概要
MOG抗体関連疾患(以下、MOGAD)とは、免疫システムに異常が起こり、脳や脊髄、視神経といった中枢神経系のはたらきに支障をきたす病気です。私たちの体には、外部から侵入したウイルスや細菌などを攻撃して身を守る「免疫」という仕組みが備わっています。ところが、この免疫が何らかの原因で自分自身の組織を誤って攻撃してしまうことがあり、これを「自己免疫疾患」と呼びます。MOGADは自己免疫疾患の1つで、神経を保護している鞘(髄鞘、ミエリン)が攻撃されることでさまざまな症状が起こります。
従来この病気は、多発性硬化症(MS)や視神経脊髄炎(NMOSD)といったほかの病気の一部として扱われてきました。しかし、近年の医学研究の進歩に伴い「MOG抗体」と呼ばれる特定の抗体が関わっていることが明らかになり、現在ではMSやNMOSDとは異なる独立した1つの病気として認識されています。
原因
MOGADの発症には、「MOG抗体」と呼ばれる自己抗体(免疫システムの異常により、自分の体に対してつくられた抗体)が生成され、正常な組織を攻撃してしまうメカニズムが関係していると考えられています。このような免疫の異常によって自己組織を攻撃してしまう病気全体を「自己免疫疾患」と呼びますが、その詳しい原因はいまだに不明です。
MOG抗体の生成に伴う脱髄
私たちの神経細胞の軸索(神経信号を伝える突起状の組織)は、ミエリン(髄鞘)という脂質を主成分とする鞘に覆われています。ミエリンは、軸索を保護しつつ、神経の信号を正確かつ速やかに伝えるために不可欠なものです。
MOGADの患者さんの体内では、ミエリンの表面にあるMOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク)という物質を標的とする「MOG抗体」がつくられるため、ミエリンが損傷して軸索がむき出しになります。これを「脱髄」と呼びます。脱髄が起こると、神経の信号がうまく伝わらなくなり、さまざまな神経症状が引き起こされます。
症状
MOGADでは視神経(眼球に入ってくる光の情報を脳に伝達する神経)、脊髄(脳からつながり、手足に情報を伝えるための中枢神経)、脳を中心に炎症が起こります。炎症が起こる部位により、視神経炎、脊髄炎、急性散在性脳脊髄炎、髄膜炎、皮質性脳炎などが生じ、さまざまな症状が現れます。
視神経炎
視神経炎による視力障害はMOGADの患者さん全体のおよそ8割の方に見られる、頻度の高い症状です。視神経炎では、以下のような症状が現れます。
- 片目または両目の視力が急激に落ちる(視力低下)
- 視野の真ん中が見えない、視野の周辺が見えない(視野欠損)
- 色が薄く見える(色覚異常)
- 目を動かしたときに目の奥に痛みを感じる(眼球運動痛)
脊髄炎
脊髄(背骨の中を通る神経の束)に炎症が起こる「脊髄炎」はMOGADの患者さん全体のおよそ5割に起こり、特に成人での発症が多く見られます。MOGADでは、脊髄を横断するような形で広範に炎症が起きる「横断性脊髄炎」が多く、以下のような症状が現れます。
- 手足に力が入らない、歩きにくい(運動障害)
- 手足がしびれる、手足の感覚が鈍い、手足の痛み(感覚障害)
- 尿閉や頻尿、尿失禁や便失禁、便秘などの排泄機能の異常(膀胱直腸障害)
急性散在性脳脊髄炎(ADEM)
感染やワクチン接種などをきっかけに免疫系が反応して自分の組織を攻撃し、脳や脊髄の広範囲に多発的な炎症が起こります。子どものMOGADでは、ADEMを発症する症例が多く見られます。ADEMでは以下のような症状が現れます。
- 発熱
- 頭痛
- 吐き気、嘔吐
- 倦怠感
- けいれん
- 意識障害
- 視力障害
- 歩行障害
- 麻痺やしびれ
髄膜炎
髄膜(脳と脊髄の外側を覆う膜)を中心に炎症が起こる髄膜炎では、以下のような症状が現れます。
- 頭痛
- 発熱
- 項部硬直(首を前に曲げにくい状態)
- 意識障害
皮質性脳炎
大脳皮質と呼ばれる、脳の表面を覆う薄い神経細胞の層に炎症が起こると、以下のような症状が現れます。
- 頭痛
- 発熱
- けいれん
検査・診断
MOGADの診断には、2023年に示された国際的な診断基準が用いられます。その診断基準によると、脱髄による中核的な症状があること、MOG抗体検査で確実に陽性であること、ほかの病気の可能性を除外できること、という3つの条件を満たすとき、MOGADであると医学的に診断されます。診断の際には、以下のような検査を行います。
MOG抗体検査
血液または脳脊髄液を採取し、MOG抗体の有無を調べる検査です。MOGADの診断において必要な検査となります。
MRI検査
体の断面図を撮影する検査です。MOGADのMRI検査では、脳(頭部)や脊髄、視神経などの画像を詳しく確認し、病変の場所や範囲の特定、あるいはほかの病気との鑑別に役立てます。
髄液検査
背中に針を刺して脳脊髄液を採取し、細胞の数やタンパク質の量などを調べる検査です。ウイルス性脳炎などの他の疾患を鑑別します。
治療
MOGADの治療には、大きく2つの段階があります。1つ目は症状が現れて間もない急性期における治療で、早期に炎症を和らげ、神経障害の進行を抑えるという目的があります。2つ目は、急性期の治療を終えた後に再発予防を目的として継続的に行う治療です。
急性期の治療
症状が現れた急性期の段階(再発した症例を含む)で行われる治療で、具体的には以下の方法が検討されます。
ステロイドパルス療法
副腎皮質ホルモンであるグルココルチコイド(いわゆるステロイド薬)という抗炎症薬を、大量に数日にわたって点滴する方法です。これが急性期における第一選択の治療となります。
免疫グロブリン療法
免疫グロブリン製剤(人の血液から作られた医薬品で、さまざまな抗体が含まれる)を点滴して免疫のはたらきを調整する方法です。
血漿交換療法
血液を一度体外に出し、原因となっている抗体などを含む血漿成分を血液製剤である新鮮凍結血漿やアルブミン製剤などの他の液体に置換してから体に戻す方法です。ステロイドパルス療法の効果が見られない場合などに検討されます。
再発予防の治療
MOGADは、子どもの発症例では半数程度が再発せず回復の経過をたどりますが、大人の場合は再発を繰り返すこともめずらしくありません。再発をきっかけに後遺症が残ることもあります。一方で、MOG抗体が陰性に転じた症例では再発率が低いというデータもあります。そのため、再発予防の治療を行うかどうかは、患者さんの年齢や再発の有無、検査の結果などをふまえて総合的に判断されます。
再発予防の治療を行う場合には、以下のような薬を用いた治療を検討します。
経口グルココルチコイド(ステロイド薬)
飲み薬のプレドニゾロンなどのグルココルチコイドを用いた治療を行います。再び症状が現れないことを確認しながら、数か月以上かけて投薬量を徐々に減らしていきます。
免疫抑制薬
免疫の過剰なはたらきや炎症を抑えるための免疫抑制薬による治療を行います。再発を繰り返す場合などに検討されます。
間欠的免疫グロブリン療法
数週間ごとに免疫グロブリン製剤を点滴し、再発の予防を目指します。間欠的免疫グロブリン療法は、子どもでグルココルチコイドや免疫抑制薬の使用がためらわれる場合などに検討されます。
生物学的製剤
B細胞を標的とする生物学的製剤による治療が試みられているほか、IL-6のはたらきや、病気に関与する抗体を減らす治療法などの開発が進んでいます。
副作用への対策
治療薬、特にグルココルチコイドを長期間使用する場合には、感染症にかかりやすくなる、骨がもろくなる、血糖値が上がるといった副作用に注意が必要です。副作用を早めに発見して対策を行うために、MOGADの治療においては定期的な受診と検査によるモニタリングが欠かせません。
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