいわれています。
HVCが体内に侵入してから症状があらわるまでには2~3月かかります。急性の肝障害を起こしても、発熱や体のだるさ、食欲不振などの程度も軽く、また黄疸も出にくいです。そのために急性肝炎に気がつかないこともあります。しかしHCVが原因の急性肝炎を起こすと、62~77%の方が、6か月以上症状が継続する「慢性肝炎」を起こします。
慢性肝炎はその後10~15年「非活動期」を経ると、肝硬変・肝がんへと進行することがあ ります。
「HCV抗体」を測定して陽性反応が出た際には「HCV-RNA」を測定します。HCV抗体のみが陽性反応示す場合もありますが、これはかつて感染していたことを示しており治療の必要性はありませんが、HCV-RNAの検査で陽性反応が見られた場合には体内にHCVが存在すると考えられます。
HCVが原因の急性肝炎は30~40%が自然に治癒するため、安静を第一に食事療法や肝庇護剤の投与など経過観察を行うのが一般的です。しかし血清GPT値(トランスアミナーゼ)が300IU/Lを超える場合や、黄疸が認められる時には入院していただき経過を観察します 。 しかし2~3ヵ月経過しても症状の改善が見られないときには、慢性化の恐れがあるため早急な「インターフェロン治療」が推奨されています。
HCVが原因の急性肝炎は、HCV-RNAが陰性化すれば治癒したととらえることができます。HCVの再増加の可能性も考慮して、3ヶ月後に再度検査を行うよう日本性感染症学会のガイドラインに定められています。
実際に性行為等が感染原因となることは少ないのですが、近年我が国におけるC型肝炎患者数が減少傾向にあるため、HCVの感染原因に性行為等が占める割合の変動には注意が必要です。
また、HCVは母子感染を起こすこともあります。妊娠中の女性に対してHCV-RNA(HCVの遺伝子)検査を行ったところ、約10%の方に陽性反応を確認することができました。母子感染は生まれてきた赤ちゃんに持続感染を起こす原因となるために注意が必要です。
日本国内での感染経路としては、1992年以前の輸血やHCVが混入した血液製剤の使用、入墨や覚せい剤の注射針があげられます。検査体制の整備により、現在では輸血や輸入された血液製剤が感染源となる可能性はほぼないといわれています。HCVを保有している「キャリア」と呼ばれる方の血液が直接体内に入ることで感染するために、カミソリなど器具が使い捨てでない場合にも、感染の可能性があると考えられます。
プライベートケアクリニック東京 院長
尾上 泰彦 先生の所属医療機関
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